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姫君の鎮圧 ――かつて楽園と呼ばれた日本と、死神と呼ばれている男――  作者: 柊蓮
CHAPTER:チャプター〝7〟――
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〈エレジウム〉VS〈ReGion〉⑨

 廃工場の屋根の上にて、海馬の水の槍による猛攻撃を逃げ続けていたセレニアは、前にあった時と同じようにまた今回も、自分の体力の限界をどうしようかと考えていた。


 セレニアは、海馬からの水の槍の猛攻撃を避け続けていると、ふと、自分の意識の中に違和感を感じはじめた。最初は、過度な興奮からくる意識のノイズかと思ったが、次第にそうでないことに気がつく。そしてセレニアは、海馬の水の槍から逃げながら気づいた。


 もう他の五神人は全員やられてしまったのだ、と。


 そのことを頭の中で何度も反芻したセレニアは、思いついたかのように海馬に向かって突然叫ぶ。


「ちょっと待った!」


 だが、水の槍が海馬の背後から生成される際に聞こえる、水を圧縮でもするような音が辺り一帯に響いていて、そのセレニアの言葉は海馬には届かなかった。

 だがセレニアは一度舌打ちをした後、もう一度海馬に「ちょっと待ったぁっ!」と全身を絞るようにして声を出すと、今度はちゃんと海馬の耳に届いた。


 海馬は「どうしたっ!」と叫んだ。だがそう叫びながらも、水の槍を大量生成してセレニアにけしかけるのを止める素振りは一切ない。だが逃げ続けながらも、セレニアは自分が伝えたいことを伝える為に口を開く。


「どうやら、ボク達の負けが確定したようだっ!」


「どういうことだっ!」


「その言葉のままだっ! ボク達五神人は、ボクを除いて皆やられたんだよっ! 他の三人の生体反応がボクの意識から断絶されたんだっ! 何が言いたいのかというと、できるのであればボクはここから逃げたいっ! 戦う意志もないっ! だから、一度その水の槍を飛ばしてくるのを止めてくれないかっ!」


 セレニアは、大きく叫び唾を派手に飛ばしながらそう伝えた。すると、海馬はその言葉を瞬時に受け入れた。海馬は次の瞬間、水の槍を生成するのを止めた。


 すると、辺り一帯に響いていた水の槍の生成音が消え失せて、急激に周囲の音がありありと聞こえるようになった。だけど水の槍の生成が終わってもなお、その生成音は鼓膜にびっちりと染みついていて、もう存在していないのにもかかわらず頭の中で色濃く再生されている。


 セレニアは、ずっと逃げ続けていたことから、「ぜぇ、ぜぇ」と走り回った後の犬のような荒い呼吸をしながら一度その場に座り込んだ。体力を消耗したのは海馬も同じで、生成を止めるとすぐさま海馬もその場にしゃがみ込んで息を整えはじめた。


 だが、セレニアは何か嫌な気配でも感じたのか、すぐさまその場に立ち上がった。海馬に背を見せたセレニアは、今すぐにでもここから立ち去ろうとしている。


「もう行くのか?」


 海馬が訊いた。するとセレニアは、淡々とした口調で答える。


「あぁ、行かせてもらう。五神人もあとボク一人だけ。どうせこれで〈ReGion(レギオン)〉も終わりだから、ボクのことなんて追いかけようなんて思わないでね。ボクはこれから、昔の幸せをまた掴みに行くんだから。って、逃がす気ないならわざわざ攻撃止めたりしないか」


 セレニアはそのとき、嫌な気配が急速に近づいてきていることに気がついた。


 その嫌な気配を感じて、セレニアはまるで天敵に獲物にされた動物のような気持ちになった。

 心がざわめく。早くここから立ち去ってしまいたい。

 嫌な気配が近づいてくる。そうして、セレニアは気がつく。そして思わず、言葉が漏れる。


「まぁ、逃げるのはもう遅いようだけどね」


「なに?」


 突然そう呟いたセレニアに海馬がそう疑問を浮かべた次の瞬間、セレニアは背後を振り返って、いつの間にか海馬の背後にいる一人の男に向かって言葉を吐いた。


「他の五神人を殺したのは、君か」


 そこにいたのは、勿論レオだった。


 レオのことを視認したセレニアは、一度溜息を吐くと、まるで恨み節でも吐くかのような口調で、だが顔は諦めの表情をしながら呟くのだった。


「案外、終わるときって呆気ないんだなぁ……」


 次の瞬間、セレニアの両手両足がレオによって切り落とされた。


 目にも留まらぬ速さでセレニアの両手両足を切り落としたそのレオの動きを見て、海馬は一瞬自分の目を疑った。まるで弾丸でも背後から飛んできたのかと思うほどの速さでセレニアに近づき攻撃をしたレオの動きは、人間がしていい動きなのだろうかと海馬は心の底から思った。


 驚愕、ただそれ以外のなにものでもない光景に、海馬は同時に恐怖も感じた。


 (まばた)き一回すらしていないうちに両手両足を切り落とされたセレニアはというと、ドサッという音を立てながら四肢と胴体が地面に落ちると、何故かまだ死んでいるわけではないものの、まるで魂でも抜かれたかのように言葉一つ出す事ができなかった。



 そうして、全ての戦いが終了した――


 時間にして僅か三十分。人類と心の境界線を越えたアンドロイドの戦争と語っていいものか迷うほどに短時間で全ての戦いは終わった。


 レオが、ショッピングセンターで五神人と初遭遇した際に殺した、五神人のリーダーであったエスパニードも含めると、結果としては、五神人の全てをレオが倒したということになる。


 セレニアの言葉を借りるのであれば――案外、終わるときって呆気ない。

 それは人間の人生かもしれないし、こういった戦争とされるものもそうだ。

 まぁなんにせよ、これで全てが終わったということだけは事実なのだ。


 四肢を全て失ったセレニアの身体から、大量の血液が流れ出て血溜まりを形成する中、全てが終わったということを認識したのか、それまで普段とは違う異様な雰囲気を放っていて、ある種の加熱状態にあったレオも、その場にバタンと倒れて機能を停止した。


 そんなレオに海馬が近づくと、海馬はレオの身体を揺さぶって意識を確認した。どうやらレオは、意識を失っているようだった。


海馬は煙草とライターを取り出すと、火を点けて吸いはじめた。紫煙をくぐらせながら、海馬は青い空を見上げながら呟いた。


「加奈……お前の仇はレオが取ったよ。本当は俺が取りたかったけど、なんかレオは変なゾーンみたいなのに入ってたんだろうな。人間がしちゃいけないような動きをしてた。…………なぁ、加奈。もう一度逢いたいよ……」

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