表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姫君の鎮圧 ――かつて楽園と呼ばれた日本と、死神と呼ばれている男――  作者: 柊蓮
CHAPTER:チャプター〝7〟――
PR
49/61

〈エレジウム〉VS〈ReGion〉⑧

 廃工場の中には、もう既に意識を失っているユキと、もうすぐ遊佐に意識を奪われそうな穂乃果と、今すぐにでも穂乃果の意識を奪ってやろうと頭に血が上っている遊佐の、三人の女がいた。


 遊佐は息が絶え絶えになりながら、足下の穂乃果を見下ろしながら、頭から血を流しながら、切り落とされた右腕から血をボタボタと垂らしながら、言った。


「案外やるじゃんあんたら。でも、もうこれで終わり」


 次の瞬間、遊佐は足下の穂乃果の顔面に向かって左腕を振り下ろした。   


 だがその左腕は、穂乃果の頭を砕く寸前で切り落とされた。


 突然自分の左腕がまるで魔法のように切り落とされたことに、遊佐は強烈な戸惑いの表情を浮かべながら、切られた左腕の痛みも相まって「うっ」という呻き声を出しながらその場にしゃがみ込んでしまった。


 こうして両腕が切り落とされたことになった遊佐は、直視に堪えない見るも無惨な姿になった。右腕のみならず今切られた左腕からも流れ出る血液に、遊佐は自分の敗北を確信した。だが、死ぬ前に、自分の左腕を切り落とした人物を一目見ておきたいと思った遊佐は、周囲を見渡した。


 すると、いつの間にか自分のすぐ側に一人の男の姿があった。


 そいつがレオであることに遊佐はすぐさま気がつくと、思わず「なんで即死させてくれないんだ……」と、弱々しい口調で呻いた。このときばかりは遊佐も、普段ならわざと消すように努めている女っ気が出た。慈悲や優しさを求める、戦士としてのプライドもクソもない女としての本能が。


 こういう死を目の前にした状況になって初めて遊佐は、自分がどう足掻いても〝女〟という自分の属性から逃げられないことを悟った。こういうときに慈悲を求めるのは、戦士失格だ……。そう思いつつも、自然と慈悲や優しさを求めてしまう自分がいるのだ。


 大量出血によって意識が途切れた遊佐は、その場にバタンと倒れ込んだ。


 遊佐は、放っておいても必ず死ぬ。


 両腕が切られ、地面に倒れ込み、進行形で大量の血溜まりを形成している存在が、これからどう逆転するというのだ。遊佐は、放っておいてもどう足掻いても必ず死ぬ。そんなルートに乗ってしまっている。のにもかかわらず。


 レオは、地面に倒れ込んだ遊佐に近づくと、背中を見せて倒れ込んでいる遊佐のその背中に向かって、ニトロスマイルをぶすっと突き刺した。


 それはまるで『ほら、望み通り殺してあげたよ』とでも言うかのような剣(さば)きであった。


 そうして、遊佐が死に、レオがニトロスマイルを遊佐の身体から引き抜くと、意識を辛くも保っていた穂乃果が目を開いて口も開いた。


「あり、がとう……」


 地面に転がっている穂乃果は、今にも死んでしまうのではないかというほどにか細くそう呟くと、レオを見上げながら微笑を浮かべた。穂乃果の顔は砂埃や返り血などが付き、髪もぐしゃぐしゃでいつもの姿とは全然違う印象を与えていたが、それでも穂乃果のその微笑はとても柔らかく愛らしいものだった。


 そんな穂乃果の微笑を、レオはしっかりと見つめていた。だが、レオはそんな穂乃果の微笑に、なんの言葉を返すでもなく、同じように笑みを返すでもなく、ただ虚ろな冷たい目つきをして、ただ穂乃果のことを眺めているだけだった。


 そんなレオの姿に、流石の穂乃果でも違和感を覚えた。人間味がどこかへ行ってしまったようなレオの威圧感のある佇まいに、穂乃果は素直に恐怖の感情を感じた。だが、そんな穂乃果の感情など興味もない今のレオは、これまでと同じように、足下の穂乃果など無視して次の場所へと向かった。


その場を立ち去るレオの速度は、穂乃果の目には捉えきれないほど迅速であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ