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姫君の鎮圧 ――かつて楽園と呼ばれた日本と、死神と呼ばれている男――  作者: 柊蓮
CHAPTER:チャプター〝7〟――
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〈エレジウム〉VS〈ReGion〉④

 ユキと穂乃果は、遊佐にターゲットにされた。


 二対一という数的不利な状況を、遊佐は自ら望んだ。だがそれは二人のことを舐めているだとかそういうことではなく、遊佐からしたら、ユキと穂乃果二人合わせても自分には勝てないという現実がただ純粋に見えたのだ。


 三人は、様々な工場設備が所狭しと張り巡らされている廃工場内を戦場とした。


 自分達三人以外には誰もいなくなった廃工場内は、凄く広く感じられる。ユキの手には星輝剣(ライトセーバー)が、穂乃果の手には電子銃(エレキガン)が握られていた。そして対する遊佐は、何も武器を持たず自分の身一つで戦う意思を見せている。


 遊佐は、二人それぞれとの距離を推し量る。ユキは地面に降りて自分とほど近い距離にいるものの、穂乃果はいくつか積まれた高いコンテナの上にいるため、遊佐はまずユキから攻撃を仕掛けることにした。その際も、遊佐は電子銃(エレキガン)を手にしている穂乃果からの射撃に注意する。


 そうして、女三人の戦いが始まった。


遊佐はその場から勢いよく走りユキに急接近すると、まずユキの頭目がけて左腕を振るった。だがユキはその左腕を柔軟な動きで避けると、手にしている星輝剣(ライトセーバー)をそのままの流れで遊佐に振るう。だが遊佐もその星輝剣(ライトセーバー)を避けると、遊佐はその場から素早く後ろに退き距離取った。


 そんな遊佐に今度はユキの方から急接近すると、ユキは身を屈めたかと思えば、遊佐の足首狙って剣を振るった。すると遊佐はその足元の攻撃に対し、まるで大縄でも飛ぶかのようにジャンプをして躱した。そして遊佐は、着地と同時に身を屈ませているユキを蹴っ飛ばした。ほんの少しだけ遠くにユキを蹴飛ばした遊佐は、背後からの気配に、機敏に身をこなして穂乃果からのエネルギー弾を避けた。


 これは戦う前から分かっていたことだが、やはり遠距離の横槍を入れられると戦い辛いなぁと、遊佐は思った。だから遊佐は、少し遠くに蹴飛ばしたユキから視線を外し、まず遠距離攻撃を仕掛けてきている穂乃果の方を先に倒すことに決めた。


 遊佐は、人間には到底叶えられないような脚力で高く積まれたコンテナの上にいる穂乃果に向かって走り始めた。すると背後のユキから「お前の相手はユキちゃんやぁ!」という言葉が飛んできたが、遊佐はそんな戯言など無視して真っ先に倒せそうな奴から倒しに行った。


 目線で捉えた穂乃果が、自分から距離を離そうとコンテナを降りて遠くへ逃げ始めているのが遊佐に伝わる。だが遊佐は、事前にFから教えてもらったこの廃工場内の情報を頼りに、最短ルートで穂乃果との距離を詰めにかかる。廃工場内にある沢山の工場設備を競技パルクールのように柔軟な身のこなしで躱していく遊佐は、まるで流体なんじゃないかと思ってしまうほどの身の軽やかさをもっていた。


 機械を躱し、壁をいなし、複雑怪奇な工場内を奥へ奥へと進んで行くと、そうして遊佐は穂乃果の背中を直接捉えた。穂乃果は無我夢中でただ前へ前へと走っており、遊佐がすぐ近くまで近づいて来ていることに気づいていないようだった。


 そうして穂乃果との距離をゼロにした遊佐は、穂乃果の腕を思いっきり引っ張った。すると穂乃果はその場に派手に転倒し、次の瞬間、遊佐は穂乃果の腹に一発拳をお見舞いした。


 穂乃果の口から血と(よだれ)が溢れる。殴られた穂乃果は、腹を抱えて地面をのたうち回りはじめた。


 そして遊佐は、そんな穂乃果に追撃の一手を繰り出そうとした、そんなところで、背後から急激に近づいてくる気配に気がついた。それがユキであることは自明で、だから遊佐は足下の穂乃果は一旦置いといて、ユキを迎え撃つ体勢を取った。


 五秒後、実際にユキが目の前に現れると、遊佐はユキの星輝剣(ライトセーバー)に注意深く意識を向けた。


それは、たった数分ではあるが実際に目の前で剣を振るうユキを見て、自分の身体を使った肉体的な攻撃よりも、その星輝剣(ライトセーバー)による攻撃の方が実際に自分にダメージを与える可能性が高いと判断したからだ。蹴られたり殴られたりするよりも、星輝剣(ライトセーバー)による切りつけの方を遊佐は回避するように意識をもった。


 だがそれは、間違いだった――


 やっと遊佐に追いついたユキは、目の前の遊佐の視線を見て、このまま普通に剣を振るってもやはり通用しないだろうと結論づけた。それほどまでに、遊佐の視線というはユキの星輝剣(ライトセーバー)に釘付けだった。


 だからユキは、普通であれば絶対にやらないような方法で遊佐を出し抜くことにした。


 次の瞬間、ユキは自分と遊佐との間の空間に、そっと、星輝剣(ライトセーバー)を宙に放り投げた。


 自重により落下していく星輝剣(ライトセーバー)に、遊佐の視線もつられて落ちていく。それは僅か一秒ほどの短い時間での地面への到達であったが、星輝剣(ライトセーバー)が一秒ほどの時間をかけて地面に落ちると、その間にユキはズボンの後ろポケットに入れていたもう一本の星輝剣(ライトセーバー)を取り出して起動させ、遊佐の右腕を切り落とした。


 遊佐は、自然と視線が星輝剣(ライトセーバー)に向かっていたため、ユキ自身の方には意識が全く向かなかった。宙に手放された星輝剣(ライトセーバー)が一秒ほどの時間をかけて地面に落ち、そうしてユキ自身に視線を戻したとき、そうして初めて自分の右腕が切り落とされていることに気がついた。


 遊佐は切り落とされた自分の右腕から溢れ出る血液を見た途端、急激に自分の身体が重く感じられはじめた。そうして遊佐は一瞬身体がグラッと揺らぎ、だが完全に転倒することはなく、その場になんとか踏みとどまった。遊佐の精神力は、異常に高かった。


 そして次の瞬間、遊佐はユキの顔面に強烈なパンチをお見舞いした。


 ドンッ、という鈍い音が聞こえ、ユキは一瞬にして意識が飛んだ。ユキはそのまま地面に倒れ込んだ。


 倒れ込んだユキの意識が飛んでいることは、遊佐からしたら一目で分かる事で、だから遊佐はまだ意識が残っている穂乃果の方を追撃するべく――いや、穂乃果がどこにも見当たらない。


 遊佐は、一瞬自分の目を疑った。穂乃果の腹に一発打ち、そして背後からきたユキを対処しようと穂乃果から目を離したのはほんの一瞬のことだ。自分の腕が切り落とされてから、ユキの顔面を殴るまでもほんの数秒。この一連の流れは、絶対に一分もかかってない。


 じゃあ穂乃果はこの一分未満の間に、どこへ逃げたのか。遊佐は周囲を見渡すが、やはり穂乃果の姿は見当たらない。この場にいても絶対に穂乃果を見つけ出すことはできないと思った遊佐は、その場を離れ高く積まれたコンテナの上に素早く移動した。

 高く積まれたコンテナの上からは、この廃工場全体が明瞭に見える。遊佐は、そんな場所から工場全体を見渡す。だけど、やはり穂乃果の姿は見つからない。


 不意に、遊佐は背中にチクッと痛みを感じた。すると次の瞬間、少しタイムラグがあったのち、遊佐は強烈な痺れを全身に感じて高く積まれたコンテナの上から地面へと落ちてしまった。


 遊佐が地面へ落ちる音は強烈だった。その音を聞いただけでも聴衆の身体に痛みが走りそうなほど強烈な落下音。勿論それほど大きな音が立ったならば、その音を出した遊佐の身体は酷くダメージを負うはずだ。


 それを確認しに、物陰に隠れていた穂乃果は、物陰から出て地面に転げ落ちている遊佐に近づいて行った。穂乃果は恐る恐る、ゆっくりとした足取りで地面に転がっている遊佐の身体に近づく。地面に転げ落ちている遊佐の身体はうつ伏せになっていて、死んでいるようにも見える。

 遊佐の身体に、ほど近い距離まで近づいた穂乃果は、手に持っている電子銃(エレキガン)のモードを、さっき遊佐に撃った〝遅効針〟モードから、〝最強(エネルギー弾)〟モードに切り替えた。

 そうして穂乃果は、遊佐を殺すべく電子銃(エレキガン)のトリガーを引いた。


 だがそれは遊佐に避けられた。


 突然その場に起き上がり至近距離でエネルギー弾を避けた遊佐は、起き上がったそのままの身体の流れで穂乃果の頭を鷲掴みし、地面へと勢いよく突き落とした。


 遊佐は息が絶え絶えになりながら、足下の穂乃果を見下ろしながら、頭から血を流しながら、切り落とされた右腕から血をボタボタと垂らしながら、言った。


「案外やるじゃんあんたら。でも、もうこれで終わり」


 次の瞬間、遊佐は足下の穂乃果の顔面に向かって左腕を振り下ろした。

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