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姫君の鎮圧 ――かつて楽園と呼ばれた日本と、死神と呼ばれている男――  作者: 柊蓮
CHAPTER:チャプター〝6〟――
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着弾④

 グラン・タワービルにてアルス姫との邂逅の後、廉斗と春次と共に廃棄されたコンビナートに戻った海馬はその後、眠ることができず、心がなんだか落ち着いてはいなかった。


 海馬は一日中廃棄されたコンビナートや皇祭の研究所、そしてレオの眠る個室辺りをグルグルグルグルと何度も往復し、自分の不安を誤魔化していた。海馬の不安というのは〝甘臨〟に関することであり、甘臨の所在や生存が確認できないとなっては、休むにも休めなかった。


 そんな海馬は、ふと思いつきを得た。それは、このことを皇祭に相談すればいいという至極単純なことであり、だがここ数時間の海馬からすれば、そんな単純な思考すらできなかったのである。

 研究所で何かの作業をしていた皇祭に海馬が相談の旨を伝えると、皇祭はすぐさま作業の手を止めて海馬に向き合った。


 研究所の隅のソファに二人は腰をかけると、海馬は言った。


「グラン・タワービルでのあれこれは、帰ってきてすぐ俺や廉斗が話した通りだが、一つ言い忘れていることがあった。そしてそれは、甘臨についてのことなんだが……」


「ほぉ、甘臨がどうかしましたか?」


「グラン・タワービルでは、甘臨の姿が確認できなかったんだ。勿論甘臨のことだ、一人でさっさと安全な場所に避難している可能性もある。普段ならな。……だが、今は状況が状況だけに、この研究所に来ていないだなんて少しおかしいと思ったんだ。少なくとも、何もないのであればすぐにでもここに来るはずだと思うんだ」


「でもあの子のことです。こういう非常事態の時こそ突飛な行動をしてしまったりもする」


「それなら別にいいんだが。でも俺は、ひとつ現実的な懸念を抱いてる。それは、アイツが誰かに監禁されているかもしれないってことだ」


 すると、その〝監禁〟という言葉を聞いた途端、皇祭の顔が少し険しくなった。


「……それで、甘臨は誰に監禁されている可能性があると?」


「〈ReGion(レギオン)〉だ」


 皇祭はコクコクと細かく何度も頷いて、「確かに」と呟いた。


「確かに、甘臨の存在の大きさを考えるに、あちらが甘臨を拉致監禁することがあっても自然です。でもそれはつまり同時に、甘臨がこの廃棄されたコンビナートの場所を吐いてしまう可能性が大いにあるということも意味します」


「どういうことだ?」


「甘臨は、痛いのが嫌いです。それは、注射針を見ただけで明らかに顔色が悪くなるほどです。だから、拷問でもされていたら、〈ReGion(レギオン)〉に確実にこの場所のことを吐いてしまうでしょう。〈ReGion(レギオン)〉がグラン・タワービルを襲撃した目的というは分かりませんが、この場所がバレるということは、それ即ち心の境界線を越えたアンドロイドに対抗する為の技術や知恵が失われかねない可能性があるということです」


「じゃあ、この研究所だけは絶対に護らないといけないか」


「そうなります。ですが、そのようなこの場所での大規模な戦闘が想定される有事を想定して、彼らに対抗する手段を勿論私は開発しています。勿論それは実戦でどれだけ通用するものかは分からないですが、もし仮に〈ReGion(レギオン)〉が心の境界線を越えたアンドロイドを大勢引き連れてここに攻めてくるようなことがあっても、そう易々とは陥落しないでしょう」


「頼もしいな」


「彼らの生みの親として、私は自らの子に引導を渡さねばなるまい。その為に、この十数年があったんだ。ですが、甘臨の監禁の話に関しては、残念ながら我々にできる事はないと言えます。そもそも、〈ReGion(レギオン)〉の本部すら見つけられていないんです。甘臨の所在など、見当もつかない。我々には、甘臨の生存をただ祈っておくことしかできませんね……」


 皇祭のその言葉に、海馬はズボンのポケットから煙草とライターを取り出しながら呟いた。


「あぁ、分かった」

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