着弾
華征は、たった一人で廃棄されたコンビナートに向かっていた。
そして実際に、廃棄されたコンビナートのすぐそばまで歩いてきた華征は、自分の位置情報がFに知られているとは露知らずに、廃棄されたコンビナートの入口まで到着してしまうのだった。
華征が何故廃棄されたコンビナートに来たのかというと、それは約一週間前のレオの言葉が原因だ。約一週間前、焔皇祭に会ったあと、湯田を殺す計画を実行する前日に、レオは華征にこのような事を告げていた――『俺がお前に三日会わなかったら、ここへ来てくれ』そう言いながら、レオは廃棄されたコンビナートの位置を華征に知らせていた。
廃棄されたコンビナートの入口には、ユキと穂乃果が居た。
二人と目が合った華征は、二人が〈エレジウム〉のメンバーだということを知っていた。その為、華征は二人に近づいて自分が来た理由を話した。
「あのぉ、レオ様にココに呼ばレテ来たンですけド~……レオ様はどこデスか?」
二人は戸惑った。それは、華征が前が見えてんだか見えていないんだか分からない前髪をしているからではなく、レオがアンドロイドを持っているということを知らなかったからだ。自分達でも持っていないアンドロイドを、外国人であるレオが持っているわけないと思った二人は、その華征の言葉を信じることができなかった。
「ええと……それホンマかい?」
ユキが困惑の表情を浮かべ頬をポリポリと掻きながら言うと、華征は無邪気に首をブンブン縦に振って肯定した。
それでも信じることができなかったユキは、穂乃果の方を見ると、穂乃果は腕を組みながら無表情で答えた。
「とりあえず、アイツに持っていけば? なんか分かるかもしれないよ」
「アイツ? ……あぁ、皇祭さんね。確かに、ほならそうするか」
なんだかよく分からないけど中に入れてもらえることになった華征は、嬉しそうな顔をしながら突然ユキと穂乃果の手を握った。二人はそんな華征に驚きながらも、妹みたいで可愛いと思った。皇祭の隠れ家兼研究所に着くまでの間に、ユキと穂乃果は華征に色々な質問をした。
「なぁ……ホンマにレオ君が華征ちゃんの主なんか? レオ君が主なら、グラン・タワービルでユキちゃん達が華征ちゃんのことを見ないはずないやん」
「マスターの部屋にずっと閉じ込められてマシた。できるダケ人と会わないコトを求められマシた」
「ほーん……なんでや?」
「分かりマセん」
「……まぁ、それも全てアイツのところに持ってったら分かるでしょ」
そう穂乃果が会話を切ると、目的地に辿り着くまで三人の間に会話は交わされなかった。
皇祭の隠れ家兼研究所に辿り着くと、ユキと穂乃果の他に一人知らない奴が混じっている状況に、皇祭は綺麗な二度見をした。皇祭は華征のことを一発でアンドロイドであると見抜くと、華征を見るユキと穂乃果二人の視線の雰囲気から、なんとなく状況を把握した。
「レオ君が自分の主だって言ってます」
ユキが皇祭にそう伝えると、皇祭は一瞬悩む素振りを見せてから、何か合点したような表情に変わり、華征を部屋の中央にある手術椅子に座るよう言った。華征は流されるままに手術椅子に座ると、思い出したかのように言った。
「あの! イタイですか?」
「痛くはないよ。神経ポートを通して君の基本情報を確認するだけだから……OK?」
「それならイイですヨ。座ってるダケでイイですもんネ」
「あぁその通りだ」
華征がちゃんと手術椅子に座ったことを確認すると、皇祭は手術椅子をゆっくりと倒し、華征に深呼吸を促した。華征の脈拍が落ち着き安定すると、皇祭は手術椅子に内臓されている一本のケーブルを取り出し、それを華征の首元にある神経ポートに差した。
すると次の瞬間、この隠れ家兼研究所に沢山あるモニターのほとんど全てが、瞬時に神経ポートに繋がれたケーブルから送られてきた華征の基本情報を映し出した。
個体番号、稼働時間、これまでのアップデートの履歴など、様々な基本情報がモニターに映る中、あった。華征の〝主〟に関する項目に目を通した皇祭は、華征の主がちゃんとレオであることを確認した。だがそれと共に――
「華征、君は記憶障害を抱えているね。どうしてだい?」
華征の記憶に歪な痕跡が残されていることに皇祭は気がついた。
首元の神経ポートにケーブルを繋がれて、手術椅子に気持ち良さそうに横たわっている華征は、目を瞑りながらリラックスした声で言った。
「分かりマセン……」
――分からない、か……。でも確かに記憶に関して歪な痕跡が残っていることは確かだ。普通であれば起こるはずがないアンドロイドの記憶障害……普通じゃないことがこの子には起こっている。科学を科学で説明できない時は、それは大抵創造者の仕業だ。けれど、記憶を弄れる創造者なんて知らないぞ……?
皇祭は軽く考え込んだものの、答えが出なかった。
まぁこれ以上考えても仕方がないことだと思い、皇祭は華征の神経ポートに繋がっていたケーブルを抜いて手術椅子に戻した。そして手術椅子を起き上がらせた皇祭は、華征に訊いた。
「ところで君は、なんでここに来たのかな?」
「えっと、ソレは、マスターがここに来いって……」
「ほぉ、なんで来いって?」
「ワカリマセン。こっちが知りたいデス」
「まぁいい……誰か、この子をレオ・アルバトロスの部屋まで連れていってくれ」
その言葉が部屋中に響き渡ると、研究員の一人が、華征をレオが眠っているレオの部屋に連れて行った。レオの部屋は、隠れ家兼研究所から少し遠く、長い一直線の廊下を少し進んだとろにあった。長い一直線の廊下の左右には沢山ドアがあり、そのほとんど全てが現在は居住スペースとなっている。研究所を一歩出ると、元コンビナートということもあってか、壁や床などその全てが無機質で、冷たかった。
研究員の一人に案内され、レオの部屋の前まで辿り着いた華征は、さっそく部屋のドアを開けた。そこには、見るからに寝心地の悪そうな細い骨組みのベッドで眠っているレオの姿があった。華征は起こさぬようゆっくりとレオに近づくと、近くにあった古びた椅子に座った。
「マスターァ……大丈夫デスかぁ……?」
優しい声で呟いた華征だったが、レオが起きるようなことは勿論なく、レオは寝息ひとつ立てずに綺麗に眠っていた。すると華征は、先ほど、研究所を後にする際に皇祭が言ってきた言葉を反芻した――『気を失ってからもう三日だ。いつ起きるかなんて誰にも分からない。健康状態も全て問題なく、ただ意識を失っていること以外なんら問題がないんだ。……だから、その、少しでも早く目醒めるように君も祈ってくれ』
華征は、眠っているレオの片手を自分の両手で握った。
機械仕掛けの身体で、人間がするように、華征はレオに温もりを与え続けることにした。
握っているレオの手に華征はキスをし、自分の額にあてると、何故だか自然と涙が流れていた。
「マスターァ……早く起きてくだサイよぉ……」
華征は全身全霊の祈りを捧げたが、レオは未だ眠ったままだった。




