表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姫君の鎮圧 ――かつて楽園と呼ばれた日本と、死神と呼ばれている男――  作者: 柊蓮
CHAPTER:チャプター〝5〟――
PR
31/61

全部滅茶苦茶④

 藍沢那奈はグラン・タワービルにて、突如として現れた何者かによる襲撃を受け、防衛戦を強いられていた。


 襲撃を受けてすぐ、那奈は様々な外部組織の、創造者かどうかは問わない多様なメンバーを招集し、それを指揮する立場に立った。グラン・タワービルは日本政府外部組織の本部である。故に招集してから明確な指揮系統を築くまでは一瞬だったが、那奈達は襲撃者に対して苦戦を強いられていた。


 招集され那奈の指揮下にある外部組織の人間は、もう既に全員が那奈からの指令を受けており、各々が指令に従って任務にあたっていた。そのため、現在那奈の近くにいる外部組織の人間は、那奈の護衛を務める――〝静電気の覚醒者〟である〝嵐山〟と〝針の覚醒者〟である〝鎌田〟の二人だけだった。


 五十階建てのグラン・タワービルの四十階、管制室のあるフロアの廊下に佇んでいた那奈は、逐一各地に散らばっている外部組織の人間達の報告を聴きながら、頭の中で戦況を整理していた。待っているだけほど大変なこともないなと那奈は思った。だが……現場で実際に戦っている人間達に比べれば、自分がいるこの四十階という場所は安全地帯にも程があると思い、一瞬にして思考を訂正した。


 那奈が各地から飛んでくる戦況確認を整理し、嵐山と鎌田が暇そうにしゃがみながら雑談をしていた、そんなときだった。


 コツ……コツ……コツ……。


 どこからともかく、足音が聴こえてきた。 

 足音を三人は同時にキャッチすると、しゃがんでいた嵐山と鎌田はその場に立ち上がり、それまで怠そうにしていた態度を一変させた。二人が身体に力を入れ、戦闘に備えるのを見て、那奈も自然と身体に力が入った。


 足音は廊下の奥から聴こえており、どんどん三人の元に近づいてきている。


 足音のリズムは一定だった。そのことから、足音の主は一人でこの場所まで来たということになる。この四十階への進入は、当たり前だが外部組織の人間しかできない。グラン・タワービルの本体とも言える機能は、グラン・タワービルの三十階から上の位置に存在している。そのため、この四十階への進入には許可証がいる。だが、許可証云々関係なしに、それが外部組織の人間の足音ではないということは明らかだった。


 外部組織の人間は二人以上で行動している。たった一人でこの場所へ来ることなどなく、あったとしても一人で戻ってくる際には連絡をするように命令している。つまり……。

 そうしている間にも足音は一定のリズムで三人の元に近づいていっていたが、足音は一度、廊下の角、L字になっている曲がり角のところで鳴りを潜めた。


 廊下の奥、L字になっているその曲がり角を三人は凝視する。


 たまたま止まったのか、それとも曲がり角の先にいることがバレたのか。三人は様々なことを考えたが、思考の答えが出るよりも先に足音の主はL字の曲がり角を曲がった。

 廊下の先、遠くにではあるが足音の主と顔を見合わせた那奈は、足音の主の正体に驚きの表情を浮かべた。


 それは五神人のセレニアだった。


 死んだ――と、那奈は思った。

 セレニアに対して、嵐山と鎌田では絶対に対抗できない。だが、嵐山と鎌田を見ると、二人はどうやら戦う気満々のようだった。

 馬鹿じゃないの? そう思った那奈であったが、戦闘は間髪入れずに始まった。


静電砲(せいでんほう)ッ!」


 静電気の覚醒者である嵐山は、指をパチンとセレニアに向かって鳴らし静電気の弾を飛ばした。静電気による硬直を狙った。静電気の弾は確かにセレニアに届いた。セレニアの身体を捉えた――その実感が嵐山には確かにあった。


 だが、セレニアは一切ダメージを受けていないような素振りを見せた。それに硬直も受けておらず、逆に気持ちが良いと言わんばかりに微笑を浮かべた。

 焦りを見せた嵐山をよそに、針の覚醒者である鎌田は硬直させられなかったことなど問題ないと言わんばかりに攻撃を繰り出した。


八熱(はちねつ)の針ッ!」 


 セレニアの左手側の壁の中から巨大な針が出現した。地獄の底からやってきたその針はセレニアに向かって勢いよく向かった。だがセレニアはそんな巨大な針を予想通りとでも言うかのように難なく避けてしまった。


 そして次の瞬間だった――


虚ろの絶頂(ホロウ・ショット)ッ!」


 三人が瞬きをする間もないほど刹那、廊下の奥から小さな真っ黒い球が飛んできた。


 その小さな真っ黒い球は、小さなブラックホールだった。その小さなブラックホールが三人の元へ急襲すると、その小さなブラックホールはまるで意志を持っているみたいに近くにいた嵐山と鎌田を襲った。


 その際、小さなブラックホールはその丸い形状を失い、真っ黒い〝手〟を生やした。その生やした〝手〟で嵐山と鎌田を掴むと、二人をブラックホールの中心へと強く引き寄せた。

 二人の背後にいた那奈も強く引っ張られる感覚に襲われた。だが嵐山と鎌田がより中心へと強く引っ張られるほど、那奈はその小さなブラックホールから距離をとることができた。

 〝手〟により小さなブラックホールの中心へと引き込まれた二人は次の瞬間、〝手〟によって一度高く持ち上げられると、次の瞬間には勢いよく地面に叩きつけられた。


 バコンッ! という音を立て、床が少しへこむほど強い力で床に叩きつけられた二人を見て、那奈は一目で二人が〝死んだ〟と思った。


 その通り、二人は即死した。


 創造者と言っても、大抵の創造者の身体の強度は普通の人間と変わらない。  

 那奈と目が合ったセレニアは、無表情だった。真剣な表情とはまた違う、虚無を感じるような、喜怒哀楽を吸われたような、そんな底知れぬ表情をしていた。


 セレニアは内心呟いた――アルバートに貰ったこの拡張装備(アタッチメント)、力が強すぎる……。


 那奈は、これまでに何回かセレニアを実際に見たことがあった。そして立場上、セレニアに関する話はほぼ毎日聞いていた。だが……目の前のセレニアは何かが違った。まるで何かに乗っ取られているみたいな、そんな心ここにあらず的な雰囲気があった。

 彼の性格上、我々人間側との〝対話〟が可能であるというような認識をセレニアに対して持っていた那奈であったが、今のセレニアにはそんな対話可能な雰囲気を感じ取れなかった。


 那奈は、ふと冷静になると、今の自分が置かれている状況が凄く怖くなって、セレニアから逃げ始めた。


 思い立ったように走り始めたため体勢が崩れたが、そのまま那奈は走り抜け近くの非常階段に逃げ込んだ。非常階段までは短い距離のはずだが、今の那奈にとってはもう既にマラソンをしてきたかのような妙な高揚感があった。


 螺旋状に上下に伸びている螺旋階段を見渡すと、那奈は考えた。上に行くか、下に行くか。

 下に行っても、襲撃者が沢山居る。生存率が高いのは……上だ。

 那奈は螺旋階段を大急ぎで上へと上り始めた。


 そのときだった。


 那奈は下の方から、コツ……コツ……コツ……というセレニアの足音が耳に入った。非常階段の扉は重いため開閉すれば必ず分かるはずだが、まだその開閉音は聞こえてきていない。ということは廊下から聞こえてくる足音なのだろう。


 那奈は自分が変な高揚感に取り憑かれていることに気がついた。普段ならば聞こえるはずのない微細な音まで今の自分は全て聞こえる。そのセレニアの足音が現実のものか、それとも恐怖が作り出した幻聴なのかはよく分からないが、那奈は強い高揚感に取り憑かれているはずなのに、明確に恐怖感を抱いていた。強い高揚感では誤魔化せない強い恐怖が、そこにはあった。


 セレニアは自分も殺すつもりだと思った那奈は、そう思うと急に大きな恐怖に飲まれそうになった。心臓が震え、足が震え、視界が震える中、那奈は飲み込まれないように大きな恐怖感を強い意志で切り裂きながら、上へ上へと目指して行った……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ