全部滅茶苦茶③
意識が一度分解され、そして再構築される。
意識が再構築されて、現実を現実と認識することができたとき、海馬は、自分が浜辺にいることに気がついた。どうやら、どこかの浜辺に飛ばされたらしい。水が押したり引いたりする音が凄く心地良かった。
砂浜の上に寝っ転がっているその身体を起こすと、海馬はふと隣りを見た。そこには、純粋無垢に眠るように砂浜の上で意識を失っているレオの姿があった。
時間帯も時間帯な為、真っ暗闇であまり視界がよくない中、辺りを見渡してみると、暗闇の中にクッキリと大きな建物の輪郭が見えた。しかもその大きな建物の輪郭は見覚えがあるものだった。
海馬は輪郭だけを捉えている建物を凝視すると、それは廃棄されたコンビナートであった。
つまりここは千葉県内房で、どうやら逃げ切れたらしいことに海馬は内心安堵を抱いた。
心臓は震えていた。あのピンチから一応逃げ切れたことに安堵を抱きつつも、海馬の身体は震えを覚えていた。一度深呼吸をした海馬は、起こそうとレオの身体を揺らした。だがどれだけ強く揺らしても、レオは起きる素振りを一切見せなかった。
――おい……レオ、お前本当に一ヶ月も意識を失うつもりかよ?
瞬間移動をする前、レオが言って来た『もし俺が一ヶ月くらい気を失ったとしても、乗り切れますか?』という言葉が頭の中で響いた海馬は、内心不安を覚えた。だが、息を確認すると、やはりレオは死んではおらず、ただ気を失っているだけだということを確認すると、海馬はレオを担いで廃棄されたコンビナートに向かった。
コンビナートの入口に辿り着くと、そこには驚くことに廉斗とユキと穂乃果の姿があった。
海馬が担いでいるレオの姿を見て、三人は表情を大きく変えた。海馬は三人に事情を説明すると、誰でもいいからレオを焔皇祭の元まで運んでくれと頼んだ。
ユキがそれに応じると、ユキはレオを担いで皇祭の元まで運んで行った。
海馬は、レオを担いだのと、それまで抱えていた緊張感が一気に解かれたことから、急激に身体が重く感じられはじめた。呼吸を整える為に海馬は地面に座り込んだ。
「あの……こんな時に言うことじゃないと思うんすけど……」
歯切れの悪そうな表情をしながら言ってきた廉斗に、海馬は若干苛立ちを覚えながらも、「なんだ?」と訊くと、廉斗は申し訳なさそうな表情をしながら言った。
「グラン・タワービルが、なんかヤバいらしいんすよ」
「……どういうことだ?」
「なんか、暴動が起きてるというか、火災もあるらしくて……。ニュースじゃそんなことしか言ってなかったっすけど、俺は多分あれは心の境界線を越えたアンドロイドによるものだと思いますね」
海馬は考え始めた。『グラン・タワービル』それに『心の境界線を越えたアンドロイド』というワード……海馬には全体像がなんとなく浮かび上がってきていた。その結果、廉斗が言ったように、海馬もその〝暴動〟とやらが心の境界線を越えたアンドロイドによるものだと思った。
ただ海馬はひとつ心に引っかかるものがあった。それは包囲され、瞬間移動を強いられた数十分前のことだ。あの時、レオは包囲されたことに気づかなかった。しかも、全包囲されていたというのに。レオがそれに気づかないことなどあるだろうか? それに、湯田を殺してから包囲されるまでが早すぎだ。これは仮定だが、もし湯田が殺されることが何かしらのトリガーになっていたら? 早すぎる包囲も、そのグラン・タワービルの暴動とやらも全て説明つくんじゃないか。
「俺、行くわ」
「え?」
突然の海馬の言葉に、廉斗は拍子の抜けた声を出した。
「那奈が心配だから、俺、グラン・タワービル見に行ってくるわ」
「ヤバいっすよそれ。本気で言ってます?」
「心配なもんは心配なんだからしょうがねぇだろ。それよりもお前達は自分達の心配をしてくれ。レオは気を失う前、俺に『もし俺が一ヶ月くらい気を失ったとしても、乗り切れますか?』って言ってきたんだ。レオ抜きで〈ReGion〉とやり合えると思うか? 無理だろ、普通に考えて。だから廉斗、覚悟しておけ。多分実戦は近いぞ」
そう言うと、海馬はその場を立ち去り、コンビナート入口近くに停めてあった春次の車に乗り込んだ。そして、シートベルトを締めた海馬が発車させようかというときだった。
コンコンッ。
車の窓をノックする音が聞こえた。それが聞こえてきたのは助手席側の窓からだったから、そっちの方を海馬が見ると――そこには春次、そして廉斗の姿があった。
海馬と目を合わせた春次は、ニコッと笑い、勝手に助手席に乗り込んだ。それに続くように、廉斗も後部座席に乗り込んだ。
「グラン・タワービルに行くんだろ? 今さっき廉斗から聞いた。んなことだろうと思ったよ。僕が運転する。グラン・タワービルまで連れて行ってやるよ。なんてったって僕の車だからな。お前の運転信用ならないんだよ」
そう言うと、春次は指先で座席チェンジのジェスチャーを見せた。
「廉斗、お前も来るのか?」海馬が後部座席を振り返りながらそう訊くと、廉斗は多少照れながら、
「レオ君が居ない今、俺がやるしかないっす」と言った。その言葉に、海馬は思わずふふっと笑ってしまった。
――レオ……お前は一体どんなメンタルを廉斗に叩き込んだんだ?
海馬と春次は座席をチェンジすると、車はグラン・タワービルへと全速力で向かい始めた。
車がグラン・タワービルへと向かい始めてから十分ほどが経った頃、海馬は何気なくラジオをつけると、ラジオからはちょうどグラン・タワービルの事件・暴動・火災の様子が報じられていた。
報道されているグラン・タワービルの様子は、ラジオの言葉だけでも凄惨なもので、それを聞いていた春次は、無表情ながらもアクセルを踏む力をより強めた。




