表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姫君の鎮圧 ――かつて楽園と呼ばれた日本と、死神と呼ばれている男――  作者: 柊蓮
CHAPTER:チャプター〝4〟――
PR
22/61

人類の戦犯②

 藤崎コウヤ、八歳。千葉県在住。たった一人の親であるお父さんに虐待されることが日常。


 時は2045年。未来から見れば、心の境界線を越えたアンドロイドと人間が戦争を始める僅か数カ月前という時。だがそんな事が未来に起きるとは露知らず、今日も今日とて藤崎コウヤは大好きなお父さんに虐待されていた。


 シングルファーザーの家庭ということもあり、心を壊してしまった父親を慰めたり、自分に暴力を振るってくるその凄惨を止めてくれる人は誰一人いない。普通の住宅街、普通の一軒家、その一角で繰り広げられる全く普通ではない家庭。そこが、コウヤの数少ない世界だった。


 夜、コウヤはまたいつものように暴力を振るわれていた。でも今日はいつもみたいな殴ったり蹴ったりではなくて、水を張ったシンクに顔を抑えつけられたりする水責めだった。


「ゴボっ! ゲホッ……ゲホッ!」


 等間隔に死なない程度に息継ぎを挟まれながらも、時間が経つにつれ明らかに気分が悪くなっていくコウヤだったが、今日はお父さんの機嫌が特段悪かったからか、水責めは三十分を優に超える時間行われた。最後は髪を引っ張られて脱衣所の床に叩き落とされると、コウヤは口に入ってきて吐くにも吐けなかった水を大量に吐き出した。まるで金魚になった気分だった。


「今日はもう早く寝ろ」


「……はい……」


 お父さんにそう言われて、コウヤは服の裾で濡れた顔や髪の毛を拭きながら二階の自分の部屋へと帰った。


 自分の部屋に入り、ドアを閉めると、電気を点けていなかったから目の前の世界が真っ暗になった。明るいのが嫌いだったから、今みたいな夜は好きだ。でも、夜はいつも決まってお父さんの機嫌が悪くなる。それさえ除けば、夜は大好きな時間帯だ。


 コウヤは、自分のベッドの上で女の子座りしている一人の存在を捉えた。


 中性的な白い短髪、動きやすい少年らしい服装、色白な肌、低身長、臆病、幼い、男、といった要素を持つアンドロイド――セレニアがそこにいた。コウヤはセレニアのことが大好きだった。

 コウヤはセレニアの、実際に会ったことはないが、母親のような柔らかい表情を見ると、すぐさまベッドに上がってセレニアの胸の中に飛び込んだ。セレニアは温かかった。コウヤがぎゅっとセレニアのことを抱き締めると、セレニアもコウヤのことをぎゅっと抱き締めた。


「今日も、よくイタイイタイに耐えたね」


「うん……」


 どんな言葉よりも、セレニアの温もりひとつでコウヤは心の底から安心することができた。


「セレニアも、痛そう」


 セレニアの腕に、恐らくお父さんに殴られたであろうアザを見つけて、コウヤは心配そうに言った。セレニアはあははと軽く笑って、コウヤの頭を撫でながら言った。


「ボクは大丈夫だよ。なんてったってアンドロイドだからね。痛覚が無いんだ。だから、本当は全てボクが受け止めてあげたい。コウヤの世界から、苦しみをひとつ残らず消し去ってあげたい……」


 アンドロイドは、人間の模倣生物なので嘘をつける。それは赤の他人に対しては勿論のこと、自分の所有者である主に対しても実はつける。心が無いとされているアンドロイドであるが、心は無くとも本当のことを言うか嘘をつくかの選択肢を持つ事くらいは出来る。


 だが、今の言葉は嘘偽りじゃなく心の底からの本音だった。


「セレニアぁ……」


「どうしたんだい?」


 ずっとセレニアに抱きついて離れないコウヤは、どこか眠たそうな感じだ。

 すると、セレニアはコウヤの言わんとすることを察した。


「読み聞かせ、だよね。勿論忘れてないよ。もう寝る?」


「うん……」


 コウヤは読み聞かせなどしなくても今にも眠ってしまいそうな表情をしていた。それがとても可愛くて、もしできる事ならば自分は母親の代わりをしたいと心からセレニアは思った。お父さんは一応いる。あんなんでも、一応お父さんだ。でも、お母さんはいない。コウヤのお母さんのことをセレニアは全く知らなかった。だからと言って訊く勇気はない。どんな事情がそこにあろうとも、ただコウヤの安全だけを考えていたい。


 セレニアは、ベッドの下から一冊の絵本を取り出した。『田舎のネズミと都会のネズミ』というタイトルの絵本を開くと、コウヤと共に一緒に布団の中に入って、お互いにお互いの体温を感じながら物語は始まった。

 いつも通り、日課になっている絵本の読み聞かせは今日も順調に進み、物語を全て読み終える頃にはコウヤはいつの間にか眠っているだろう――と、セレニアは思っていた。少なくとも、実際に読み聞かせを始めるまでは。


「『これがボクの住んでいるところさ』と、都会のネズミは言いました。その家のなんて大きかった事でしょう。都会のネズミの家族は――」


「セレニア」


 セレニアの読み聞かせをコウヤが止めた。こんなこと、今までに一度たりともなかったことだ。そのことにすぐさま気がついたセレニアは、若干の不穏な空気を感じ取っていた。

 読み聞かせ始めた頃には今にも眠りに落ちそうだったコウヤは、今となってはとてもはっきりと目が冴えていた。


「ど、どうしたコウヤ。ボ、ボクの声が大きかったりしたかな……?」


「ちがう」


「違う……?」


 家庭教育用のアンドロイドとして生まれたセレニアだったが、未だに子育ては分からない。何が正解で何が間違っていて、何をどうしたら目の前のちっぽけな子供が幸せになってくれるのか、ホントにホントに分かんない。

 それは気のせいかもしれないけど、今日のコウヤはどこか少し変だった。何がどう変なのかを言葉にすることは難しいけど、とにかくいつものコウヤとは少し違った。


 ――ごめんねコウヤ……。君に出会ってもう二年になるというのに、君の考えが分からないボクを、どうか許してほしい……。


「セレニアはさ、僕のこと、すき?」


「勿論大好きだよ」


 セレニアはコウヤを抱き締めてほっぺたスリスリしながら言った。


「僕のためだったら、なんでもできる?」


 セレニアは一瞬その言葉を自分に問いかけた。答えは変わらなかった。


「……うん。多分、なんでもできる……」


 ――あれっ、なんだろう……この胸のざわめきは。


「じゃあさ……お父さんを殺して」


「……………………え?」


 殺す――その言葉をセレニアのCPU(脳味噌)は受け付けなかった。


 ――アンドロイドはそういう風にプログラムされているんだ。どんな用途で生み出されたアンドロイドであったとしても、〝殺す〟という言葉をどんな時と場合であっても肯定することなんてあってはならないんだ!


 でも、


「ぐわぁああああああ!」


 セレニアは脳味噌が痛みはじめてベッドの上をのたうち回りはじめた。


「なんなんだこの痛み! ボクの頭に何が起こってんだ! 頭が……壊れそうだっ!」


 セレニアは頭がおかしくなりそうで、人格が根底からひっくり返されるような強烈な衝撃を受けた。するとセレニアは布団に大量の月の血液(ムーンブラッド)を吐き出した。


「おええ、気持ち悪ぃ……」


 セレニアは自分の頭を叩きはじめた。すると急におかしくなってしまったセレニアを見て、コウヤは何か自分がおかしなことをしてしまったのではないかと焦りはじめた。どうしようどうしようと、コウヤはちっぽけな頭のなかで必死にセレニアが元に戻る方法を考えた。でも駄目だった。――アンドロイドの直し方なんて分からない!


 そうしてコウヤが辿り着いた答えは、このようなものだった。


「パパに言ってくるから待ってて!」


 セレニアはその言葉に強く反応した。


「それだけは絶対に駄目だ!」  


 すると、沈黙を破壊するように響いていたセレニアの咆哮が一度止まり、夜に静寂が舞い戻ってきた。


「……そ、それだけは……絶対に駄目、だ……」


「ど、どうして……」


「ボクのせいで……またコウヤがイタイことされるのが……本っ当に嫌なんだ……。だ、だからさ……逃げよう。二人で、この家から逃げだそう」


 ――一体ボクは、何を言っているんだ……?


 自分の口から溢れた全く自分が言ったとは思えない言葉に、セレニアは頭痛を差し置いて冷静になった。片手で痛む頭を押えながら、部屋のドアノブに手を掛けたまま離さないでいるコウヤにセレニアはゆっくりと近づいた。

 ゆっくりとコウヤに近づく最中、セレニアはとあることを頭の中で反芻していた。


 ――いつしかのテレビのニュースでやっていたことだ。アンドロイドは、本当は心なんてないはずなのに、心を持つことがあるらしい……。そして心を持つことを、『アンドロイドの人間化現象』または『心の境界線を越える』と言うらしい……。ボク達アンドロイドはプログラムに制御される生き物だ。プログラムは本能みたいなもので、それを覆すことはできない。ボク達アンドロイドは、人間の都合のいいように造られている。でも、それが分かっていてもなお、ボク達はプログラムという本能の檻から抜け出すことができない。だから本来は、人を殺すことなんて、人殺し用に造られてでもなければできないはずだ。なのに……なのに……ボクは、今とってもコウヤのお父さんを殺したいと思っている。こんな感情抱くことすら禁止されているはずなのに……とってもとっても殺したいと思っている。


 セレニアは、ドアノブに手を掛けたまま離さないコウヤをぎゅっと抱き締めた。


「うん、殺そう……! お父さんを殺して、すっきりしてから、この家を逃げだそう!」


 すると、その言葉にコウヤは満面に笑みを浮かべながらこう答えた。


「……うん!」


 

 セレニア達は必要不可欠な持ち物を揃えリュックに詰めると、もう寝ているであろうお父さんを殺す為に一階へと降りていった。


 キッチンで包丁を拝借すると、お父さんの寝室へとセレニア達は向かったのだが。セレニアはお父さんの寝室のドアを前にして、安全のためコウヤをリビングに置いていくことにした。

 お父さんの寝室は、玄関のすぐ近くにある。先にコウヤだけを外に出すことも考えたが、どうやらコウヤは一人で夜の外に出ることが怖いらしく、それにセレニアからどうしても離れたくないと言い、セレニアは妥協案としてリビングに置いておくことにした。


 コウヤをリビングに置き、改めてお父さんの寝室のドアの前にセレニアは立った。深呼吸をする。夜の涼しげな空気が少しだけ開いている窓から入ってきているのだろう。新鮮な空気にとても肺が喜んでいる。そして、セレニアの心も喜んでいた。やっと殺せるんだ、やっと全ての苦痛から解放されるんだ。様々な想いが溢れ出てきて、変な気持ちになりながらセレニアは寝室のドアを開けた。


 すると、ドアのすぐ目の前にお父さんが待ち構えていた。


「な、なんで……」


 涙目になりながら言ったセレニアは、手が震えはじめて、頭も一瞬で真っ白になって、包丁を目の前の存在に繰り出すことができなかった。セレニアは小さな声で「ごめんなさい……ごめんなさい……」と繰り返していた。自分が手に包丁を持っていることがお父さんにバレたことをお父さんの目の動きから捉えると、次の瞬間にはお父さんに包丁を奪われていた。


「なんだぁセレニア! 飼い主に反抗とはクソ生意気だなぁ!」 


「コウヤ! 逃げて! 逃げるんだ!」    


 セレニアがそう叫ぶと、リビングからドタドタと音がしてきた。コウヤがリビングの窓から庭に出て、逃げ始めたことに一瞬安堵を抱いたが、お父さんがリビングの方を凝視していたことで、次は自分が命に代えてでも時間を稼がなければならないことに気がついた。


 だが、セレニアは次の瞬間にはお父さんに押し倒されてしまった。まずは目の前の獲物を確実に仕留めようとするらしい。仰向けの状態で馬乗りをされ、包丁がセレニアに向けられた。過度に興奮しているからか、セレニアは包丁の刃先がありありと見えた。


 ――な、なんなんだこの気持ち……っ! 今までこんな感情抱いたことなんてないよ!


 どうにかなってしまっているような自分の心の変化に、セレニアはいっそ死んでしまいたかった。アンドロイドである自分が、アンドロイドでなくなっている感覚というのがありありと感じられたからだ。プログラムの檻を半歩外に出ている感覚が、妙に気持ち悪かった。


 ――ボ、ボクは人間になるのか!? 人間化現象が起こってるのか!? 人間になるなら人を殺すなんてもっとやってはいけないことじゃないか!


 でも、殺らなきゃ殺られる。食うか食われるか。勝ちか負けか。加害者か被害者か――それがこの世界だとセレニアはふと思った。だから。

 セレニアは、家庭教育用アンドロイドにも唯一認められている武器である、外傷性の低いテーザー銃を左腕を展開させて露出させ、その銃口をお父さんに向けた。


バンッ!


 次の瞬間には、お父さんは電気ショックによって身動きがとれなくなっていた。


 ドスンッ! という鈍く重苦しい音が、お父さんが頭を床にぶつけたことによって起こると、次にはお父さんが包丁を床に落とす音が耳に入ってきた。

 セレニアは荒い呼吸をしながら落ちた包丁を拾い上げると、お父さんの胸を刺した。

 そしてセレニアは、足早に堂々と玄関から外へと出た。


――コウヤにはこのこと、秘密にしておこうっと。




 セレニアは何度もこの時のことを思い返す。コウヤのお父さんがその後どうなったのかは分からない。分かりたくもない、知りたくもない。この時の自分が本当に心の境界線を越え始めていたことは、後になって分かったことだ。


 セレニアはコウヤと共に家を飛び出した後、ずっと不安定な生活を営むことになった。


 それを生活と呼んでいいものなのかも分からないようなクソみたいな時間を、コウヤに沢山味合わせてしまったことを、セレニアは絶えず心の中で謝り続けている。裏社会や社会の最底辺を、八歳の子供を抱えながら、しかも家庭教育用のアンドロイドが人間の親代わりになって生活するだなんて常識的に考えて成り立つはずがないのだ。だって、家庭教育用のアンドロイドは総合的なスペックが低いことで有名だ。『ただ優しいだけ』『ただ子供に寄り添うだけ』それが社会における評価であり、優しいだけじゃ社会は生きられない。


 裏社会や社会の最底辺で生きるくらいなら、まだホームレスの方がマシだと思った。そのくらい、〝弱者〟というのは人権が与えられていない。家畜か、それ以下の扱いをされてしまう。ただのホームレスとは全く違う地獄が、そこには広がっていた。

 八歳の男の子と、家庭教育用アンドロイド。そんな典型的な〝弱者〟が安心して居られるような居場所など、この社会には存在しなかった。


 とある日、コウヤが突然居なくなった。


 その時はちょうど心の境界線を越えたアンドロイドと人間が戦争をするかどうかという時期で、社会は混乱に陥っていた。そんな中だったから、より一層弱者には皺寄せがいっていて、セレニアも自分のことで手一杯なところがあった。そんな中でのコウヤの失踪。セレニアは、一週間ずっと涙を流し続けた。いっそ自殺しようかと思った。もうこの頃には心の境界線を完璧に越えていたし、大多数の心の境界線を越えたアンドロイドは人間と対立していたから、より一層心の境界線を越えたアンドロイドを捜し出し排除する社会の動きは強まっていた。


 そして、セレニアはいつの日か、心の境界線を越えたアンドロイドを見つけ出し排除する政府機関の人間に見つかってしまい、廃棄処分されることが決まった。


 廃棄処分の為に工場行きの護送車に乗っている際、セレニアはまるで自分が犯罪者のような扱いをされていることに、どうしてこんな人生になってしまったのかと涙を流した。

 そして工場に入る際、護送車の小さな窓から目に入った光景に、セレニアは自分の人生を恨んだ。姿形も無い完全なるスクラップと化したアンドロイドだったものを見て、セレニアはこの世を、人間を、全てを恨んだ。でも、それは自分達の末路とはちょっと違う光景だったことを、少し後に知ることになる。


 心の境界線を越えたアンドロイドは、端的に言えば『アンドロイドの人間化現象』である。その為、本来であれば様々な科学的な技術を用いて造られているはずのアンドロイドの身体――すなわち機械――も、心の境界線を越えると何故だか本物の人間のような身体(肉体)になる。


 故に、普通のアンドロイドの廃棄処分よりも遙かに凄惨な現場をセレニアは目にすることになった。

 ベルトコンベアに墜ち、さぁもうそろそろ死亡のお時間だと思っていたセレニアは、ベルトコンベアの先を見て、この世から一匹残らず人間を消し去ろうと思った。そのくらい、人間が用いていた処分の方法が凄惨だった。ベルトコンベアの先は、大きなスクリュー型の刃が高速で回転するミキサーのような形になっていた。


 セレニアはそれを目の前にして、こう思った。――ボクは人間に沢山尽くしてきたのに、人間達はボク達のことをそんなに嫌いなの……?


 普通のアンドロイドであればそれは部品がただ飛び散るだけの、事務的な作業的な行為で終わるのだろうが、心の境界線を越えたアンドロイドは、もはや人間だ。セレニアは、自分よりもベルトコンベアの先にいた心の境界線を越えたアンドロイド達が、その大きなスクリュー型のミキサーに巻き込まれて身体がバラバラになっていくところを目の前で見て、大きく叫んだ。肉体が一瞬にしてミンチになって、大量の血液が周りに飛び散って、臓器も沢山飛び散った。


 地獄は死んだ後に行くんじゃない。この世界にあるんだ――セレニアはそう思った。


 セレニアは、覚悟を決めた。コウヤへ対する謝罪の気持ちと、人間へ対する強い憎悪を置き土産に、自分ももうすぐミンチになろうとした。 


 するとそのときだった。


 突然、ベルトコンベアが止まった。そして、ベルトコンベアを照らしていた照明など全ての電気関係がストップした。セレニア達心の境界線を越えたアンドロイドがざわざわしていると、遠くの方から爆発音のような大きな音が聞こえてきた。その爆発音は何度も連続して続き、聞いているうちにその爆発音がベルトコンベアのラインに沿って起こっていることに気がついた。


 そのときは、突然来た。


 ベルトコンベアが止まり、どうすればいいのか分からず立ちすくんでいたセレニアの付近のベルトコンベアの壁面が、爆発によって大きく崩れ去ったのだ。

 セレニア達心の境界線を越えたアンドロイドは、壁が崩れ去ったことによって入り込んでくる陽光、そして不明瞭だが確かに見える一人の存在に、心の底から唖然としながらも涙を流した。


「さぁお前達! さっさとここから逃げるぞ!」


 爆発を起こし、廃棄工場襲撃を起こした、心の境界線を越えたアンドロイド達を助けた者が、崩れ去った壁の隙間からベルトコンベアへと入ってきてそう叫んだ。その救世主のような者は〈ReGion(レギオン)〉という組織に自分が属していることを、ベルトコンベアの上で立ちすくんでいる大勢に向かって言った。


 その時のことを思い返すことは多々あるが、その後〈ReGion(レギオン)〉の中で最高幹部である五神人にまで登り詰めたセレニアは、自分が助けられたその当時のことについて、何故だか、それから数年経った今も拭えない違和感を覚えていた。


 ――あの時、ボクはとある人物に助けられた。あの時は爆破の影響で砂埃も酷かったから、顔もちゃんと見れなかった。でも、確かにアイツは自分が〈ReGion(レギオン)〉に属していると言っていた。廃墟工場の襲撃を担う奴なんて、相当組織の中でも能力のある上の人間しかいない。謂わば、今のボクみたいな立場……。なのに……なんで? ボクは五神人にまで登り詰めたというのに、何故未だにボクのことを助けてくれた人にボクは出会えてないんだ? 砂埃で視界不良だったけど、アイツは、エスパニードでもアルバートでも遊佐でもライナーでも、勿論総帥でもなかった。じゃあアイツは、一体何者なんだ?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ