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姫君の鎮圧 ――かつて楽園と呼ばれた日本と、死神と呼ばれている男――  作者: 柊蓮
CHAPTER:チャプター〝1〟――
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命を灯したサンドバッグ

 日本政府外部組織〈エレジウム〉。


 霧島海馬(きりしまかいま)をリーダーとした日本政府外部組織で、仕事内容は今をときめく〝心の境界線を越えたアンドロイドに対する対処部門〟に属している。


 メンバーは、リーダーの霧島海馬(きりしまかいま)を始めとして、霧島加奈(きりしまかな)久慈春次(くじはるつぐ)焔穂乃果(ほむらほのか)白羽取(しらはど)ユキ、加賀美廉斗(かがみれんと)、そして最近加入したレオ・アルバトロスで計七人である。


 様々な日本政府外部組織が本拠地としている建物の名前は――グラン・タワービル。

 グラン・タワービルは真っ黒い円柱のような見た目をしていて、日本の省庁で唯一フェーズワンにあり、埼玉県の東京との県境に存在している。

 ほとんどの外部組織がそうであるように、〈エレジウム〉に属するレオもまた、遊撃の対処という任務の終了後にグラン・タワービルへと戻った。


「生け捕りでお願いねって言ったでしょ?」


 管制室と呼ばれる真っ暗い部屋の中心で、レオは怒られていた。


 六角形の形をしているこの管制室は、とても埃っぽい。ディスプレイが発する真っ暗闇を切り裂くような強い光りが唯一の明かりであり、空気も悪く長居したら体調が悪くなりそうだ。聞こえてくるのは管制員たちがキーボードを叩く音のみで、入って正面に見える大きなメインモニターには様々な情報が羅列されている。


 各地で任務を遂行している外部組織の人間たちの動向や、監視カメラの映像、リアルタイムで常に追加され続ける情報の数々……。そして、その膨大な情報に優先順位をつけるAI〝マナ〟。


 レオに言葉を向けた女はその隣りにいた海馬の方へ視線を向けた。


「で、あんたはどこ行ってたわけ? レオ君の見守りお願いしたよね?」


「ああ、そうだな、お願いされた」


 抑揚のない薄い口調で海馬は答えた。


「レオ君日本に来てまだ一週間だよ? それに、相手の情報だってそんなに知ってるわけでもない……。もしかしたら死んでたかもとは思わないわけ?」


「……そうだなぁ、まぁでもそれはないだろうな。レオは強い、もしかしたら俺よりも」


「でも万が一ってこともあるでしょ?」


「万が一を言い始めたら命のやり取りはできねぇよ」


 レオは強い、もしかしたら俺よりも――レオは側で聞いていた海馬の呟きを、何回か反芻した。


「で、那奈、遊撃はどうなった」


「しっかりちゃんとレオ君が倒してくれた。ああそうだ、そのことなんだけど」


 海馬と口論になっていた女――那奈、藍沢那奈(あいざわなな)は、レオの方を向いて、


「生・け・捕・り・は?」


 一語一句確かに踏みつけながら言った。


「すいません、つい」


「はぁ……まぁいい。これも全て海馬のせいにしとく……。でもね、普通の心の境界線を越えたアンドロイドであれば殺しちゃっても構わないけど、遊撃みたいな有名な心の境界線を越えたアンドロイドはできるだけ、いや、必ず生け捕りであってほしいの」


「分かりました」


 レオは軽く頭を下げながら言った。


「あれ、遊撃って有名なのか」


 海馬がポケットから煙草の箱を取り出しながら言った。


「知らなかったの? ……いや、知らないなんてはずない。今じゃそこら辺の小学生でも知ってること。遊撃は、『アンドロイド製造工場破壊事件』や『虚心事件』を引き起こして指名手配されてたんだけど……分かる?」


 虚空を見つめて何か思案をするような素振りを見せている海馬から、那奈が煙草の箱を奪い取ると、奪い取られたことに気づいていないような様子の海馬を一堂は見守った。


「虚心事件……か、こいつってあんなに大きな事件を起こした奴らのうちの一人なのか。ってかあれっ、煙草は?」


「ここは禁煙よ」


 那奈は困惑気味の表情を浮かべていた海馬のズボンのポケットに、煙草の箱を突っ込んだ。


「虚心事件のこと憶えてる?」


「憶えてるは憶えてるけど、まぁなんでもいいや。とりあえず捕まってよかったな。レオも無事そうでなにより。ってかレオ、その二人の子供を両脇に抱えながら遊撃の骸も持って帰ってきたのか?」


「いや、遊撃の回収は忘れたっ……っていうか、子供たちが心配だったんで、遊撃は後回しに。後からユキと穂乃果が回収してくれたそうです」


 レオは背後にいるユキと穂乃果の方を振り返りながら言った。


「そっか、二人ともありがとな。で、どうする?」


「……何がです?」


「レオが今両脇に抱えてる二人の子供のことだけど」


 海馬はじっとした俯くようないつもの目つきで、那奈を見つめた。


「那奈的にはどうしてほしいとかあるか?」


「別に、個人的な感情はない」


「うし分かった。じゃあ政府管轄の養護施設に連れていく、それでいいか?」


「問題ないわ」


「じゃあ今から行くか、レオ」


 レオはその言葉に頷きを返した。


 管制室を出て、背後の扉が完全に閉まり切ると、レオは訊いた。


「ってか海馬さんどこ行ってたんですか? 俺の初戦そんなに興味なかったですか?」


「そんなことない……いや、そんなことあるか。まぁなんでもいいけど、お前の強さは見なくても分かる。結果が分かってる勝負なんて見るだけつまらんだろ。それに――」


「それに?」


「俺好みの可愛い女の子がいたからちょっとそっちに行ってた」

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