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最終話 白旗の意味

内政庁地下、第二拘束区画。


薄暗い石の通路。

重い扉の奥。


アリアたちは、もう一度ここに来ていた。


罠だと分かっている。

それでも来た。


もう逃げないと決めたから。


扉の向こうに、男がいた。


静かに立っている。


整った顔。

穏やかな目。

何もかもが“普通”なのに、空気だけが違う。


アルヴェイン。


「来ると思っていたよ」


その声は、優しい。


だからこそ、気味が悪い。


グレンが前に出る。


「……待ってたって顔だな」


「うん。

対話の機会は必要だからね」


対話。


その言葉に、アリアは一歩前へ出た。


「……あんたが全部やったの?」


アルヴェインは首を少しだけ傾ける。


「“全部”という言葉は曖昧だ。

ただ、君たちが見た文書は事実だよ」


否定しない。


言い訳もしない。


ただ認める。


それが、逆に重い。


「白塔は、人を苦しめるために使われた」

アリアが言う。


「違う」

アルヴェインは静かに否定する。

「“戦争を終わらせるために使われた”」


空気が凍る。


「ふざけるな」

グレンが低く言う。


アルヴェインは視線を外さない。


「戦争は終わらない。

人も、魔物も、機械も、それぞれの正しさで争う」


「だから?」


「だから、争いを“制御”する必要がある」


その言葉は、まるで当然のように語られる。


「白塔は、そのための装置だ。

戦意を調整し、衝突を最小限に抑える」


アリアの胸がざわつく。


それは――


完全な嘘ではない。


でも。


「そのために、人を犠牲にした」

アリアが言う。


「犠牲は出る」

アルヴェインは即答する。

「だが、放置すればもっと出る」


「……」


「選択だよ」


静かな声。


「少数の犠牲で秩序を保つか、

無秩序で全員が傷つくか」


その理屈は、強い。


だからこそ危険だ。


アリアは白旗を握る。


震えは、もうない。


「……違う」


小さく言う。


「違うよ」


アルヴェインの目が、わずかに細くなる。


「何が違う?」


「“犠牲は仕方ない”って決めてる時点で、もう終わってる」


アリアは一歩踏み出す。


「戦争を止めたいなら、

“誰を犠牲にするか”じゃなくて、

“どうやって犠牲を減らすか”を考えるべきでしょ」


アルヴェインは沈黙する。


初めて、言葉を選んでいる。


「……理想だ」


「うん」


アリアは頷く。


「理想だよ」


「なら現実には勝てない」


「それでもいい」


アリアは白旗を掲げる。


「私は、そっちを選ぶ」


静かな宣言。


戦うための言葉じゃない。


でも、引かない意思。


その瞬間――


イザベルが動いた。


「これ以上の対話は不要です」


杖が振られる。


空間が歪む。


だが、グレンが割って入る。


「来ると思ったよ」


剣と杖がぶつかる。


ルシェも動く。


セブンが護衛を制圧する。


モグが装置を展開する。


戦いが始まる。


だが、それは長くは続かない。


アリアは前に出る。


戦いの中心へ。


「やめて!」


声が響く。


全員の動きが、一瞬だけ止まる。


アルヴェインがアリアを見る。


「……何をするつもりだ」


アリアは白旗を強く握る。


「終わらせる」


そして――


白塔の力が、初めて意図的に解放される。


光。


静かで、柔らかい光。


それは攻撃じゃない。


支配でもない。


ただ――


“繋ぐ”力。


その場にいる全員の感情が、一瞬だけ重なる。


恐怖。

怒り。

迷い。

そして、ほんの少しの――後悔。


アルヴェインの目が、わずかに揺れる。


イザベルの手が止まる。


グレンも、ルシェも、セブンも。


全員が、同じものを感じる。


「……これが」


アルヴェインが呟く。


「白塔の、本来の……」


アリアは息を切らしながら言う。


「争いを止める力は、

押さえつけるものじゃない」


「……」


「分かり合うことは無理でも、

“感じる”ことはできる」


静かな空間。


誰も動かない。


アルヴェインはゆっくり目を閉じる。


そして、小さく息を吐いた。


「……不完全だ」


「うん」


「だが」


彼は目を開ける。


「完全な支配よりは、マシかもしれない」


その言葉で、決着がついた。


完全な勝利じゃない。


でも、終わりではある。

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