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第19話 白塔の中へ、戦争が入ってくる

赤い警告光は回廊全体を不穏に染めていた。


さっきまで星のように静かだった光点が、今はまるで見張る目のようだ。

白塔自体が緊張しているのが分かる。


四号が一歩前へ出る。


『――侵入者迎撃補助、実行可能』


ネムも小さく鳴る。


『……護送対象、防衛補助……可能……』


「無理しないでね、ネム」

アリアが言う。


『……努力する……』


「その返事かわいいけど不安!」


モグは回廊脇の端子に工具を差し込みながら言う。


「《対話橋》まで行ければ、防衛隔壁を落とせるかもしれん。

グレンが封鎖準備をしたって記録が本当なら、あそこにまだ生きた制御が残ってる」


リオがすぐに頷く。


「だったら先に進むべきだ。

ここで迎え撃っても数で押し潰される」


ルシェは短く考えてから決断した。


「賛成。

ミナ、ネム、リオを中心に守りながら前進。

セブンと四号が壁。

私が先頭。モグは制御担当。

アリアは――」


「旗と中心ね」

アリアが自分で言う。


ルシェが少しだけ口元を緩める。


「そう。あと、必要なら叫びなさい」


「必要なら?」


「必要じゃなくても叫ぶでしょ」


「そこは否定できない!」


その瞬間、回廊の奥から銃声に似た衝撃音が響いた。


古代構造に反響して、やけに近く聞こえる。


続いて人の声。


「前方に反応あり!」

「盟旗保持者を優先確保!」

「機械体は破壊して構わん!」


王国兵だ。


その声を聞いたミナが震える。

リオも顔色を変える。

ネムの単眼が強く点滅する。


ルシェの眼差しが凍る。


「……やっぱり嫌いだわ、人間の命令口調」


「私も今のは嫌だ」

アリアが白旗を握りしめる。


王国兵の中には、きっと事情も知らず命令されて来た者もいるだろう。

でもその先頭にいるのは、白旗を“確保物”として扱う者たちだ。


アリアは胸の奥に、初めてはっきりした怒りを感じた。


怖さと違う。

悲しさとも違う。

奪わせたくない、という感情。


セブンが静かに告げる。


『戦闘接近。

アリア、判断を要請する』


彼はもう、ただ命令待ちの機械ではなかった。

彼女に判断を預けている。


アリアは一度だけ深呼吸した。


「進む」


その声は震えていない。


「《対話橋》まで行く。

追いつかれたら止める。

でも殺せるなら殺す、じゃなくて、通すなでいこう」


モグが笑う。


「難易度高えなあ!」


「でもそれがいい」

リオが小さく言う。


ルシェは剣を構えたまま、ほんの少しだけ頷いた。


「了解。

できる範囲で、ね」


『行動方針、受理』

セブンが前へ出る。


四号も槍を立てる。


星見の回廊に、複数の足音が近づいてくる。

王国兵。黒鴉。

そして、その背後で何かもっと重いものが動く音まで混じっていた。


白塔の中に、戦争が入ってくる。

なら、ここから先はもう、避けて通れない。


アリアは白旗を掲げた。


「みんな、行くよ!」


ルシェが駆ける。

セブンが続く。

四号が壁になる。

モグが端子を剥がしながら走る。

リオはネムとミナを庇い、アリアも最後尾ではなく中央で前を向く。


星見の回廊の先、《対話橋》へ。



星見の回廊を走る足音は、ひどく響いた。


前へ進むアリアたちの足音。

後ろから迫る王国兵の足音。

その間に、白塔の警告音が低く鳴り続ける。


赤い光が、壁を、床を、仲間たちの顔を、断続的に染めていた。


「右、段差!」

モグが叫ぶ。


「えっ、うわっ!」


アリアは危うく透明床の継ぎ目に引っかかりかけ、セブンに背中を支えられる。


『注意力の継続不足を確認』


「今は優しく起こしてくれるだけでいい!」


『起こした』


「そこじゃない!」


ルシェが先頭で道を切り開く。

回廊途中には、白塔防衛用の小型障壁がいくつも半起動状態で残っていて、走りにくい。

彼女は剣でそれを裂き、モグが後ろから制御を書き換え、なんとか全員が通れる幅を作っていく。


リオはミナの手を引き、ネムがその横をぎこちなく走る。

四号は後衛寄りで背を向けたまま進み、追撃に備えていた。


「どれくらいで《対話橋》!?」

アリアが叫ぶ。


モグは走りながら壁の表示を確認する。


「この速度なら、あと三区画!」


「三区画ってどれくらい!?」


「長い!」


「長いんじゃん!」


その時、後方から光弾が飛んだ。


セブンが即座に振り返り、腕で受ける。

鈍い衝撃音。装甲に焦げ跡が走る。


『敵先頭、射程圏内に進入』


「見えた?」

ルシェが問う。


『王国兵五、黒鴉三。

加えて重装機一』


「重装機まで持ち込んでるの!?」

モグが顔をしかめる。


「王国、本気すぎるでしょ……」

アリアが白旗を握り直す。


後方の回廊角から、黒いマントを翻した兵が飛び出してくる。

黒鴉だ。

その後ろに、銀色の装甲を着た王国兵たち。

さらに最後尾には、両肩に砲塔を備えた大型機械兵が見えた。


「うわ、でかいの来た!」


『王国制式重装機、破砕型』

セブンが告げる。

『近接戦に持ち込まれた場合、不利』


「つまり嫌ってことね!」

アリアが言う。


ルシェが一瞬だけ振り返る。


「セブン、四号、後ろ!」


『了解』


『――迎撃』


二体の機械が後方へ出る。

四号の槍が真っ直ぐ突き出され、先頭の黒鴉が慌てて身を低くする。

セブンは光弾をもう一発受け、壁側へ流した。


「モグ!」

アリアが叫ぶ。


「分かってる!」


モグは懐から小さな金属球を三つ取り出して後方へ投げた。

床に当たると同時に、球体はばちばちと火花を散らしながら煙を吹く。


「目つぶし兼、感知阻害!」


「便利!」


「もっと褒めろ!」


「すごい!」


「よし!」


ルシェが呆れたように言う。


「戦闘中に満足する基準が低いのよ」


だが煙で多少足は止まっても、追撃そのものは止まらない。

重装機の砲塔が回り、低い唸りを上げ始める。


セブンが即座に叫ぶ。


『アリア、伏せて!』


反射的に身を低くした次の瞬間、轟音。

回廊の一部が吹き飛び、透明床の端が崩れる。


「きゃあっ!」


ミナが悲鳴を上げる。

ネムがとっさに彼女の前へ出て、小さな身体で飛散片を受け止めた。


『……保護継続……』


「ネム!」

リオが顔を強張らせる。


「大丈夫!」

モグが叫ぶ。

「仮修理の範囲内……たぶん!」


「たぶん!?」


「断言は危険だ!」


アリアは崩れた床の向こうを見て、ぞっとした。

落ちた先は暗い。

どこまで落ちるのか想像もしたくない。


白塔の中で追われる。

しかも相手は白塔を壊しながらでも追ってくる。


「……ほんとに取りに来てるんだ」


その呟きに、リオが低く答える。


「旗だけじゃない。

白塔の記録も、中枢の制御も、全部だろうな」


「絶対渡したくない」


アリアの声が、今度ははっきりと固くなる。


後方で金属音が炸裂した。

四号が黒鴉の一人を橋脚状の柱へ叩きつける。

セブンは兵士の撃った光弾を掴むように逸らし、追撃の軸をずらしていた。


だが敵も訓練されている。

無理に個で突っ込まず、連携して囲もうとしてくる。


『足止め継続不能。前進優先を提案』

セブンが叫ぶ。


「了解!」

ルシェが答える。

「全員、走れ!」

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