9.ラッキーハプニング
ドキドキして眠れなかった私を、バイブ音がいじめてくる。対抗して鳴っては切り、鳴っては切り、攻防戦を繰り広げたが、相手の粘り勝ち。
仕方なく諦めて携帯を耳に当てれば、あいつのうるさい声が頭に響いた。
「お前何回切んだよ。ふざけんな」
「そっちがしつこいの。私は有・給・中!真心斗こそいいかげんにしてよ」
「お前がメールを無視するからだろ。パスワードを教えてくれれば、それでいいんだけど?」
「え、私のファイルロック解除したことないの?」
「は?ないから聞いてんだよ」
私たちの仕事は国家機密なので、当然どのファイルにもロックがかかっている。パソコンに入っていることもあれば、紙に書いたものが金庫に入っている場合もある。秘密保持のための方法は様々だ。
正直めんどくさい。だから私が権限を持っているファイルは、独特なロックをかけることにした。
「いいから例の事件のデーターのパスワードは?」
「とりあえずなんでもいいから打ってみて」
「は?」
「いいから」
「な、おい!ロックかかったんだけど、ふざけんな」
「あ、もしもし椿?」
「宗さん?お疲れ様です」
「こっちは任せろ。じゃあ休みを満喫しろよ〜」
宗さん、最初から対応して欲しかったです。
私は機密情報の中でも、さらに極秘なものを扱うことが多い。よってパスワードをいちいち考えるよりも、毎回ロックを解く方が速いと考えた。もちろん自作のパスワードを使うこともあるが、その場合は「大文字、小文字、数字、記号」の12桁を三重にかける。
しかし前者の場合、問題が起こる。今みたいに、何度も電話がかかってくることだ。
そこで、共有パスワードを使えば、ロックを途中まで自動計算してくれるファイルを私は作った。あとは残った数字を、特定の変換則を使えば簡単に開ける。
ブーブーブーブー
「もう、だから!」
宗さんでもお手上げ?休みとは?
「あ、すみません……忙しかったですか?」
ん?
「えっと……綿貫さん、ですか?」
「はい、お疲れ様です。あのー、昨日の今日で申し訳ないのですが、えっと、佐藤さん今お時間ありますか?」
「その、あ、いや、家に……。あー、友達からくだらない電話が……だから、あります!」
「ふふっ、そうなんですね。紛らわしくてすみません。あの、実は昨日のサイン本なんですけど、僕が佐藤さんのも間違えて持って帰ってきてしまって」
「そ、そうなんですね。気がつかなかったです」
「それでなんですけど,明日お仕事何時に終わりますか?」
「あ、明日?」
「駅前待ち合わせできるなら、僕本持って行きますよ。早く読みたいですよね」
「え、全然、何時でも!いいんですか!?」
彼に会えるのはめちゃくちゃ嬉しい。会えるならいつでもいい……そう思って、再びやらかしたと気がついた。
仕事している人がいつでもいいはずないのだ。
「在宅ワークなんですか?」
「あ、はい。そうなんです!綿貫さんの都合がいい時間は、何時ですか?」
「16時だとまだ仕事中ですよね。そしたら17時半はいかがですか?」
「はい、もちろんです!お願いします!」
本当に神様綿貫様ありがとうございます。
昨日勉強したラッキーハプニング!明日の17時半までのカウントダウンが始まった。




