83.引き継ぎ
遠くの方でバタバタと歩く音が聞こえる。
「すまんすまん、遅くなってしまった。あ、叔父の高倉佑樹です」
「初めまして、綿貫凪桜です」
「えっと、この感じ結構大変だったんじゃないか?」
「僕は全然。ただ佐藤さんのメンタルはだいぶ弱ってるみたいで」
「何でも投げたんじゃないか?」
「薬と体温計だけですよ」
「それが困るんだよ」
佑樹さん帰ってきたんだ。なんか2人とも仲良さそうで焼けちゃうな。
「これ、熱と佐藤さんの様子メモしたので」
「助かるよ。綿貫くん、仕事できるね」
「ありがとうございます。あの、答えられたらでいいんですけど」
「ん?」
「佐藤さんっていつもこんな感じになるんですか?」
「んー、このメモを見る感じ、まだマシな方かな。悪いね、大変な仕事任せちゃって」
「明日病院に行く感じですか?」
「薬はあるし、この状態で病院行くのはなぁ」
びよ、病院!?ヤダヤダ!行かないよ!
「ほら、目を瞑ってても嫌がってるだろ?」
「嫌がってても……」
「パニックになっちゃうからさ。入院……今回は難しそうだし」
なんだろう、2人が作戦会議してるのはわかる。私混ぜて欲しいなあ。
「というか、ずっと抱っこしててくれたのか?疲れたろ」
「いえ、なんかこれが1番楽そうだったので。あ、すみません。お付き合いもしていない異性が」
「いやいや、これじゃないと寝ない時は相当だ。ほんと、助かったわ。じゃあこのまま引き取るな」
……何の音?シャワー?
ぼんやりとした頭で体を起こせば、私はベッドの上。遠くからシャワーの音が聞こえるけど、誰かいるの?まさか綿貫さん!?いつの間に寝ちゃったんだろう。
毛布を引きずり、ゼエゼエハァハァしながら洗面所まで来たけど、流石にのぞいちゃ悪いよね。仕方ないから廊下に座って待機。
「っな、おい!」
「……ん?おはよう」
「おはようじゃないよ、何でこんなとこで寝てんの」
「佑樹さんことなんでいるの?」
「お前が熱出したからだよ。ほら、行くぞ」
歩く気がないとバレているので、抱っこされたままリビングへ。昼間の夢は不思議だったな。綿貫さんはいつ帰って、どこからが夢だったんだろう。
「ほれ、熱測んな」
「……」
「ん?どうした?」
「わ、わ、綿貫さんに……うえーん!」
昼間やってしまったことを思い出して、大号泣。あのまま綿貫さんを刺してたら……。
「暴れすぎ、ちょっと落ち着け」
ギュッと佑樹さんに捕まったけど、落ち着かない感情を内側に留めておけず、ジタバタと悪あがき。
「綿貫くんは肝が据わってるね。これの相手をできるんだから。しかもこの感じ、気持ちバレてるだろうな」
「やだやだ!」
「ん、そんで悪いがもう行くぞ」
「やだ!」
何度もやだやだ言ったけど、全無視のまま助手席に乗せられた。病院だったら嫌だって思ったけど、気がつけばそのまま眠りに落ち……うるさいな。
「ここどこ?」
後部座席で寝ていた私は、病院でも誰かの家の駐車場でもないどこかに。運転席に佑樹さんもいない。
「ん?これ資料か……あ、ここ現場?」
現場じゃなかったらここは戦場だ。そう思うほどの銃声音。時計を見れば14時……結構寝ちゃったな。
どれどれ?テロリスト組織の壊滅か。開始時刻12時半……え、これ難航中なのでは?
さ、椿ちゃんがいっちょ肌を脱ぎますか!




