82.攻撃
なんかよくわからなくなってきちゃったけど、渡された体温計。
なんでみんな熱測れって言うの?普段測らないじゃん。
「その顔、嫌なのはわかりました。でも測ってください」
こんなもの、えい……?
「何回も引っかかりませんよ。投げさせません」
振り上げた体温計の上半分を、綿貫さんは握っていた。それなのに私は……。
反射的に体温計を捻り、奪い取り掲げた。やばい……綿貫さんにこんなことしたくなかったのに。
カタンッ。
「投げなかったですけど、落としましたね。そして、そんなに泣かないでください。大丈夫ですよ」
綿貫さんに攻撃しちゃったら、死ぬだけじゃ許されないよ。私無意識に敵対心を持っちゃったの?もうやだよ!
「横には……なれそうにないですね。はい、バンザイ」
「バンザイ?……え、ちょ、待って!?」
気がつけば抱っこされ、赤ちゃんのように包まれた。
「私重いです!綿貫さん!私……あの……」
頭が重い。そんで寒い。なんかフラフラする。息が苦しい。でも謝罪して熱を測らなきゃ。
「あの、測ります」
「熱測りますか?」
「は、測ったら許してもらえますか?」
「僕も測れ測れってうるさかったですからね。測らなくてももう怒りませんよ」
「……グズンッ、測ります」
渡された体温計、もう涙でぐちゃぐちゃで数字なんて読めない。
ピピピッ
「39.1か……寝れそうですかって、その目の感じだと寝れそうですね」
謝りたいけど、もう声も出ない。目を開けているのがやっとなのに、背中をさすられたら寝ちゃう……ダメだ、ダメだ。
ダメだと思い続けて……そして寝た。
「あ、先に髪ほどいちゃいますね。さっきから頭痛いよね」
1つに結いでくるリンパしたそのヘアゴムを、さらっとほどかれる。そしたら余計体に力が入らなくなってきた。
「あ。か、髪がボサボサ」
「髪?」
「は、恥ずかしい」
「気にしないでください。薬持ってきますから、1度ソファーに降ろしますね」
え、あ、私抱っこされてた?え、それで寝てたの?や、やだ!恥ずかしい!
「熱、測りますか?測れそうならで大丈夫ですよ」
「は、測ります」
「熱測っててください。2つ結びなら横になっても痛くないですかね」
渡された体温計を脇に挟むのが精一杯だった。
「さ、できました。体温計見せてください」
「ん」
差し出された手に体温計を渡す。
私がこんなにわがままで、熱と喘息で振り回してて、なぜか綿貫さんが私の家に拘束されているし。
「佐藤さん、39.3で記録更新です。上がりやすいんですかね。5時間経ったので薬飲めますよ」
「……薬」
「嫌なんですよね、知ってます。でも流石に飲みましょう」
許してもらえたけど、また投げたりして悪いことしちゃうかも。綿貫さんはタクシー代受け取ってくれないし、私がもう外に行こうか。
「ちょ、ど、どこに行くんですか?」
「んー、綿貫さんがこの家に住んでください」
「はい!?」
「私もう寝ますから」
「寝室で寝るんですか?」
「いや、外に」
靴下……履いてないけどいっか。
「え?」
ぐっと腕を引っ張られ、私はそのまま後ろに転びかけた。そこを後ろから抱きしめられ、玄関でバックハグ状態に。
「な、な、なんですか!?」
「なんですかじゃないですよ!なんでそんなに不安になるようなことするんですか。まずは薬を飲んで、水分とって。そこからは寝てもいいですし、座ってても良いですから」
「私は……悪い子です。綿貫さんに迷惑をかけ「てません!」
「ほら、行きますよ!」
強く握られた手を引っ張られ、ソファーに座らされたと思えば、流れるように薬を渡される。これ以上嫌われたくないし、渋々薬を飲む。
「眠り……ません」
「起きてて良いので、足つねるのやめましょうか」
寒いし頭痛いし、考えるの疲れたし。
「熱出ると涙止まらないんですね。じゃあちょっと失礼して」
脇の下を掴まれ、なぜか私は綿貫さんの膝の上に座っている。そして後ろから抱きつかれ、逃げられない。
「わ、わ、綿貫さん!私」
「涙拭いて、ゆっくり息をしてください。喘息始まると終わらないでしょう」
やっぱりこれは夢なんだ。綿貫さんが優しいのは現実でもそうだけど、こんなグズグズな私に優しくしてくれるなんて。もうなんな力が入らない……。
「ちょ……急に寝ちゃうタイプか。よいしょ」
そんな声が遠くで聞こえた。




