75.怒涛の夏と誤解
美英さんとの恋バナのせいで、さらに考えることが増えちゃった。とはいえしばらく会う予定ないし、というか会えないし……。
モヤモヤとドキドキが爆発した私は、とにかく仕事に打ち込むことにした。今日は歌舞伎町の違法風俗店5店舗潰し。久しぶりに殺しじゃない制裁だ。
ピコンッ
『今日は人生初の飲み会です。お酒に弱いので頑張ります!』
『飲みすぎないように気をつけてくださいね。楽しんでください』
えー、酔っ払ってる綿貫さんが見たい!私はまだ飲めないけど、もし綿貫さんが絶対に覚えてないってなるなら、告白まではいかなくてもちょっとの好意を伝えられたりしたりしなかったりするかも。
「佐藤さん、この店舗が噂の……」
「了解です!」
本来なら警察だけで検挙できる事案なのに私が駆り出されたのは、5店舗中2店舗に銃を所持した護衛がいるらしいから。
もともとはお客さんのふりをして真心斗が行くはずだったが、まさかのヘルパンギーナでダウン。こないだ保護した子どもからもらったらしい。
「あ?何、体験入店の子?」
「あー、はい。飛び込みなんですけどできますか?」
「いいよいいよ。じゃあドア閉めてこっちに……ッン、ッナアァ」
入り口の男が銃の所持かい。首絞めて落とせちゃったし、こんなやつに銃を持たせるなし。
手袋をつけ、銃を持ち、各部屋をチェック。
「ん?体入?ッンガ、カハッ」
ゴンッ
この店舗には2丁か。
「終わりましたー」
「佐藤さん確認!全員突入!」
さ、帰って報告書を書くか。
コインパーキングに小銭を入れ、領収書を受け取り車を発進。
「お疲れ様でーす」
「椿おかえり。こっから結構かかりそう?」
「んーん、30分ぐらいじゃないかな」
大輝さんから貰った飴を口に入れながらパソコンを立ち上げれば、人事労務部から【重要】というメール。
――絶対に綿貫さんのことだ。
「……ねえ、お兄ちゃん?」
「ん?……なんのお願いだ?」
「私の代わりにメール見て欲しいんだけど」
「何、人事?」
「これさ、綿貫さんの身辺調査結果なんだよね。でも勝手に色々知りたくないというか……だから白か黒かだけ教えてくれない?」
綿貫さんの全てを知りたい。でも、勝手に見ちゃうのは違うんだよな。やっぱり綿貫さんの口から聞きたいというかなんというか。
「え、お兄ちゃん見ていいの?」
「うん」
「えっと……真っ白です!」
「やっぱり!そうだよね!」
予想通りの答えに安堵のため息があふれた。わかっていても、ちゃんと知りたかったこと。ということは……。
「じゃあやっぱり告白!?」
「待て待て、椿早いって」
「でもさ、佑樹さんも美英さんも脈アリだって」
どうしよう、え、もうそういう段階なの?私たちそういう仲になるの?いや、まさか!
アセアセしても何も進まない。よって、私はさらに仕事に打ち込んだ。そして本当に忙しかった。
9月に入ってから、勇気を出して本屋さんに行こうと思った日もある。夕方にワンピースを着て最寄駅まで行ったのに、緊急応援要請。
「なんかホッとしちゃったけど……会いたかったな」
ピコンッ
大阪立てこもり事件発生から8時間。いわゆるテロリズムで、人質2人。武器を所持した12人の男女は、宗教2世と救済・措置対象と判断された。
「ただ今容疑者の男女が出てきました」
「投降と思われます」
「人質になっていた女性2人が今保護されました!」
はー、緊張した。
久しぶりのネゴシエーター(人質交渉人)が無事終了し、しゃがみ込んだ。
「さすがだ」
「ありがとうございます、高倉課長」
今日は報告書とかそういうレベルの話じゃない。ひとまず車に乗り込み、携帯を開く。
『佐藤さんは最近忙しいですか?僕のいない時にお店に来たりしてます?」
待って……誤解されてる!?私が綿貫さんを避けてるって思われてる!?
そんなことないよ!今日だって会いに行こうとしたんです!でも緊急の呼び出しだったんです!
私のメッセージからその焦りが伝わったのか、綿貫さんからの返信にすぐさま佑樹さんに抱きついた。
「課長、お休みをください!」




