73.爆弾落下
エンドロールを観ながら、鼻をズビズビ言わせてます、佐藤です。
なんだかんだいいながら、クライマックスに入り結局めり込み泣いてます。
「これどうぞ」
「……ッヒク、あ、ありがとうございます」
ほんと、なんでこんなゾンビ映画で泣けるのか。作家も良いが、監督がほんと最高……って、なんかすごくいい香り?
「わ、わ、綿貫さん!?」
「なんでしょうか?」
「は、ハンカチ……なんで、私濡らしちゃって」
何も考えずに受け取ったハンカチ。普通に涙を拭ったものの、紺色のハンカチは私のものじゃない。
「佐藤さんティッシュ使わないから。どうぞ気にせず使ってください。僕テーブル片付けちゃいますね」
「え、あ、そんな……」
「いいからいいから、気にしないでください」
濃淡のついた紺色のハンカチ。申し訳なさからちょんちょんと涙を拭いても感じる、ほんのり甘い香り。これが柔軟剤の香りか……待って待って、変な妄想か始まっちゃうじゃないか!
「佐藤さん、今日プリン用意したんですけどどうですか?」
「へ?い、いいんですか?」
「もちろん!コーヒーも飲みますよね?」
「……なんでそんなに優しくしてくれるんですか」
あ……そう思った時にはもう遅い。心の内が漏れてしまった!でもほんと、なんでこんなに優しくしてくれるわけ!?というか、普通に考えて手土産持ってくるべきだったよね?
「んー、そうですね」
「……あっ、ごめんなさい」
「女の子には優しくするよう言われて育ったからですかね?」
「わ、綿貫さんは私のことをよく女の子って呼びますよね」
「はい、だって女の子じゃないですか」
真顔でサラッと言われると、カーッと熱くなるのがわかる。生粋のジェントルマンじゃん。これ以上ときめかせないで欲しい……トキメキ死ちゃうよ。
「佐藤さんはカフェラテホットですか?」
「あ……はい」
「お砂糖も入れますよね」
「……あ、ありがとう、ございます」
もう余計なことを言わないよう、じっとしていよう。ちゃんと正座に座り直して待っていたのに、どんどん心臓の音がうるさくなる。そしてそのピークを迎えた。
「な!なんで……隣に」
「あ、嫌でしたか?すみません、今移動「全然!」
「ふふっ、じゃあ隣に失礼しますね」
映画が終わったから向かい合わせに戻ると思ったのに、サラッと隣に座るから声が漏れてしまった。さっき手が触れたせいなのもあって、意識がついそっち側にいってしまう。
「あ……このプリン。商店街のケーキ屋さんのですか?」
「知ってました?すごくおいしいから佐藤さんに食べて欲しくて買ったんですけど」
「懐かしいです……え、嬉しい」
引きこもりの私を、佑樹さんがこのケーキ屋さんによく連れて行ってくれたっけ。
「佐藤さんはプリンが好きですか?」
「え!な、なんでわかるんですか?」
「佐藤さんわかりやすいですもん」
恥ずかしい、もうとにかく恥ずかしい。でも、綿貫さんがそれで笑ってくれるならいっか?
「妹、みたいな感じなのかな……?」
私の知ってるあのお兄ちゃんとは違うけど、本物のお兄ちゃんってこんな感じなのかも。
「違いますよ」
「へ?」
「声に出てます」
「え、あ、な、なんかすみません」
「佐藤さんのことを妹だなんて思ったことないです。しかも僕、末っ子ですし」
えー、一人っ子が長男だと思ってた。これで末っ子って、萌えがやばい!
そこからは本と映画の話に舵を切り、煩悩を一生懸命捨てた。それはそれで楽しい時間だったのに、帰りに送ってもらったバス停で、綿貫さんは爆弾を落とした。
「今日はありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ。今度は違う映画観ましょう」
「い、いいんですか!?」
「ふふっ、いいんですよ。あと1ついいですか?」
「え?はい」
「僕、佐藤さんのことちゃんと女の子として見てますよ」
「……へ?」
「あ、バス来ちゃいましたね。ではまた」
「あ……はい」
今のどういう意味!?これを私1人で抱えるのはもう無理だ!しかし美英さんも向日葵ちゃんも仕事でいない。
今この瞬間「脈あり」「告白」の渦の中に「女の子」が加わった私はパニックになり、帰宅後ベッドの中で悶えた。
……え、私どうしたらいいの!?




