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73/86

73.爆弾落下

 エンドロールを観ながら、鼻をズビズビ言わせてます、佐藤です。

 なんだかんだいいながら、クライマックスに入り結局めり込み泣いてます。


「これどうぞ」

「……ッヒク、あ、ありがとうございます」


 ほんと、なんでこんなゾンビ映画で泣けるのか。作家も良いが、監督がほんと最高……って、なんかすごくいい香り?


「わ、わ、綿貫さん!?」

「なんでしょうか?」

「は、ハンカチ……なんで、私濡らしちゃって」


 何も考えずに受け取ったハンカチ。普通に涙を拭ったものの、紺色のハンカチは私のものじゃない。


「佐藤さんティッシュ使わないから。どうぞ気にせず使ってください。僕テーブル片付けちゃいますね」

「え、あ、そんな……」

「いいからいいから、気にしないでください」


 濃淡のついた紺色のハンカチ。申し訳なさからちょんちょんと涙を拭いても感じる、ほんのり甘い香り。これが柔軟剤の香りか……待って待って、変な妄想か始まっちゃうじゃないか!


「佐藤さん、今日プリン用意したんですけどどうですか?」

「へ?い、いいんですか?」

「もちろん!コーヒーも飲みますよね?」

「……なんでそんなに優しくしてくれるんですか」


 あ……そう思った時にはもう遅い。心の内が漏れてしまった!でもほんと、なんでこんなに優しくしてくれるわけ!?というか、普通に考えて手土産持ってくるべきだったよね?


「んー、そうですね」

「……あっ、ごめんなさい」

「女の子には優しくするよう言われて育ったからですかね?」

「わ、綿貫さんは私のことをよく女の子って呼びますよね」

「はい、だって女の子じゃないですか」


 真顔でサラッと言われると、カーッと熱くなるのがわかる。生粋のジェントルマンじゃん。これ以上ときめかせないで欲しい……トキメキ死ちゃうよ。


「佐藤さんはカフェラテホットですか?」

「あ……はい」

「お砂糖も入れますよね」

「……あ、ありがとう、ございます」


 もう余計なことを言わないよう、じっとしていよう。ちゃんと正座に座り直して待っていたのに、どんどん心臓の音がうるさくなる。そしてそのピークを迎えた。


「な!なんで……隣に」

「あ、嫌でしたか?すみません、今移動「全然!」

「ふふっ、じゃあ隣に失礼しますね」


 映画が終わったから向かい合わせに戻ると思ったのに、サラッと隣に座るから声が漏れてしまった。さっき手が触れたせいなのもあって、意識がついそっち側にいってしまう。


「あ……このプリン。商店街のケーキ屋さんのですか?」

「知ってました?すごくおいしいから佐藤さんに食べて欲しくて買ったんですけど」

「懐かしいです……え、嬉しい」


 引きこもりの私を、佑樹さんがこのケーキ屋さんによく連れて行ってくれたっけ。


「佐藤さんはプリンが好きですか?」

「え!な、なんでわかるんですか?」

「佐藤さんわかりやすいですもん」


 恥ずかしい、もうとにかく恥ずかしい。でも、綿貫さんがそれで笑ってくれるならいっか?


「妹、みたいな感じなのかな……?」


 私の知ってるあのお兄ちゃんとは違うけど、本物のお兄ちゃんってこんな感じなのかも。

 

「違いますよ」

「へ?」

「声に出てます」

「え、あ、な、なんかすみません」

「佐藤さんのことを妹だなんて思ったことないです。しかも僕、末っ子ですし」


 えー、一人っ子が長男だと思ってた。これで末っ子って、萌えがやばい!


 そこからは本と映画の話に舵を切り、煩悩を一生懸命捨てた。それはそれで楽しい時間だったのに、帰りに送ってもらったバス停で、綿貫さんは爆弾を落とした。


「今日はありがとうございました」

「いえいえ、こちらこそ。今度は違う映画観ましょう」

「い、いいんですか!?」

「ふふっ、いいんですよ。あと1ついいですか?」

「え?はい」

「僕、佐藤さんのことちゃんと女の子として見てますよ」

「……へ?」

「あ、バス来ちゃいましたね。ではまた」

「あ……はい」


 今のどういう意味!?これを私1人で抱えるのはもう無理だ!しかし美英さんも向日葵ちゃんも仕事でいない。


 今この瞬間「脈あり」「告白」の渦の中に「女の子」が加わった私はパニックになり、帰宅後ベッドの中で悶えた。


 ……え、私どうしたらいいの!?

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