72.お家デート
人事労務部に言われた通り、ナイフで18人を制裁した翌日。大輝さんに連れて行ってもらったお店で買った、花柄のワンピースを着てバスに乗った。
そう、私は休みを勝ち取ったのだ。憧れのお家デートに、やっぱり理由はわからないけどみんな着ているワンピースで向かう。が、その前に今日は病院に行かなくてはならない。
現場に乗り込むと言うことは、それだけ吸入の減りが早いということ。こればっかりは仕方ないね。
診察までも長いし、お会計までも長い。しかし約束には間に合い、10時半に無事薬をゲット。嬉しすぎて、スキップしちゃう。
「佐藤さん!」
「わ、わ、綿貫さん。は、早いですね」
まだ約束の11時まで20分もある。
「病院から来るって言ってたので、早く終わるかなって。って、なんかすみません」
な、何その可愛い発言!綿貫さんって本当に可愛いんだよな。
「佐藤先生、今日もよろしくお願いします」
「へ、あ、はい!」
午前中は1時間ほど、綿貫さんの夏休みの宿題をお手伝い。日本の大学は夏休みに宿題出るんだ。大変だな。
「終わったー!佐藤先生、ありがとうございます!」
「な、そ、その……先生って言うのはやめませんか?……は、恥ずかしくて」
「んー、じゃあたまに言うことにします」
「な、なんでですか!?」
「ふふっ、冗談です」
綿貫さんはズルい。こんなにもドキドキして、今日まだこれから映画なのに心臓持つかな。
ピンポーン
「ピザ、届きましたよ。じゃあ映画観ましょうか」
さっきまでは向かい合わせに座っていたのに、今度は隣り合わせ。美英さんの言葉の数々が頭に浮かんじゃって、もう言葉が何も出てこないよ。
「こんなに泣けるゾンビ映画は、この作品だけですよね。あ、佐藤さんこれ、よかったら使ってください」
「あ、す、すみません!いつも私が泣くから」
テーブルにはピザとコーラ、そして私の前に置かれた箱ティッシュ。毎回大泣きしてますよねって、遠回しに言われて恥ずかしい。でも、私涙腺弱弱なんだよな。
しかし私の特技、映画が始まれば夢中になれる……はずだったのに。
映画館じゃないからか、綿貫さんを意識して全然話が入ってこない。
「あ、ピザ僕が触っても大丈夫ですか?」
「へ?ん?あ、もちろんです!」
緊張しすぎて正座していた私のお皿に、ピザを載せてくれる優しい綿貫さん。しかしそれが余計私を緊張させてるんですけど、どうしたらいいですか?
あ、ちなみに優しくはされたいです。
話半分のままピザを食べ、体育座りをして集中する努力をする。映画が盛り上がるにつれて少しずつ入り込めても、隣にいるという意識が抜けることはない。
「っな!」
「あ、すみません。驚かせちゃいました?」
「いや、全然、大丈夫です、すみません!」
ゾンビに包囲されたタイミングで、たまたま綿貫さんの右手と私の左手が触れてしまった。
横目で盗み見れば、楽しそうに映画を観ている綿貫さん。どうやら集中すると、体が斜めになるタイプらしい。
手が触れたのも多分そのせいだ。それなのに勝手に意識しちゃって恥ずかしい!
あー、全然内容が入ってこないなんて、人生で初めてだよ。




