69.夏休み
綿貫さんは無事夏休みに入り、私もブラックな社畜を続けている。おかげでなかなか本屋さんに行けていない。
「じゃあお言葉に甘えて、明日から1週間夏休みいただきます!」
「お土産期待してまーす」
宗さんは明日から家族でハワイ旅行。毎年夏と冬は、ファミリータイムを過ごせるよう、みんなで協力している。これぞチームだね!
「椿、お前も頑張れよ」
「ん?何をですか?」
「ちょっと耳かせ」
宗さんは小さな声で「脈アリな彼と、楽しい夏を」と言い、手をひらひらとさせ帰って行った。
そうだ……綿貫さんが脈アリな可能性だと言うことを忘れてた!え、どうしよう。本当にそんなことありえる?いや、ありえない。
ただ趣味が合うってだけで、綿貫さんが私のことを……友達としては嫌われてないと思いたい。公園で迷惑かけた件も仲直りしたし、ひったくり捕まえた件も一件落着したし。
ピコンッ
『来週以降で空いてる日ありますか?○○公開されるので、ぜひ一緒にと思っているのですが。ちなみに木金は夕方からバイトなので、午前中なら大丈夫です』
みゃ、脈アリなの!?
また映画に誘ってもらっちゃった。やっぱり嫌われてはないよね。え、行ける日あるかな……。
「佑樹さーん」
「ん?」
「来週の水曜日、仕事休みにできたりしますか……?」
「んー、ちょっと待ってな。ああ、いいぞ。あ、何?綿貫くん?」
「そう!映画に行くの!」
「俺たち2人っきりでよかったな」
今日は大輝さんも真心斗も現場。2人に聞かれたら正直ダルいし、佑樹さんの言う通り。って、ん?
「ねえ、前はこういう話するとグッタリしてたのに、なんで普通に話してくれるの?」
「まあ、だって綿貫くんいい人だって知っちゃったし」
「そうだよね!綿貫さんってすごくいい人だよね!」
「そうだな」
佑樹さんが言うなら間違いない!え、本当にまたデートできるの?夏服ないよ、買わなきゃじゃん。
『来週の水曜日はいかがですか?』
相変わらずメッセージがくればドキドキするけど、だいぶスムーズに返事をできるようになった。どうやらすぐに返事しても、半日以上返事ができなくても、綿貫さんは怒らないみたい。ほんと、優しいなあ。
「さ、仕事終わり!明日俺ら一緒だし、今日泊まってくか?」
「えー、でも美英さんに悪いよ」
「今日椿が泊まりに来るかもって、天ぷらの用意してたぞ?」
「早く帰ろ!天ぷら楽しみだなぁ」
意気揚々と佑樹さんの車に乗り込み、助手席で携帯を握る。私も車通勤してもいいんだけど、他の人と移動する時に運転したくないから電車通勤。真心斗と移動する時は、どっちが運転するかじゃんけんだけど。
ピコンッ
『水曜日了解です。またランチしてから映画という流れでいいですか?』
またランチしてもらえるんですか?つまり約半日は一緒にいられるということですよね。神!
この日の夜、美英さんと天ぷらを食べながら恋バナは大盛り上がり。
「椿ちゃん告っちゃえば?」
「む、無理だよ!」
「じゃあ告白され待ち?」
「ッン!や、その、だって……無理だよー」
「美英、いじめすぎ」
「だって椿ちゃんの初恋だよ?応援したいじゃん。それにさ、好きな人とは一緒にいた方がいいじゃない?」
好きな人とは付き合いたいし、綿貫さんが彼氏なんて夢みたいだけど、そのためには告白という段階を踏まなきゃいけない。漫画でも何度も見てたのに、すっかり忘れてた。
……え、無理!無理無理無理!
やっぱこのままの関係でもいいかも?お付き合いしても、キ、キ、キ、キスとか想像つかないし!
はぁ、恋って大変なんだな。




