70.奢ります
待ち合わせは11時に改札。というのも、今回は朝イチで出勤しなければならず、念願の改札待ち合わせデートを迎えることになった。
ちなみに出勤理由は、昨日使ったナイフを破損したのに、経理に購入申請を出すのを忘れていたから。
デートにスーツは嫌だし、1度家に帰る時間もない。仕方ないのでテーパードパンツに、カジュアルめなブラウスを合わせて誤魔化すことにした。
「あ、佐藤さん!」
「わ、わ、綿貫さん」
「待ち合わせしてもびっくりするんですね。ふふっ」
そりゃそうだよ。だってあなたに会えるんですよ?心の準備がいつまで経っても終わりません。
「そういえば教えてもらったドイツ語のテスト、バッチリでした。ありがとうございます」
「ほんとですか?でもまあ綿貫さんなら当たり前ですよね。結果は夏休み明けですか?」
「当たり前どころか、ドイツ語1番苦手なんですよ。結果は8月の3週目の予定です」
なんか同じ大学の友達と話してるみたいで、不思議な感じ。綿貫さんはどうして私と普通に話してくれるんだろう。まるで神様みたい!
「佐藤さんは本当に美味しそうに食べますね」
「あ、あの……は、恥ずかしいのでそういうことは言わない方向性でお願いします……」
「んー、そんなことよりももっと食べてください」
「へ?」
「佐藤さん軽すぎるのでもっと食べた方がいいですよ」
軽い……そうだ、私綿貫さんに支えられて接触した過去が!あんまり記憶にないけど、思い出すだけで顔が熱い。しかも本当に全然軽くないんだよー!
「今日もチュロス食べますか?」
「た、食べます……チョコを」
「すみません、チュロスのシナモンとチョコを1つずつ。飲み物はコーラと、佐藤さん何にします?」
「あ、じゃあメロンソーダをお願いします」
「お会計1840円です」
小銭ないからクレジットで……。
「カードで「これでお願いします」
「え?」
宙に浮き、行き場を失ったクレジットカード。
「今日は僕が奢ります。家庭教師代です」
な、なにそれ!その文化知らないよ!
動揺している間にチケットも購入され、あれよあれよという間に館内へ。
「楽しみですね」
「……はい」
まだ薄暗いCMの時間。綿貫さんが隣にいるという事実、頭の中にこだまする「脈アリ」と「告白」という言葉。緊張しすぎて手が震えちゃうよ。
しかし私は私、映画が始まれば大丈夫。ガッツリ世界に入り込んだ私は、今日はボロボロとハンカチがビチャビチャになるまで泣いた。
「いやー、面白かったですね。ゾンビ映画なのに、僕も涙出ちゃいました」
「ほんと、感動しました。いやー、結末を知ってても最後ですね!」
「今日もお茶して行きませんか?」
「も、も、もちろんです!」
なんか順調すぎて怖い。仕事に呼び出されることもなく、綿貫さんと2人でいれることが嬉しすぎて、スキップしそうだよ。というか、映画が終わったらやっぱり意識しちゃう……どうしよう。
「佐藤さんカフェラテホットでよかったですか?」
「あ、はい……って、え!?」
「今日は奢らせてもらうって決めたんで」
そんなのいつ決めたの!?制裁部の人には全部奢ってもらいたいけど、綿貫さんには私が奢りたいよ。いや、正確に言うと貢ぎたい!
「あ、あ、ありがとうございます」
「佐藤さんって夏休みあるんですか?」
「えー……んー、どこかであるとは思いますがいつになるかな」
「そうですか」
「なんでですか?」
「佐藤さん今日の映画の、前日譚の映画って観たことあります?」
「ないですよ」
あるのは知ってるけど観たことはないな。DVD廃盤で手に入らないし。
「あれうちにあるんですよ。今度うちに観に来ませんか?」
……観に来ませんか?観に、行くの!?そんなのお家デートじゃん!!!




