62.ミッション ドイツ語
私は現在ソファーで項垂れてます。もう起き上がる気力もありません。そしてタオルケットを被って、引きこもり中です。
「悪かったって」
「……でもさー、だってさー?」
「ちゃんと誤魔化せたろ?」
綿貫さんの前で呼ばれた「妹」の声量はすごかった。
しどろもどろになった私は、そのまま発作でダウン。大輝さんは従兄弟という設定になり、担がれて綿貫さんとはお別れ。
「連絡しなかったのは悪いけどさー。私だって、ゲホッゲボッ」
「マジで悪かって。お願いだから座ってくれ。横になってると咳止まらないだろ?」
しかしなんかイライラして座りたくない!
気がつけばなぜかベッドで寝ていた。枕元には大輝さん。
翌日から3日間の在宅勤務になり、ようやく通常運転に復帰。
あれからもう1ヶ月。1度も発作は起きていない。
一昨日梅雨入りしたが、きちんと薬を飲み吸入もして体調は万全。
現在、金曜日の夕方。久しぶりの本屋さんに、コソコソと入店。あれから連絡は取っているものの、1度も会えていない。
どんな顔をしたらいいのかわからないし、緊張で手汗がやばい。
「綿貫さんはレジ対応中か」
ひとまず顔を見れた喜びと、話さなくて済んだことにちょっと安堵。そろそろと歩いていたら、ドイツで人気の作家さんの本がとうとう日本に上陸というポップ。
「翻訳家さんは誰だろう?」
「今日は何見てるんですか?」
「わ、綿貫さん!」
「ふふっ、佐藤さんのびっくり癖は直りそうにないですね」
「ははっ、まあ、はい」
深い意味はないけど、なんとなく本を素早く棚に戻す。両手の指と指を絡めておかないと、なんとなく落ち着かない。
「何読んでたんですか?」
「あ、この本を」
何を話したらいいかわからない私に、話を振ってくれる優しい綿貫さん。私は素直に本を指差した。
「外国の作家さんの本ですね」
「はい、結構面白いですよ」
「あ、英語版読まれたんですか?」
「いえ、原作を」
「見てもいいですか?」
「どうぞ」
せっかくだし日本語版も読もうかな。最近はちょっと時間あるし、通勤時間に読んでもいいんだよな。
「佐藤さん」
「はい」
「ドイツ語わかるんですか?」
……やってしまった。高卒(だと思われてるはず)なのに、ドイツ語喋れるなんて変わり者と思われたに違いない。しかもそのことを忘れて、さらっと言ってしまった。自慢って思われたらどうしよう……。
「読み書きどっちもいけます?」
「……いけます」
「あの、教えてもらえたりしませんか?」
「え、いいんですか!?」
合法的に会う理由を発見!任せてください!ドイツ語全然バリバリいけます!
その日の夜、すぐにメッセージが届いた。
『直近で会える日ってありますか?】
『明後日の日曜日の午後なら』
と、約束を取り付けた!
ちなみに日曜日の午前5時に資産凍結。報告書を書いて昼解散。
モチベーションマックスの私は、馬車馬のように働いた。
11時には1人で突入し、12人を制裁。1発でクリティカルヒットの、無駄なし。これで経理への報告削減。
1度家に帰宅し、汚れた体を綺麗な洗い流す。花柄のワンピースという、オーソドックスな格好。
「お待たせしてすみません!」
なぜか綿貫さんは、絶対に私より先に待ち合わせ場所にいる。現場なら私を上回る人なんてほとんどいないのに、デートとなると全くの別。
やっぱり綿貫さんに勝てる気がしない。




