60.送ります
綿貫さん怒ってるよね。でもさすがに土下座はダメだし、詰んだ?
「怖かったですよね?」
「え?全然」
「じゃあなんで泣いてるんですか」
「あ、これは違くて……」
深いため息をつき、頭を抱えている綿貫さん。
あ、終わった……怖いってことにしておけばよかった。
「怖くなかったのはわかりました。でも体調は悪いですねよね?」
「……へ?」
「見惚れるほどかっこよかったですけど、あんなに動いたら喘息、苦しいんじゃないんですか?」
えー、そんなこと忘れてたよ。
っていうか見惚れた?どこに?何に?え、股間を蹴る姿に?あ……足技禁止されてたんだった。これ怒られるやつじゃん。
「佐藤さん?」
「はい!すみません!」
渡されたハンカチ。え……これ触っていいの……?
「気づいてます?」
「な、何に……ですか?あ、ハンカチ返します!すみません!」
「違いますよ。さっきから乾いた咳してるのって、喘息なんじゃないですか。泣いてるのは苦しいからですか?」
あー、言われてみたら?確かにちょっと苦しいけど、これは恋じゃないの?恋は苦しいもんだって勉強したんだけど。というか、綿貫さんに嫌われたショックというか。
「僕も昔小児喘息だったので、その音に聞き覚えがあるんです」
「あー、えっと……?」
「吸入はあるんですか?」
「い、家に……」
「タクシー呼びますか?」
「これぐらいなら全然大丈夫です!」
えー、綿貫さんなんでわかるの?大輝さんみたいじゃん。私言われるまで気づかなかったよ。っていうか吸入なんて発想かけらもなかったし。
っていうか涙止まらないのは喘息のせい?
「じゃあ送ります。もう暗いですし。泣いたら喘息苦しくなりますし、とりあえず涙拭いてください」
「いやいやいや、そんな、自分で帰れます!なんなら走れます!」
「走らないでください。心配なんですよ」
「……はい」
正直もう逃げたい。だってこれ以上ボロが出たら、綿貫さんに心の底から嫌われちゃうもよ?これ以上嫌われたら、もう立ち直れない。明日の仕事ボイコットしちゃう……本気で。
え、心配されてるの?
「歩けます?」
「歩けます歩けます!」
「歩いてくださいよ?ほんとに」
「ほんとにほんとに」
「……わかってます?」
「もちろんです!」
ただエスカレーターを掴む手が震えていて、心臓がバクバクしてて、喉が締まりそうなだけで、全然元気!
「座ってください」
「一駅なので「座ってください」
「……はい」
なんか今日の綿貫さん強いな。えー、かっこよ。これはこれでかっこいいな。萌え萌えじゃん。前に一緒に電車に乗った時と、またなんか違う王子様感がある。
「降りますよ」
「降ります降ります」
……え?ホームに降りただけなのに、なんで目と目があってるの?
まさかこれも夢?え、私いつ現実に帰れるの?
おでこに手を当てても……熱はない。ん?
「具合、悪いんですか?」
「へ?全然」
「ちょっと失礼します」
えーーー!!!綿貫さんの手と私のおでこが接触してる!?もう夢でもなんでもいいや!
「熱はなさそうですね。でも一応タクシー呼びます?」
「いやいや、本当に……あの、スーパーに行かないと」
「今日はまっすぐ帰りましょう」
「でも食べるものがないんですよ」
「じゃあ一緒に行きます」
やっぱり一緒に住むことになったんだっけ?
もうよくわからないから、とりあえずハンカチ返すことにした。




