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60/70

60.送ります

 綿貫さん怒ってるよね。でもさすがに土下座はダメだし、詰んだ?


「怖かったですよね?」

「え?全然」

「じゃあなんで泣いてるんですか」

「あ、これは違くて……」


 深いため息をつき、頭を抱えている綿貫さん。

 あ、終わった……怖いってことにしておけばよかった。


「怖くなかったのはわかりました。でも体調は悪いですねよね?」

「……へ?」

「見惚れるほどかっこよかったですけど、あんなに動いたら喘息、苦しいんじゃないんですか?」


 えー、そんなこと忘れてたよ。

 っていうか見惚れた?どこに?何に?え、股間を蹴る姿に?あ……足技禁止されてたんだった。これ怒られるやつじゃん。


「佐藤さん?」

「はい!すみません!」


 渡されたハンカチ。え……これ触っていいの……?

 

「気づいてます?」

「な、何に……ですか?あ、ハンカチ返します!すみません!」

「違いますよ。さっきから乾いた咳してるのって、喘息なんじゃないですか。泣いてるのは苦しいからですか?」


 あー、言われてみたら?確かにちょっと苦しいけど、これは恋じゃないの?恋は苦しいもんだって勉強したんだけど。というか、綿貫さんに嫌われたショックというか。


「僕も昔小児喘息だったので、その音に聞き覚えがあるんです」

「あー、えっと……?」

「吸入はあるんですか?」

「い、家に……」

「タクシー呼びますか?」

「これぐらいなら全然大丈夫です!」


 えー、綿貫さんなんでわかるの?大輝さんみたいじゃん。私言われるまで気づかなかったよ。っていうか吸入なんて発想かけらもなかったし。

 っていうか涙止まらないのは喘息のせい?


「じゃあ送ります。もう暗いですし。泣いたら喘息苦しくなりますし、とりあえず涙拭いてください」

「いやいやいや、そんな、自分で帰れます!なんなら走れます!」

「走らないでください。心配なんですよ」

「……はい」


 正直もう逃げたい。だってこれ以上ボロが出たら、綿貫さんに心の底から嫌われちゃうもよ?これ以上嫌われたら、もう立ち直れない。明日の仕事ボイコットしちゃう……本気で。

 え、心配されてるの?


「歩けます?」

「歩けます歩けます!」

「歩いてくださいよ?ほんとに」

「ほんとにほんとに」

「……わかってます?」

「もちろんです!」


 ただエスカレーターを掴む手が震えていて、心臓がバクバクしてて、喉が締まりそうなだけで、全然元気!


「座ってください」

「一駅なので「座ってください」

「……はい」


 なんか今日の綿貫さん強いな。えー、かっこよ。これはこれでかっこいいな。萌え萌えじゃん。前に一緒に電車に乗った時と、またなんか違う王子様感がある。

 

「降りますよ」

「降ります降ります」


 ……え?ホームに降りただけなのに、なんで目と目があってるの?

 まさかこれも夢?え、私いつ現実に帰れるの?

 おでこに手を当てても……熱はない。ん?


「具合、悪いんですか?」

「へ?全然」

「ちょっと失礼します」


 えーーー!!!綿貫さんの手と私のおでこが接触してる!?もう夢でもなんでもいいや!


「熱はなさそうですね。でも一応タクシー呼びます?」

「いやいや、本当に……あの、スーパーに行かないと」

「今日はまっすぐ帰りましょう」

「でも食べるものがないんですよ」

「じゃあ一緒に行きます」


 やっぱり一緒に住むことになったんだっけ?

 もうよくわからないから、とりあえずハンカチ返すことにした。

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