6.キュン死案件発生
現在翌週土曜日の夕方16時。
もしかしたら「毎週固定曜日で働いてるかも?」と思い、本屋さんへやってきた。
「正直に言うと調べまくりました。ごめんなさい」
本当はすぐにでも行きたかったが、真心斗に言われた「ストーカー」という言葉がよぎり、思いとどまった。人事労務部にそんなこと告白されたら大騒ぎだし、警察に言われたら捕まるかもしれないもん。
おかげで、何もしていないのに胸が高鳴る1週間を過ごすことになった。
毎日本を読んではNさんを思い出し、ドラマを観れば私とNさんを重ね、寝る前にはちょっとだけ妄想。もちろん、そんなこと誰にも話せないけどね。
しかし我慢して我慢してようやく来れたそのレジに、彼の姿は見えない。先週来たのはお昼過ぎだったし、もう帰っちゃったのかな。そもそも今日休みかもだし。えー、どうする?
「あ、でも今日会ってないから、明日来てもストーカーにはならないのかな?」
まあ残念は残念だけど、せっかく本屋さんに来たんだし恋の勉強をしよう!
「へー、面白そうな少女漫画がいっぱいあるな。高校生に大学生、ちょうどいいじゃん!」
さあさあ、カゴいっぱいの本に大満足。なんて思いながらレジに向かう途中で、大好きな作家さんの新作を見つけた。ちなみに手を伸ばしたこの時の私は、10秒後に放心することにまだ気がついていない。
「その本買うならこっちにサイン本ありますよ」
「そうなんですか?親切にどうもありがとうございます」
「この作家さん好きなんですか?」
「……へ?」
カゴが足に落ちたが、痛みなんて感じなかった。代わりに世界から音が消えた。
だってまさか目の前に、好きな人が現れるなんて思うわけないじゃん。というか、なんで話しかけられた時に「Nさん」だって気が付かなかったのだろうか。恋する身分として失格だ……。
「だ、大丈夫ですか?」
「へ、あ、はい!すみません。えっと、拾います、その」
「この作家さん好きなんですか?」
「はい!」
「じゃあこれどうぞ」
え、え、え、どういう状況!?私、今Nさんと会話したの?っていうかなんで私は彼に本を拾わせてるの?最低だ。そう慌てて拾ったがもう遅い。
「あの、足痛みますか?」
「え、あ、いや大丈夫です!それよりその、エプロンが……お、お仕事中じゃないんですか?」
「退勤後なんですよ。僕もこの作家さんが大好きで、絶対に買って帰ろうと思ってたんです」
「エ、Nさんも?」
「N……って僕のことですか?」
「す、す、すみません!」
真心斗の言葉が頭に浮かぶ。これはセクハラ?ストーカー?プライバシー侵害なのは間違いないよね……あ、私の人生終わった。
「先週来てくれましたよね。もしかしてよく来てくださってたんですか?」
「え……え!?な、なんで……」
「外国のお金を持っていたので僕も覚えてしまいました。ふふっ」
口はパクパク、心臓はバクバク。人生で初めての体験。
そうか、今までの対象もこんな気持ちだったのか。そりゃあっさりやれるわけだ。
え、今笑ったの?そして何その天使のような微笑み……やばい。
「もうお会計行きます?」
「あ、はい、では失礼しました」
「僕もお会計行くので、よかったらカゴ持って行きますよ。重いですよね」
1度は拾ってもらったかごを、サラッと持ってくれる優しさにクラクラ。しかし頭を抱えている場合じゃない。私は小走りで追いかけた。それはそれはもう全力で。
「綿貫さんお疲れ様。そちら彼女さん?」
「違いますよ。先週も来てくれたお客さんです」
「それはお客様、失礼いたしました。その新作買いに来たんですね。正直仕入れるか悩んだけど、綿貫さんが絶対必要なダークファンタジー作品だ!って言うから」
「ほら、欲しいお客さんいたじゃないですか」
「まさかその証拠にって、綿貫さん待ち伏せしてたりしてないですよね」
あなた綿貫さんっていうの?
もしかしなくてと私、彼女に間違えられた?
しかも私、認知されてたの?
やばいやばい!キュン死案件発生……応援を要請します。




