5.お寿司
真心斗の運転でやって来た銀座。お馴染みのお寿司屋さんを前に、真心斗は酒が飲めないと騒いでいる。ま、18歳の私には関係ないもんね。
「椿ちゃん、久しぶり」
「こんにちは!マグロを食べに来ました!」
「元気してたかい?マグロいいのが入ってるよ。留学お疲れ様、ご褒美だね」
この春、普通なら大学生になる年だから「仕事でイギリス行ってました!」なんて言えるはずもない。だからこういう時は、毎回留学ということにしている。我ながらいいアイデアだね。
いつも通り私は佑樹さんの右側に、真心斗が左側に横並びでカウンター席に座る。
「あ、そうだ!佑樹さんに聞いて欲しいことがあるんだけど」
「どうした?」
「実はね、なんと!私、一目惚れしちゃったんだー!」
「ッ!え、あ……椿?待った、ま、真心斗は何か知ってるのか?」
今日の一大事件を報告せずにはいられなかった私と、なぜかタジタジの佑樹さん。いつもの調子でノッてくれると思ったのに、声をあげたかと思えばいただいたお茶を吹き出している。しかも真心斗に助けを求めるなんて珍しいな。
「そうだ、佑樹さん聞いてくださいよ。こいつ本屋の店員に一目惚れしたとか言ってるんですよ。やばくないですか?」
「ほ、本屋の店員?え、どういうこと?」
「今日本屋さんに行ったんだけど、すごく綺麗な男の人がいて、優しかったしかっこよくて素敵な人だったの。これを恋と呼ばずして何と呼ぶの?思い出すだけでドキドキしちゃう」
「それは仕事だからだろ、勘違い女」
「真心斗、1回待ってくれ。椿……もしかして、その……好きな人ができたってことなのか?」
「うん!」
「椿ちゃん初恋かい?おじちゃん応援のカンパチあげちゃう」
目の前のお皿に乗ったおいしいお寿司を食べながら、彼の優しい顔を思い浮かべる。鮮明に思い出せるのはなんでかな。恋の魔法?
「私、本屋さんでアルバイトしたいな」
「「ダメに決まってるよ(だろ)!」」
悲しき即答。国家公務員が副業なんて許されるわけないし、そもそもそんな時間ないし。わかっていたけど、他に彼へ近づく方法が浮かばない。普通の人はどうやって仲良くなるの?私友達とかいないんだけど。
「あ、じゃあ連絡先書いたメモを渡そうかな」
「それはセクハラじゃね?」
「え、じゃあ毎日通おうか!覚えてもらえそうじゃない?」
「それは多分ストーカーだな」
「真心斗!じゃあどうしたらいいのか教えてごらんなさい?」
「諦めろ」
あー、いちいち腹立つ。しかも正論なのが余計ムカつく。でもどうしたらいいかわからないんだもん。
「……椿?その人は、な、何歳ぐらいなんだ?」
「20歳ぐらい?私とそんなに変わらないと思う」
「まあ、お前が言うならそうなんだろうな。あー、その人はそんなにか、か、かっこよかったのか?」
「うん!」
「高倉さん、姪っ子の初恋だ。許してあげなよ。ほら、3人にマグロだ」
「大将大好き!」
おまけにもう1つ貰ったマグロを食べながら、一生懸命考えた。だって真心斗は役に立たないし、佑樹さんはなぜか項垂れているんだもん。
「その……椿はその人とお、お付き合いしたいのかな?」
「当たり前じゃん!」
「け、け、結婚も?」
「それは考えてないけど」
「お前は万が一付き合えたとしても、だらしないから絶対に続かないね」
「ほんっと、嫌なやつ!」
話は進まないまま、真心斗は呼び出しをくらい帰宅。置いて行かれたのは大量の紙袋。タクシー代をせびろうと思っていた佑樹さんは、珍しく泥酔。仕方なく私がお金を払い、タクシーに詰め込むはめになった。
私も渋々タクシーで帰宅。重たい荷物を家に置いてから、コンビニへアイスを買いに繰り出した。
「好きな人とアイスとか食べてみたいなぁ」
なんちゃって!




