58.ひったくり
無事仲直り?をして、お手洗いへ行った綿貫さんを待っていただけなのに……。
私に安堵する暇をくれなかったその人は、女性からカバンをひったくった。そのうえ突き飛ばした。
あーあ、犯人と目が合っちゃったよ。職業柄、こういうのって巡り合わせる星の元産まれちゃったってやつなのかな。
でもまあ仕方ない、奪い返してあげようかなって少し思っただけなのに。
「んだよ!こっち見てんじゃねぇよ!」
怒鳴り散らし、こちらにズカズカやってくる30代半ばのガタイよさげな男性。びっくりするくらい、私に対して怒ってる。
でも1つ言わせて欲しい。私がそっちを見てたんじゃなくて、あなたが私の前で勝手にひったくったんですからね?
「チッ」
舌打ちとかマナーのなってないやつだな。って思っていたら、すぐに向こうから襲いかかってきた。私は舌打ちとかしませんけどね!
っていうか私、まだ仲直り?的なのをしたばっかりなんだけど?
綿貫さんとあとほんの少しだけど、お話しできるチャンスが残ってるのに、それを奪うわけ?
カチンときた私は、肩からかけてた鞄の紐を掴もうとしてきた男性の手を弾いた。
3回流したところで気がついた。こいつ慣れてやがるタイプじゃん。うわー、すごい悪いやつじゃん!
「おら!」
しかも相手は、ひったくったカバンを私に全力スイング。一丁前に声出しながら威嚇しちゃって、ムカつくな。
「それあんたのじゃないじゃんね!」
今ので怒りの限界を迎えた私は、全力で股間をキック。
うずくまろうとしたところで、一応鳩尾にも1発。
それでもまだ私の髪を掴もうとしてきたので、腕をひねり上げ地面に抑えつける。
「あ、このカバン……あなた!そこのあなたのですよね。どうぞ」
左手で鞄を差し出せば、おずおずとやってきた女性。あ、こいつを黙らせるのが先か。
「ふざけんじゃねえよ」
私が片手になり若干緩んだからか、元気になった男性。
「いででででで」
「うるさいよ!ごめんなさいは?」
「ご、ごめんなさい」
今時ひったくりなんて珍しい気もするけど、私の目の前でやるとは運のないやつめ。正直イライラはしたけど、こうやって徳を積めばまた綿貫さんとお出かけできるかも!そのためなら報告書頑張り……たいと思います。
「今110番しました」
「ありがとうございますぅ……わ、綿貫さん……」
「佐藤さん、ケガしてないですか?」
……やってしまった。
さっき女の子なのにどうたらとか、危ないことはしない的な話をしたばっかりなのに。
あー、今度こそ嫌われたよ!こいつのせいで!
あーあ、また喧嘩って言ってもらえたりしないかな。危ないことしたけど、正当防衛として許してもらえたりしないかな。
「あ、綿貫さん危ないですよ」
「いやいやいや、佐藤さんが何「あ!えい!」
なんだこいつ!私を手伝ってくれようとした綿貫さんを、右足で蹴ろうとした!悪ー!
「す、すごいですね……」
膝裏に蹴り入れちゃった……引かれたよー!こんな女の人暴力振るうって嫌われちゃったよ!
あーあ、いい感じに仲直りできたのになー。




