57.謝罪
そんな椿に、土曜日の昼過ぎチャンスが舞い降りた。
「え、上がれそうなんだけど……どうしよう」
「椿、上がり?一緒に帰ろうぜ」
「あー……私まだ仕事探そうかなって」
「大輝、一緒に帰れ。そんで椿、倒れる前に休みなさい」
お兄ちゃんに強制送還された私は覚悟を決め、1度帰宅してから駅前のお店でお菓子の詰め合わせを購入。そして勇気を出して本屋さんの入り口へ。
「元気になりましたか?」
「え、あ、わ、綿貫さん!?」
「なんで毎回驚くんですか。今日はちゃんと元気なんですか?」
「あ、はい、あの……菓子折りを」
「ふふっ、律儀ですね。あと10分待ってもらえますか?」
「は、はい!」
まず最初になんて言うべき?さすがに外で土下座はダメだよね。あー、手紙書いてくればよかった。
「この度は大変申し訳ございませんでした」
向かいあったカフェのテーブル。90度のお辞儀で全身全霊の謝罪。でももう嫌われちゃったよね……。
「佐藤さん」
「はい」
「実は僕、ちょっと怒ってます」
「やっぱり……」
そうだよね、こんな迷惑かけまくり人間困るよね。というか、映画に行ったなんてあれこそ夢だったんだ。
「心臓が縮みましたよ。なんであんなところに」
「総合病院がかかりつけで、その」
「確かに近いですね。叔父さんからの電話がなければ、救急車呼んでました」
「大袈裟な……」
「大袈裟じゃないですよ。佐藤さんは女の子なんですから」
「……す、すみません」
前に送ってもらった時も同じようなこと言われたし、やっぱり2度目は許されないよね。
それ大事なことだったんだ……。
「あの日の午後、たまたま全部休講になったんです。しかも遠くから佐藤さんが見えてラッキーって思ったのに」
ラ、ラッキー!?
待って、今の話の流れ全然理解できてないんだけど、私怒られてるんだよね?
「声をかける前にしゃがみ込むし、支えたら触れてます?とか言われて。ちょっと傷ついたんですからね」
「……え、やっぱりあれ夢じゃないですか!?」
「うっかり低い声出しちゃうし。僕、嫌われたって思いましたよ」
抱きしめるように支えられたあれが、まさかの夢じゃない?っていうことはやっぱり「結婚」とか「同棲」って言っちゃったんじゃない!?
……ん?嫌われた?誰が誰に?
「佐藤さんびっくりするぐらい軽かったです。ちゃんとご飯食べてます?」
「か、軽い?」
「軽すぎましたよ。オムライスパクパク食べてたから、普段からいっぱい食べる人なのかと」
いっぱい食べる人って思われてたの?それはそれで恥ずかしいんだけど……で、軽いって誰の話?
「ちなみにどこかもともと悪いんですか?」
「あ、いえ、ちょっと喘息があるだけで」
「ちょっとじゃないですね。僕もう騙されませんから」
腕を組んで眉間に皺を寄せて、あからさまに怒ってますアピール。え、可愛い。
「聞いてます?」
「……へ?あ、す、すみません!」
「もう無理はしないって約束してください」
「はい、約束します!」
「……あの日、大きい声出したり低い声で話しかけてすみませんでした」
「はい?」
「僕も謝りました。これで仲直りってことでどうですか?」
な、仲直り!?え、これ喧嘩だったの?痴話喧嘩ってやつじゃない?
「な、仲直りします!」
「ふふっ、いつもの佐藤さんですね。じゃ、帰りましょうか。今日はここに住むとか言わないでくださいね」
「はい!……はい!?」
神様、私許されました!ありがとうございます!
もう2度と公園で寝たりしません!そして私はどこに住むと言ったのでしょうか?
「あ、僕ちょっとお手洗い行ってきますね」
「了解です」
あー、よかったよかった。嫌われたわけじゃなかったんだ。初めてだから気づかなかったけど、喧嘩してただけなのか。
「誰か助けて!」
あー、やっぱりなんでもスムーズにはいかないか。




