56.小さな声で忍び足
「ご、ご迷惑おかけしましたー」
小さな声で忍び足。ん?誰もいない?
「お、元気なったか?」
「わっ!た、宗さん、その……すみませんでした」
「いいっていいって。どうせまたでかい案件はお前がやるんだから。たまには書類を真心斗に全投げしちゃえよ」
「いつもそれしようとすると怒るの、宗さんじゃないですか!」
でも私は知っている。多分書類はほぼほぼ宗さんが引き受けてくれたということを。あのタイピングの遅い真心斗が、私の仕事を引き受けきれるはずがない。
「お、体調どうだ?」
「だ、大輝さん。ご迷惑おかけしました」
「いいって。妹が季節の変わり目に弱いのは毎度のことじゃん?」
そうなんだよなぁ。季節の変わり目をうまく切り抜けられたことがない。特に春と秋は、花粉のせいでいつもぐずぐずになる。
「普通に溜まってるじゃん」
ファイル増し増し、書類ドサドサ。
「お前ようやく来たのかよ」
「真心斗くん、その、すみませんでした」
「体調悪いなら自己申告しろ!佑樹さんと大輝さんだけなんだから、お前の嘘見抜けるのは」
「じゃあやっぱり黙っておくべき?」
「は?」
「だって練習するなら「練習するならなんだ?」
あー、笑ってる佑樹さんより怖い人はいない。
「す、すみませんでしたー!」
こうして日常が戻ってきた。なんでも頑張るぞー!って思っていたら
ピコンッ
『13時です。吸入は?/大輝さん』
『18時です。吸入は?/大輝さん』
と、登録していないリマインダーが来るようになった。ちなみに返事をしないと
『13時5分です。まだですか?/大輝さん』
と帰ってくる。
「お疲れ様でしたー」
今日は早めの18時退社。あの真心斗に早く帰れと言われてしまった。ムカつくな。
しかし電車に乗れば頭に浮かぶのはただ1つ。
「嫌われちゃってたらどうしよう。挽回ってどうやってするの?」
トボトボと帰宅しながら、一生懸命考えた。
『全快しました。本当にご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。本当にすみませんでした』
帰宅後、靴だけ脱いで玄関で正座。
送信ボタンを押して、念押しの綺麗な土下座。
「はぁ」
携帯をテーブルに置き、シャワーを浴び、欲を流す。
「やっぱり返事来ないか……もう、来ないかもしれない……」
ご飯は食べるけど、アニメもドラマも見る気になれない。漫画もなあー。
ピコンっ
光った携帯を両手で握り、ソファーの上に正座。
『佐藤さんが元気になって何よりです。もう無理はしないでくださいね。また本を買いに来てくれるのを待ってます!』
ゆ、許された!?
仏のような綿貫さんに感謝感激雨霰。ちょっと涙出ちゃったよ。
とはいえ、真相は闇の中。
だって「私何言いました?」なんて聞けるはずもない。
「結婚とか同棲とか言ってたら……恥ずかしすぎる!」
そんなやつ気持ち悪いよね。そして私なら言いかねない。でもまあひとまずは返事がきた!
よし、現場に行こう!
「お前が復帰してくれて助かったよ。でもあれ貸し1な?」
さっそく真心斗と2薬物売買組織の東京支部潰し。大阪支部潰しは、大輝さんが向かった。
「でもゴールデンウィーク前の残業で、私が先に貸したよね?」
「……だな」
私は綿貫さんに会うために、働いてお金を稼がなければいけない。そう、このナイフを振るのが私のお仕事なのである。
本来なら得意技の回し蹴りで、バンバン制圧したかったけど、足技はまだ禁止中。現場で発作出たら困るからと。
「俺お前の対応できねえし」
と真心斗にも切り捨てられた。
そんなわけで顔、喉、鳩尾を狙ってバンバン殴る。そんでナイフを振る。
ナイフは刺すと抜かなきゃいけないから、基本的にはブンブン振ってる。
おっと、今のは危ないから刺しただけ。
「さ、お疲れ様でしたー!」
「お前鈍ったりしないのかよ」
「なんで真心斗がそんなんなの?私2発で決まるはずのところ、5発かけちゃったじゃん」
そんなことよりも何よりも,綿貫さんにどんな顔して会えばいいのか考えなきゃいけないのに。
「あーあ、誰かいい作戦考えてくれたりしないかな」




