55.お兄ちゃん誕生
点滴されるわ仕事に行けないわ。
めっちゃ書類が溜まってるの、わかってるし。
綿貫さんに嫌われちゃったかもしれないし、なんかもう全部うまくいかない。
泣きすぎて腫れた赤い目と、ガサガサの喉。
よって、私は病院の駐車場で駄々をこねた。
「椿、帰ろう」
「帰らない!」
「残念ながらお兄ちゃんのお家に帰ります。佑樹さん命令です」
「帰らない!!」
「んー……、じゃあとりあえずコンビニ行くか?」
「行かないー!!!」
車に乗らず地団駄を踏んでいると、ため息を吐く大輝さん。怒られるってわかってるけど、全部やなんだもん!薬もポイ!
「はいはい、さすがにダメでーす!帰りますよー」
さらっと開いた助手席に強制的に乗せられ、シートベルトを装着。閉まったドアを開けようとしたが、これは国家機密組織の車。そう、内側からは開けられないようロックをかけられた。
「お兄ちゃんやだ!やだやだやだ!綿貫さん、助けて!」
「そんな椿も可愛いよ。おかげで初めて会った日を思い出すな」
――大輝さんとは、私がアメリカの大学卒業後から一緒に働いている。そして初めて会ったのは、喘息発作を起こしまくり、佑樹さんに怒られてる時だった。
「お、大輝今日からか。この子が現在わがまま絶賛中の、13歳の佐藤椿ちゃんです」
「こんにちは、助けてください!」
「悪いがこのままここで見張っててもらえるか?手を出してきたら本気でやり返していいから。っていうか本気出しても危ういから」
前日の児童相談所との面談にムシャクシャ。発作を起こし苛立つ私に「大丈夫?」と聞いてきた男の人が、全くもって助けてくれなかったので、思いっきり回し蹴りをしたのがファーストコンタクト。
「な、ちょ、強っ……13歳って子どもじゃないの?」
「そっちこそ助けてくれるんじゃなかったの?」
手首で手を弾きながら、腕を取ろうと必死に体を動かした。しかし相手は男性。13歳の女の子が簡単には制圧はできなかった。
「いや、課長の命令が……」
「お兄ちゃんみたいな人が助けてくれるんだと思ったのに」
「お、お兄ちゃん!?わかった、妹よ、今助けるぞ!」
「お前買収されるの早すぎな。そんで椿、帰るぞー」
結局助けてくれなかったくせに、お兄ちゃんという一人称だけが残った。ちなみにこの人は一人っ子である。
「ん、着いたぞ。歩けるか?」
「歩ける……歩けない!私ここで寝ることにした!」
「いやいやいや」
気がつけばお兄ちゃんは、体調不良の私の敵となった。今もこうして暴れてるのに、担いでベットに連れて行かれている。普段なら勝てるのになんでかな。覚えとけよ!
「ほら、ここで寝な」
「やだ!あ……ねえ、これ浮気になるかな?」
「ッナ、ッグ、……!?」
「佑樹さんは叔父さんだけど、大輝さんは違うから、男の人のベッドで寝たら浮気になっちゃう?」
ただですら嫌われたかもしれないのに、簡単に男の人のベッドで寝る女の子なんて軽蔑されちゃうかも……。
「まあ、血は繋がってなくてもお兄ちゃんはお兄ちゃんだから大丈夫だよ。何かあれば叔父さんのせいってことにしたら?」
「……そうか、そうだよね!」
大輝さん頼りになるー!
「お兄ちゃーん」
「どうした?」
「やっぱなんでもない……」
「ん?なんでも言いな」
「お家帰りたい!少女漫画は!?」
「…………寝なさい」
こうしてなんだかんだ1週間休んでしまった。喘息が絡むと長引くな。この吸入のせいだ!えいっ!
「投げない!」
「お兄ちゃんのばーか」




