42.懐かしの場所
綿貫さんの顔をあんまり見れてないけど仕方ない。萌え袖が視界に入るたびに、ドキドキしちゃうんだもん。
「佐藤さんってこの辺りに来たことあるんですよね?」
「へ?あ、はい!」
「歩き慣れてる感じがするなって」
「あー、実はこの隣駅に昔住んでたんです……なんか、すみません」
「なんで謝るんですか。じゃあ僕より詳しいかもですね」
6歳でこっちに来たけど、8歳から13歳まではアメリカにいたし、去年はイギリスで、結局何年ここに住んでたのかな?1.2.3……。
「でも、あの、5年ぐらいしか住んでないですし?その知ってる?ってほどじゃないですし?」
嘘は吐きたくないけど、あんまりベラベラ話されても困るよね?私あんまり普通の人のルート通ってきてないから、気まずくさせちゃうだろうし。
「じゃあ懐かしの場所って感じですか?」
「そうかも、です。あと私がイギリスに行ったタイミングで、隣駅から叔父さんがここに引っ越してきてて」
「イギリスに1年間って言ってましたっけ?」
「あ、はい!」
「ということは、僕たち入れ違いですね。残念」
なにそれ……恥ずかしいよ。え、でも待って?イギリスなかったら、この辺りでばったり会えたかもなの?えー、イギリス行くんじゃなかった!まあ拒否権はなかったけど。
「1組待ちですね、ラッキー。名前書いちゃいますね」
「あ、あ、ありがとうございます!」
「普段はお友達とはどこ遊びに行くんですか?」
「友達……はいなくって、代わりに同僚と遊んだり?へへっ」
あれは遊んでるのか?真心斗と大輝さんは買い物とご飯ばっかりだし。あ、でもたまに大輝さんの家でゲームすることも、あったりなかったり?
佑樹さんとは映画見たりするけど、叔父さんと遊んでるっていうのは正しい表現かのか?
「さっそく職場の方と仲がいいんですね」
あー、私新卒って設定だったの忘れてたよ。勤務歴10年以上なんですけど、どうしよう……ま、今はいっか!とりあえず職業さえバレなければ。
「わ、綿貫さんは?」
「僕はカラオケが多いですかね」
「う、歌うんですか?」
「歌いますよ」
それはコンサートですか?S席でぜひお願いします。あ、でも近すぎたら眩しくて見えないよな。A席ぐらいにしておいたほうがいいか。
「2名でお待ちの綿貫様」
「呼ばれましたね、行きましょうか」
綿貫様?わ、私が!?け、結婚じゃん!こんなの結婚じゃん!
「あ、ラケルパン!」
「それはなんですか?」
「え、あ、いや、パンです!あ、パンです!」
「僕たまに来るんですけど、頼んだことないんです。じゃあそれとオムハヤシにしようかな」
心の声が漏れてしまった。好きすぎてオンラインショップでも買ってたから、ついうっかり声に出てしまった。しかも綿貫さん食べるんですか?もうお金を払わせてください。
「佐藤さんは何にしますか?」
「えー、どうしよう……」
「よかったらオムハヤシおすすめです」
「はい、オムハヤシにします」
そうだ、合法的にお揃いにできるじゃん!
でもすでにお腹いっぱいかも。




