3.国家施設
さっきまでの淡い気持ちはどこへやら。
重い荷物と塞がった両手で、苛立ちが向かう先はもちろん1人。
「ねぇちょっと!どこ行ってたのよ!」
「トイレだよ」
「カフェラテが冷めちゃうじゃん」
「知らんわ。そもそもお前が遅いのがいけないんだよ。それ俺のコーヒーだろ?早くよこせ」
「待って、それ私の!」
カフェラテを奪い返し、コーヒーを突きつけ、怒りに任せて荷物を置く。
呼び出し食らったし、あー、なんかドット疲れちゃった。
「はあ」
ん、ここのカフェラテおいしいな。まあ私もイライラしすぎたか。っていうかあの人、ほんと綺麗な人だったし爽やかイケメンって感じだったな。
「お前、何ニヤニヤしてんの。気持ち悪いな」
「いやぁ、かっこよかったなって」
「え?何、俺?」
「はい?まさか」
近くで見た顔は、すごく優しかったし。
ん?待って!?私、この顔見られたの?ほぼすっぴんのこの顔を?こんなことならちゃんとメイクしていけばよかった……最悪だ。
「ねぇ真心斗、Nさんって彼女いると思う?」
「は?誰そいつ?」
「本屋さんの店員さん」
「え、何……は?」
「やっぱり彼女いるかな?いい人だったし」
「え、あのさ……付き合いたいとか思っちゃってるわけじゃないよね?」
「何言ってんの?好きな人とは付き合いたいに決まってるじゃん。あ、わかってるよ?順番があるよね」
まずはわがまま言わず、彼と友達になりたい。そして、あわよくば彼女にしてほしい。
「おいおい無理に決まってんだろ」
「やっぱり?この仕事休みないし、実質遠距離恋愛みたいなもんだもんね」
「違う違う。何勘違いしてるのかわかんないけど、お前の性格で彼氏ができるわけないって言ってんの」
「うわ、最低ー」
「はい、車番確認できました。通行証をお願いします」
真心斗と言い争いをしている間に、私たちは会社の駐車場に到着。車を降りても続く言い争いが終わったのは、1階のエントランス。
「待って……私、今日パス持ってないよ」
「あっそ、それじゃあな」
「え、真心斗?まさか私を置いてくの?」
「当たり前だろ。ほら、さっさとあっちで手続きして来いよ」
金属探知機の向こう側に行くには、セキュリティーゲートを通らなければいけない。しかし突然呼び出された私は、通行証を持ってなんかない。いや、普段なら絶対携帯してるよ?私がこんなミスするなんてありえない。
有給初日に浮かれすぎたせい?あ、付き合いたいとか思った罰?
案の定真心斗には置いて行かれるし、幸先悪いな。
「あの、すみません。通行証を忘れたので、入館許可をお願いします……」
機関が機関なだけあって、A4用紙びっしりに書かれた数々の項目。名前から始まって、自分の登録番号。電話番号はもちろん、通行許可を求める理由などなど。さらには書き終わっても、承認まで時間がかかる。
「結局20分もロスしちゃったよ」
しかし回り道したおかげで会えた人もいたのも事実!
「椿ちゃん!」
「向日葵ちゃん!久しぶり〜!」
圧倒的に男ばかりの実行部署の中で、数少ない女性仲間。1年ぶりの再会である。
「イギリスお疲れ様。もう仕事?」
「ううん、休みだよ。有給申請に来たの。向日葵ちゃんは?」
「私はもうすぐアメリカ出張だからその申請に」
「そうなんだ。あ、ねぇねぇ聞いて欲しい話があるんだけど」
「何?」
「私好きな人できちゃったんだ!」
「え、ちょ、ちょっと」
なぜか突然腕を掴まれ、通路脇に連れて行かれた私。おろおろしている向日葵ちゃんは、私の耳元でヒソヒソ話しかけてきた。
「椿ちゃん。そんな大事なことを、大きな声で発表しちゃダメだよ」
「なんで?」
「恋愛はね、ひそひそコソコソやるもんなのだから」
「そうなんだ!教えてくれてありがとう!」
「今度ガールズトークしようね」
「お礼に向日葵ちゃんの現場手伝うね!蹴りなら任せて」
「椿ちゃんが来たら1人で終わっちゃうよ」
笑いながら去っていった向日葵ちゃんは、恋愛経験豊富なのかな?何かあったら頼りにしよう。




