2.スタッフNさん
丁寧にバーコードをスキャンしていく、店員さん。
それだけなのに、胸の高鳴りを抑えられない。え、かっこよっ……かっこよ!
「やばい、え、どうする……!?」
「すみません、もう1度おっしゃっていただけますか?」
「え?あ、いや、何でもないです。その、すみません!」
私は恋愛には無縁の、仕事人間。まさか一目惚れをするなんて……初めての感情に心臓がさらに大きくドクンと跳ね、私の世界が一変した。
「お客様、ブックカバーはお付けいたしますか?」
「……へ?」
「あ、ブックカバーはお付けいたしますか?」
「あー……お願いします」
優しい目と柔らかい顔。綺麗な黒髪は、体に合わせて小さく揺れている。その姿はまるでかっこいい騎士のよう。
あ、名前は!?
視線を落とせば、彼の名札には「スタッフN」と書かれている。プライバシー保護としては素晴らしいが、彼の番号なのかイニシャルなのかがわかんないじゃん!
でも、これだけは確か!わ素敵なこの人がNさんって言うんだわ!
「あの、お客様?29,700円なんですが、お支払い方法はどうなさいますか?」
「……あ、すみません!ごめんなさい、今……あっ!」
見惚れた私は、自分でも驚くほどぼーっとしていた。そう、うっかり手元が狂ってしまったのだ。
慌てて財布を開けば、お札と小銭が一斉に床へ飛び散っていく。しかもよりによって、ポンドとペンス。あー、終わった。
「大丈夫ですか?」
Nさんは私が動くよりも先に、しゃがんでお金を拾ってくれた。そのうえ、優しく包み込むようにして、手渡されたお金。
なんか熱いし指先は震えるし……これが恋なの?
とにかく今は、お会計をしなきゃ。
「あ、えっと、クレジットでお願いします」
ゆっくり息を吐きながらタッチをすれば、今度はエラー音が響き渡る。
「あ、すみません。タッチ決済には対応していないので、お手数ですが差し込んでいただいてもよろしいですか?」
「本当にすみません!」
ここはもう日本なのに……恥ずかしい。消えてしまいたい。
「重いので気をつけて帰ってくださいね。ありがとうございました」
やばい、優しすぎてトキメキが止まらない。迷惑客であること間違いないのに、素敵な笑顔でありがとうと言ってくれるなんて、むしろこちらがありがとう!
あ、もちろん勘違いなんてしないよ?
Nさんは仕事だから優しくしてくれているのであって、決して私に気があるわけじゃない。
でもなぜか、私の心はポタッと彼の中に落ちてしまった。
余裕のある立ち振る舞いは大人のようなのに、可憐な雰囲気も漂っていた。なんだか頼りたい気もするけど、守ってあげたいかも……なんて矛盾した気持ち。
重たいはずの紙袋に反して、私の足取りは軽い。フワフワした頭では新作を気にする余裕はなくなり、無難なカフェラテを買った。
やつにはきちんとコーヒーを買ったよ?
商品を待っている間も、頭の中はNさんのことばかり。
彼も仕事終わりに、カフェに行ったりするのかな?友達とわちゃわちゃしたりするのかな?ぜひともその輪に入れてください、お願いします。
恋は甘いと言うけれど、本当?なんて浮かれていたが、そこで一気に現実に帰ってきた。余韻を遮ったのは、ロックのかかったガコンという音。
「カフェラテ冷めちゃうじゃん!」
なんで車の中が空っぽなわけ?




