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20.マルチタスクな社畜


 今日は忘れずにパスを首からしっかりと下げ、パンプスをカツカツとリズミカルに鳴らして歩く。復帰初日は霞が関に馴染む黒スーツ。少しでもテンションをあげるために、小ぶりなパールピアスを装備し小さな抵抗の意思表示。


「おはようございます」

 

 入口のゲートを通り抜け、金属探知機もスマートにクリア。朝のエレベーターは混んでるので、階段で3階へ。

 

「おはよう、椿」

「おはようございまーす」

 

 重いリュックを椅子にドカッと置き、パソコンを立ち上げながら机の上のファイルに目を通す。

 あーあ、朝一でさっそく嫌な気持ち。


「宗さん」

「ん?」

「これ真心斗の担当のやつですよね?これも、これも、これもじゃないですか?」

「怒るなって。そんでそれはまあ、お前がサポートに回れってことだな」


 私の特技は、数字と日本語。つまり……


「解析と解読は私がやれってこと?」

「ご名答!」

「えー……これ全部真心斗の机に投げたら怒られます?」

「ああ、怒る」


 一瞬で社畜に元通りじゃん!いやいや、落ち着け私!

 

「1週間頑張ればデート、1週間頑張ればデート」

「ん?なんか言ったか?」

「なんでもないでーす」


 ごたごた言っても仕方ない。とりあえず今日の会議の資料を読んで、報告書のテンプレも作っとくか。真心斗が持っていく資料は、仮で作ってメールに添付して送るとして……。


「おはようございまーす。あ、お前やっと来たのかよ」

「あらあら、こちらに仕事を回した真心斗くんじゃないですか」

「お前挨拶は大事だろ」

「おはようご・ざ・い・ま・す!11時までに薬物系列の資料を仮制作するんで、チェックお願いしまーす」

「ちょっとも愛想良くできないのかよ」

「それがちょっともできないんですよねー」

 

 渋々パソコンと睨めっこ。でもまあ、タイピングしてカタカタいわせるのは好き。こっそり告白すると、私は思いっきりエンターキーを叩きつけるタイプです。


「真心斗さ、今メール見られる?」

「ん」

「3段目の項目名なんだけど……それでさ……」

 カタカタ カタカタ カタカタ カタカタ

「真心斗!聞いてる?」

 カタカタ カタカタ カタカタ カタカタ

「……」


 無視されてイライラ絶頂に到達しそうな私の肩を叩いたのは、諦め顔の宗さん。


「思い出したよ、椿」

「何ですか?」

「お前変態なんだよ。聞こえる?じゃねえよ」

「は?」


 ため息をつき、私の肩をポンポンと叩きなだめ続ける宗さん。呆れた顔で腕組みする真心斗。


「お前はなんで話しながらパソコン打てるわけ?」

「え、なんでって言われても」

「カタカタカタカタ。普通こっちが無視する時にやることだからな?」

「いや、効率悪いじゃん」

「椿、お前は悪くないよ。俺たちが忘れてたんだ。お前が聖徳太子だったってことを」


 私はただ自分の報告書の準備をパソコンで打ちながら、真心斗の資料のすり合わせを話しながら、携帯でメールチェックをしていただけなのに。

 理不尽じゃない?せめてマルチタスクって言って欲しいよね。


「まあいいや、資料はオーケー、以上。俺はお前と話さない」

「え、ありがとうは?」

「はいはい、ありがとうありがとう」

 

 せっかく手伝ってやったのに。

 あーあ、綿貫さんだったら微笑んでありがとうって言ってくれるはずなのにな。

 仕事する私を褒めてくれたはずなのにな。


「真心斗、なんか椿ニヤニヤしてないか?」

「壊れたんじゃないですか?あいつ日本に帰って来てから変なんで。もう放っておきましょ」


 綿貫さんのことを想うと力が湧いてくる。恋のパワーで頑張ろう!

20話まで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。

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