18.どうですか?
綿貫さんが私を殺しに来てる。そして効果は抜群、すでに心は瀕死状態だ。
「いきなりこんなこと言ってすみません。こないだの作家さんのデビュー本、今度映画化されるのは知ってます?」
「あー、ゴールデンウィークに公開なんでしたっけ?」
「そうなんですよ!よかったら一緒にどうですか?」
「一緒に……?わ、わ、わ、私が!?え……なん、で……」
「こんなに語り合えた人他にいないんですよ。僕映画を観終わった後も語り合いたいタイプなんですけど、佐藤さんはどうですか?忙しいですかね」
忙しい。死ぬほど忙しい。ブラックにブラックを重ねた社畜国家公務員。
でも……私今デートに誘われてますよね?これはデートと捉えていいですよね!?このチャンスは絶対に逃せない!!!
「今すぐにでも予定を確認させてください!」
「ありがとうございます。ふふっ、よかった」
つぶやくような「よかった」を、私は聞き逃さなかった。え、彼は私と映画を観たいと思ってるの?なんで笑ってくれるの?え、泣きそう。よくわかならないけど、神様ありがとうございます!
「あ、スケジュールですよね!え、あ、ちょっと待ってください」
「全然ゆっくりで大丈夫ですよ。佐藤さんはこの後予定ありまし「ありません!」
大急ぎで制裁部にログイン。明日からゴールデンウイーク最終日までのスケジュールを確認しよう。どこかに穴があるはず。というかあってください。
んー、3日後の現場、これは私行かされるな。となると報告書も私か……。現地調査も立て込んでるし、保全部との会議も私だな……。
待てよ?この日なら多分現地調査の報告書と、イギリスの案件の事後経過観察の書類チェックだけ。朝一に家でやっつければいけるかも。真心斗に何かあっても要請は深夜だろうし、これはいけるのでは!?
「あの……5月5日はどうでしょうか?」
どうというか、私にはこの1日しかない。その1日のためなら働きつくすので、どうか……気がつけば机の下で手を組み、無をつぶり息が止まった。そして柔らかい声で固まった私の体は解放された。
「大丈夫ですよ。1日空いてます」
ジーザス!この調子でお願いします。
「午後の回はどうですか?まだスケジュール出てないですけど、ランチして映画とか」
「ラ、ラ、ランチ!?綿貫さんってどこに住んでるんですか?って、す、す、すみません!」
プライバシーの侵害!?いや、セクハラか?どこの映画館なら都合がいいか、ストレートに聞けばよかったのに……私のバカバカ!
「僕だけ佐藤さんの最寄駅知っていて、フェアじゃなったですね」
引くどころか笑ってくれた彼に、惚れそう。いや、もうずっぽり惚れてました。
そして教えてもらった駅は、たまたま佑樹さんが住んでいる駅と同じだった。
「その駅にあるショッピングモール、映画館入ってますよね」
「あ、知ってました?ちょっと長いですけど、佐藤の駅からバス1本で来れますよ。あ、でもここから3つ先の駅の映画館の方が近いかな」
「全然大丈夫です!ぜひそちらに行かせてください!」
「ふふっ、ありがとうございます」
佑樹さんが住んでる場所に興味はないが、綿貫さんとなると話は別だ。心の底から行かせてほしい。
「じゃあ5月5日の11時に改札待ち合わせはどうですか?」
「はい!本当に、本当にありがとうございます!」
そうそうこれこれ!私が想像してた待ち合わせは、こういうやつ!
「チケットは僕が取りますね。上映スケジュールが公開されたら、相談って形でどうですか?」
「そんな、え、いいんですか?」
「任せてください。一応僕、年上なので」
1つしか変わらないのに、そんな理由で段取り組んでくれるの?3つ上の真心斗だって、そんなことしてくれたことないいんですけど。
あれとあれよという間に綿貫さんが色々決めてくれたおかげで、名残惜しくもスムーズに解散したが、その後も脳内で繰り返される「どうですか?」と柔らかい顔。
あぁ、今夜熱が出るかもしれない。
椿、人生で初めてのデートをします。
お願いです、誰も私の邪魔をしないでください。




