16.少女漫画のスタートライン
素敵なコミュニケーションが、頭と心を癒してくれている。
「好きな人の声って沁み渡るー!」
もちろん、我慢できるはずもなく、買わせてもらった本を帰宅後すぐに読んだ。また連絡していいと言われたし、感想を送ろうかとも思ったが、彼はまだ家に着いていないだろう。
こんな短時間で読み終わったら、暇人だと思われるかもしれない。そんなの恥ずかしすぎる。
「21時ならいいよね?最悪返事来なくても次の日まで待てるし、多分」
そしてこの日は幸運過ぎることに、たったの15分で返事がきた!
『気に入ってもらえてよかったです!佐藤さんのおすすめはありますか?どんでん返し系なら、僕はジャンル問わずなんでも読みます』
幸せすぎて眩暈がする。こんなに幸せでいいの?
あー、このことを今すぐ誰かに話したい。
しかし佑樹さんは任務に行っちゃったし、真心斗は役に立たないし。向日葵ちゃんはアメリカに行っちゃって、しばらく帰ってこない。
もちろんSNSなんてやってない。いっそこれを機に始めようかな。
「そうだ、幼馴染と再会した女の子。確かこんなシーンがあったはず!」
漫画を参考になんとか返事を書けば、この日から私たちは1日に数回、メッセージを送り合う関係になった。
「少女漫画のスタートラインに立てたんじゃない?やばくない?」
内容は本についてだけで、お互いのプライベートを話すことはなかった。でも、初めての体験にドギマギしふわふわしちゃってる。
「あー、休みって素晴らしい!」
生活の中心は教習所になり、間をドラマと漫画で埋め、さらに隙間に映画を入れ、その隙間に彼がいた。
1週間、心臓は休まることなく働いた。そして金曜の夜、とうとう彼は私にトドメを刺しにきた。
『明日は本、買いに来ますか?僕は今日お勧めされた本を買っちゃいました笑』
気づけば(笑)を使う関係に。そして本を買いに来ないかというお誘い。私はこの後、どんな試練が待ち受けているのか。来月は1日も休みがないのかもしれない。そう思えるほど、彼との仲は順調だった。怖いほど順調過ぎた。
怖いからと言ってその誘いを断るわけがない。どんな試練が待ち受けようと、私は本屋さんへ足を運んだ。
土曜日、本を買いに行き話す時間は5分程度。300秒も彼と同じ空間に存在することを、許されたのだ。
それを糧に毎日教習所に通い、火曜には温泉、木曜にはミュージカルを観に行き、また土曜日に本を買いに行く。
本好きの私が1回に1冊で収まるはずもなく、備え付けの本棚はあっという間に埋まっていった。
「これが彼と私との関係……だったりして。なんちゃって」
ゴールデンウィーク前の土曜日。おかしくなった私の頭と心でも、無事教習所の卒業試験合格し、佑樹さんに報告。社会人は報連相が大切である。
「椿お疲れ様。この後ご飯でも行くか?」
「あ、ごめん。私夕方本屋さんに行くから」
ツーツーツーツー
え、切れた?
「あ、もしもし?ごめん、椿、その……好きな人がいる本屋か?」
「そうなの!おすすめの本とか教えてもらったりしてね」
「あー……順調ってこと、かな?」
「やっぱりそう思う?そうだよね?私だけがそう思ってるわけじゃないよね?」
「……どうだろう。俺、恋とかよくわかんないし?」
「結婚してる人が何言ってるの!新婚さんのくせに。私はアドバイスが欲しいぐらい困ってるよ!」
「えっと、今度 美英に聞いてみるよ……」
「ほんと?ありがとう!バイバイ!」
のんびり電話してる場合じゃない!
今日の次はいつ会えるかわからないんだから、可愛い服を着て行かなきゃ。




