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15/20

15.コミュニケーション


 結局その夜、彼から返事がくることはなかった。朝起きても返事はなく、着替え終わったのにまだ連絡がこない。


「え、嫌われちゃった?あれは社交辞令だったのかも。連絡来るのを待つべきだったのかな……どうしよう!」


 チラチラ連絡くる真心斗からの通知をオフ。不安に押しつぶされそうな心を保つために、いつも通りランニングへ。帰って来て、苺をかじりながら日本のニュースをテレビで見ながら、携帯でアメリカのニュースをチェック。


「ッ!!!!!」


 ――凪桜『おはようございます。』

 

 椅子から飛び上がり、興奮した私はなぜか携帯をソファーに投げつけた。意味不明な自分の行動に、慌てて携帯を拾い、アプリを開いた指をギリギリのところで止める。


「即既読は気持ち悪い?引かれちゃうかな」


 というか、社会人がこんな時間に何してるのって感じだよね。

 現在10時15分。


「……昼休み、昼休みなら許されるよね!」


 『おはよう』の続きが気になって仕方ないけど、12時5分にアラームをかけ、携帯を伏せハンカチを被せた。気を紛らわせるために体を動かしたくて、洗濯機を回し、洗い物をして、掃除機をかけた。


 ブーブーブーブー


 時間を告げる小さなバイブ音。見ないようにしていた携帯を慌てて持ち上げれば、手が滑って床に転がり落ちていった。


 私は震える手でそっと拾い上げ、そのまま正座をして精神統一。


「ふーーーーっ」


『おはようございます。僕も昨日読み終わりました!今までの作品の中で、1番のどんでん返しでしたね。スカッとしました。ちなみに佐藤さんは、ミステリー読みますか?違う作家さんなんですけど、おすすめの本があるんですが○○って知ってますか?」

 

 思わず携帯をテーブルに置き、手を組んで飛び跳ねる。


「し、質問されてるの!?これがコミュニケーション?」


 この喜びを叫ばずにはいられなかった。こんなに綿貫さんの文字を分けてもらえるなんて、幸せすぎる。


 顔を覆った指の隙間から、目を細めて携帯を覗いても、メッセージは消えてない。


「え、なんて返事するのが正解?間違いたくない!」


 部屋の中を行ったり来たり、書いたり消したり書いたり消したり。そして努力は実った。

 なんとその本を貸してくれるというのだ。しかし汚してしまったら大変。そんなことになったら、私は絶対に立ち直れない。


『買いに行ってもいいですか?』


 息を止めて送ったメッセージ。

 私はその返事にへたり込んだ。


『土曜日お待ちしております』


 溢れる感情が体をグルグルと廻り続けて、ため息が止まらない。


 もちろん、恋にかまけて生活を放棄したりはしない。そんな女の子よりも、きちっとした女の子の方が可愛いいでしょ?

 

 1日3コマの教習所にしっかりと通い、ルーティンのランニングも欠かさない。

 

 ただ、ちょっといいパックにしたり、クリアネイルからピンク色のチークネイルに変えたり、ヘアオイルを変えたりはした。だって可愛いって思われたいんだもん。


 そして緊張でバクバクな当日。


「佐藤さん!」

「わ、わ、綿貫さん。お、お仕事中にすみません」

「いえいえ、こちらこそお休みの日にありがとうございます」


 彼が案内してくれた先にあったのは、イギリスに行っている間にデビューした作家さんの本。私はそれを両手でしっかりと抱きしめ、彼とレジに向かった。


「ブックカバーはつけますか?」

「あ、じゃあお願いします」

「1870円です。クレジットでよかったですか?」

「お、お願いします」


 サラッと間違えてタッチしないよう、手で機械を覆ってくれたその優しさに、心臓が痛い。


「ありがとうございました」

「こ、こちらこそありがとうございました」


 慌てて帰ろうとしたが、視線の端っこで彼が小さく手招きしているのが見えた。


「感想、また連絡してくださいね」

 

 え……。

 どうやって帰って来たの?私は今、本を抱きしめソファーに座っている。

 ささやかれた声が、何度もリフレイン。


 これが本物の友達?

 これがコミュニケーション?

 やばい……幸せです。

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