14.大事な案件
あの後、佑樹さんは「ごめん……」と言い残し先に帰宅。真心斗は夜ご飯まで食べたくせに「ズボラがバレるから関わらずに眺めとけ」と鼻で笑って帰った。
「ほんっと、最低!」
落ち着くためにサイン本の2周目を読み、綿貫さんは今何してるかな?なんて思いながら就寝。残念ながら夢には出てこなかった。
「さ、契約するぞー!」
家の近くまで無料送迎バスが来てくれるなんて、まるでVIPじゃないか。気分が良くなった私は、意気揚々と教習所に突入。
「これで説明は以上になります。何か不明はございますか?」
「あの実は、イギリスの免許ならありまして。一応普通免許のマニュアルと同じではあるんですけど。あ、だから免除してほしいというわけじゃないんですが、一応報告をと思いまして」
「えっと……国籍は日本でしたよね……?」
「はい。あの、留学先で取得しまして。私は日本人ですし、国籍も日本です」
「あー、少々お待ちください」
なんかすごくバタバタさせちゃった。その結果偉そうな人が来たりしたけど、なんとか契約完了。イギリスの免許の件は、私のファイルに書いてくれるらしい。
10分待って乗った帰りの送迎バスも貸切。しかしのびのびとは過ごせなかった。というのも、私には教習所よりも大事な大事な案件を抱えているからだ。
「気が向いたらっていつ?文面通りなら24時間休むことなく連絡したいんだけど」
連絡し過ぎてすれ違ってきたカップルを、私は何回も見た。小説だけど。あの女の子たちのように、彼に重いって思われたくない。漫画だけど。
「ん?あ、でも本を読み終わった今がチャンスなのでは?」
他校の好きな人に、テストが終わったら連絡していたあの子のように、私も読み終わったと連絡していいのでは?
いやいや、社会人ってこんなに早く読み終わって大丈夫?でもまあ普段から私は、働いてても1日で読み終えるし……。
あーあ、誰かこの案件を一緒に抱えてくれる人はいないかな。
「まあ、考えたところで仕方ないか」
とりあえず机の上に置いた小説の続きを読んで考えよう。内容は遠距離恋愛の最中、重くなりたくないと連絡を控える女性。一方連絡がこないことで、愛想尽かされたと思う男性。
「ダメだ!こんなの読んだら不安になっちゃうよ!」
最後まで読む前に、私は隣の漫画を手に取った。そこには連絡できなかった女の子を、駅で待っている健気な男の子。
「そうそう、こういうのを知りたかったの」
私と彼じゃ生活スタイルが違うし、都合よくこんな展開にならない。やっぱり行動あるのみ。
勇気を出し、ようやく覚悟を決めたのは20時で、そこからが長かった。
『こんばんは。私はあの本読み終わりました。帯に書かれていた通り、最後のどんでん返しが最高でした。綿貫さんは読み終わりましたか?』
1時間かけて、書いては消し、書いては消し……。結局21時になってしまった。普通の人なら起きてるよね!と言い聞かせ、震える手で送信。
携帯の前で、両手を握り正座をする。しかし画面は黒いままだし、部屋は無音。ネタバレにならないようにって思ったけど、もっとツッコむべきだったかな。
ピコンッ
「来……てない」
『今日は助かったよ、ありがとう。明日から1週間ほど任務に着くので、何かあったら宗に連絡してください』
うん……欲しかったのは佑樹さんからじゃない。
じゃないけど、重いって思われたくないのもあって、これ以上連絡することはできなかった。




