13.参考書
忙しいのは恋だけじゃない。
休みのはずなのに、今日は佑樹さんから電話。もう仕事から解放してほしい。
「あ、この漫画の最新刊今日発売なんだ」
1番盛り上がってるところだし、今すぐ続きを読みたい。
「ついでに他の漫画も読んでみようか。オフィスラブは違うけど……まあ後で考えればいっか!」
しかしここで問題発生。
彼の前で大量に恋愛漫画を買うなんて、恥ずかしくてこれ以上できない。しかも彼のいない時間に本屋へ行って、あとでそれが彼に伝わったら恥ずか死ぬ。
「背に腹はかえられない」
仕方ないので、3つ先の駅の本屋へ行くことにした。普段はエコバッグ派だけど、本屋は別。お金を払っても、絶対紙袋に入れて欲しい。斜めがけの小さなカバンを下げて電車に乗り込んだ。
「まだ開いてない…あと30分もあるじゃん」
浮かれた私は、時計を見ずに家を出た。結果がこれである。とりあえずカフェに入り、ドラマの続きを見て時間を潰した。
「お願いします」
カゴには再びパンパンの参考書。今回はクレジットカードを手に、準備万端。多分さっきのドラマで泣いたから、目が赤いけど。
「28,380円です」
「クレジットカードでお願いします」
「タッチか差し込みでお願いします」
日本のシステムに戻ってきた体。というか、彼が絡まなければ私の普通はこれなのだ。重たい紙袋に満足し、マンションまで戻ってきた。が、ここで気持ちが萎えてしまった。
「……どうして2人がいるわけ?」
私を待ち伏せしていたのは、真心斗と佑樹さん。これに仕事が絡んでいないわけがない。イラついた私は、2人に1つずつ紙袋を持たせてあげた。
「お前また本買ってきたのかよ」
「いいじゃん、自分のお金なんだし」
「っていうか、教習所は?」
「勝手に押しかけて来といて何?明日契約に行くんですけど」
「悪いな。ちょっと頼みたいことがあって」
気づけば、あれよあれよと言う間に2人はパソコンと睨めっこ。私は見せつけるようにソファーで寝転び、買ってきた漫画を読んだ。
「つ、つ、椿さん?」
「何ー?」
「それは……なんの漫画かな?」
「今読んでるのはね、お菓子作りをしている男の子に恋してる女の子の話」
突然パソコンを閉じ項垂れる佑樹さん。そしてそれを見てクスクスしている真心斗。
「お、このお菓子食べていい?」
「ダメダメダメ!絶対ダメ!」
「は、なんで?」
「お菓子なら別のやつ出すから!」
「何それ」
「椿……?その本はもしかしてだけど……あー、好きな人がいる本屋さんで買ったのかな?」
「これは違う本屋さん!綿貫さんにこれを買ってるのがバレたら恥ずかしいでしょ?向日葵ちゃんに、コソコソした方がいいって教えてもらったし」
「わ、わ、わ……え?もう名前教えあう仲になったのか!?」
「それはー!実は「椿?俺はとりあえず1回仕事に戻るな?」
「え?わかった」
仕事すると言ったのに、パソコンを開き固まったままの佑樹さんと、堪えられず笑い声が漏れる真心斗。一体2人は何をしに来たのか。それから30分ほど経って、ようやく口を開いたかと思った佑樹さんからは、聞きたくない言葉。
「悪い。ここから先のハッキング頼むわ」
「……私今有給じゃん?これはお給料出るの?」
「わかった。ボーナスに加算しとく」
「じゃあいいよ」
いつもの薄いノートパソコンと、やたら分厚いノートパソコンを持って来た理由が今わかった。そしてそれなら私のデスクトップでよかったのでは?とも思う。
「でもこの子のもうすぐ告白しそうだから、それまで待ってね」
佑樹さんは顔を覆い、真心斗はゲラゲラ笑っている。
どうせ2人にはわからない。この参考書の重要性を。




