11.待ち合わせ
会話に参加なんてできるはずもなく、楽しそうな彼らを眺めること1分半。これが大学生か、なんて思っていると、いつのまにか「じゃあな」と私の横を通り改札を抜けた3人の男の子。
え、2人っきりになっちゃった。まだ心の準備できてないのに!
「なんかすみません。せっかく仕事終わりに来てもらったのに、友達が騒いじゃって」
「え、あ、全然!こちらこそ、なんかすみません。えーっと……今日お仕事の方は、だ、大丈夫なんですか?」
なんで彼の前に立つと、うまく喋れなくなっちゃうのかな。このまま一緒にいたい気持ちと、ボロが出る前に消え去りたい気持ちがせめぎ合う。
「バイトなら休みなので大丈夫ですよ」
「じゃあ綿貫さん……わざわざ、き、来てくれたんですか?」
「ここ大学の最寄駅なんです」
ここが最寄駅の大学?え、1つしかないよね。
「頭いいんですね!……って失礼ですよね!ははっ、すみません、その」
「ありがとうございます。でも僕は全然そんなことないんですよ。そうだ、これが佐藤さんの本です」
「ん?」
渡された紙袋には本と、なぜかクッキーや飴の入った小さな袋も入っている。
「あの、これは?なんでお菓子が……」
「それはお詫びです。よかったら食べてください」
「い、い、いいんですか!?」
「もちろんですよ。ちなみに佐藤さんは今日から読むんですか?」
「え、あ、はい、多分」
「僕もです」
「え、まだ読んでないんですか?」
「当たり前じゃないですか。僕だけ先に読めないですよ」
優しすぎる!なんて誠実な人なのだろうか。そんなこと気にせず、ガンガン読んでくれて構わないのに。
ざわついた夕方の改札。しかし私の耳には彼の声しか届かない。
「今日はお仕事終わりにありがとうございました。また買いに来てくださいね」
「へ?」
「あれ、なんか僕変なこと言いました?」
「か、買いに行っていいんですか?」
「当たり前じゃないですか。土曜は10時から16時までいるので、ストレスが溜まったらぜひ」
右手で勢いよく口を覆えば、パチンと音がする。でも仕方ない。だってまさか、シフトを教えてもらえるなんて、夢のような現実への叫びを堪えなきゃだったんだもん。
「あ、あ、ありがとうございます!えっと……土曜日に買いに行くかも、です、はい」
「その時はこの本の感想、聞かせてくださいね。僕も読み込んでおくので」
「あ、はい、あの……ありがとうございました」
「じゃあ行きましょうか」
「え……はい!?」
「あ、買い物して行くんですか?」
「あのー、私は何を聞かれてますか……?」
「佐藤さんも電車乗りますよね。僕とは反対ですけど」
は、恥ずかしい!!!
なぜか見送る気満々だったけど、私も電車に乗らないと家に帰れない。
「わ、わ、忘れてました!行きましょう、すみません、ははっ」
バタバタっと改札を通り、反対方面の彼にお辞儀をしてエスカレーターに乗る。普段はこんなミス、絶対にしないのに。自分が自分じゃないみたいって、こういう感じなんだ。
「あれが素の顔なのかな」
初めて見た顔。友達といる時は、なんか男の子って感じの顔だった。私の前では紳士な男性って感じだけど、やっぱり年相応な顔もあるよね。お友達よ、ありがとう。
受け取ったサイン本を胸に抱え、電車に揺られて家へ向かった。




