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修理師リエイのほのぼのクラフト生活  作者: 弌黑流人
第一章 修理師

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repair.89 『歪んだ設計者と悲しみの自動人形』

墓場の最奥、黒い糸が収束する地点に、それはいた。

数多の魔導具の残骸を四肢に接合し、まるで巨大な蜘蛛のような姿に変貌させられた古代の自動人形オートマタ。その胸部には、剥き出しになった制御核が明滅し、周囲のマナを強制的に吸い上げる「心臓」として機能していた。

「……いたぞ。あれがマナ枯渇の源流だ」

リエイがゴーグルを調整すると、人形の背後に立つ一人の男の姿が浮かび上がった。王宮の魔導衣を無残に切り裂き、煤けた作業着を纏ったその男は、狂気を孕んだ笑みを浮かべて一行を迎え入れた。

「ようこそ、王宮の犬ども。そして……迷宮の門番殿。見てくれ、この美しき循環を。役目を終え、捨てられた道具たちが、新しい時代のエネルギーとして再定義される。これこそが魔導の真の進歩だと思わないか?」

男の名はゼノス。かつて王宮の技師長候補でありながら、禁忌の抽出術式に手を染めて追放された違法職人である。

「……道具を部品としか見ていない奴に、進歩を語る資格はない」

リエイの声は低く、静かな怒りに満ちていた。その傍らで、アルス・マグナが人形の術式を凝視し、沈痛な声を漏らす。

『ふむ……この回路の組み方、そして核に刻まれた紋章。……懐かしい設計じゃ。これはかつて我が知己が、迷宮の安寧を願って作り上げた管理用個体。よもや、このような醜悪な姿に書き換えられておるとはな』

「黙れ、石ころ! この人形は、私という『真の職人』の手によって、マナを産む機械として生まれ変わったのだ!」

ゼノスの合図と共に、人形が悲鳴のような金属音を上げ、残骸の腕を振り下ろす。だが、その動きは鈍く、核からは「悲しみ」に似た不協和音の魔力が溢れ出していた。それが触媒となり、黒い糸がさらに太く脈動する。

「カドモン、ノエル! 奴の注意を引いてくれ。俺はあの人形を『解放』する!」

「承知しました! 全員、障壁展開! リエイ殿を道の中央へ!」

カドモンたちの放つ魔導障壁が人形の攻撃を弾き、ノエルの鈴の音が狂った魔力回路を一時的に鎮静させる。その隙を突き、リエイは人形の懐へと飛び込んだ。

「直せないものは壊して再利用すればいい……だと? 笑わせるな。道具に寿命を決めるのは、お前じゃない。そいつを必要とし、使いたいと願う持ち主の意思だ!」

リエイはレンチを人形の装甲の隙間に差し込み、因果の再配線を開始した。解析される回路の奥底、人形が数千年の孤独の中で守り続けてきた「迷宮を守りたい」という原初の命令を、リエイの指先が優しく掬い上げる。

「お前は、まだ壊れていない。ただ……少し、悲しみが溜まりすぎただけだ。今、繋ぎ直してやる」

因果の奔流が弾け、人形の四肢に接合されていた残骸が次々と剥がれ落ちていく。ゼノスは顔を歪め、懐から起爆符を取り出した。

「ならば、すべて塵になれ! 抽出マナの全開放、自爆術式起動!」

狂った魔力の圧が頂点に達し、すべてを吹き飛ばそうとしたその瞬間――リエイのレンチが人形の核とゼノスの術式回路を同時に「接続」した。

「……修理完了だ。未発火のまま、眠っていろ」

コンマ一秒の差。膨れ上がった魔力は爆発することなく、リエイが構築した「逆流防止弁」を通り、静かに大地へと還っていった。自爆という名の故障を、リエイは力技で「未発生」の状態へと修理してみせたのだ。

膝をつき、動かなくなった人形の頭をリエイが静かに撫でる。

カドモンは、その圧倒的な技術と、道具に寄り添う背中に、深い尊敬を込めて沈黙を守っていた。

「……さて。お前には、王宮でたっぷりと『再教育』を受けてもらう必要があるな、ゼノス」

拘束された犯人の背後で、夕闇が迫る禁忌の森に、かつてないほど清浄な風が吹き抜けていった。

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