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修理師リエイのほのぼのクラフト生活  作者: 弌黑流人
第一章 修理師

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repair.69 『喧騒の平原と深夜の裏門』

数日後、リエイの工房の向かい側にある広大な草原は、一変していた。

王宮が派遣した土木魔導士たちが一斉に地面を練り上げ、巨大な石材が魔法の力で次々と積み上げられていく。街道を挟んだすぐ目の前で、国立魔導士養成所の基礎工事が始まったのだ。


「リエイ殿! 王宮建築局のガストンだ! 差し入れの魔力回復薬を持ってきたぞ。……おや、その回路の接合部は、アルス・マグナ様から教わった『因果の点打ち』か?」


「ガストン、仕事の邪魔だ。お前は現場の指揮に戻れ。あと、勝手に覗き込むな」


建築局の魔導工学建託部門主任であるガストンは、職人気質の暑苦しい男だった。養成所の建設現場と工房を往復する工事関係者、さらには「歴史的な建築現場が拝める」とニーリルに連れ回されている弟子のノエルまでが連日顔を出し、リエイの工房はかつてない賑わいを見せていた。

だが、リエイにはこの喧騒を隠れ蓑にして、どうしてもやらなければならない「仕事」があった。


その日の深夜。

工事の音も止み、工房を訪れていた人々がようやく帰路についた頃。リエイは作業場の扉に鍵をかけ、多機能ゴーグルの設定を隠密モードに切り替えた。


「……おっさん、起きてるか。そろそろ行くぞ」


『ふむ。待ちわびたぞ、小僧。我も、この新しい器の出力を実戦で試してみたかったところだ』


棚の上で微睡んでいたアルス・マグナが、青白い光を帯びて浮遊する。

リエイは床に敷かれた厚手のラグを蹴り上げた。そこには、ヴィンセントの検分すら欺いた「黒い円盤」が、深淵のような冷気を湛えて鎮座している。


「よし、裏門から侵入開始だ。……狙いは、第四階層にのみ自生する『月光銀の苔』。今の工房の在庫じゃ、これから養成所関連で舞い込むであろう特注品の対応に間に合わないからな」


リエイが魔導レンチの先端を円盤の中心に突き立てると、空間が波紋のように広がり、一人と一個の姿を飲み込んだ。


【転送完了:岩山ダンジョン・第四階層「静寂の廃都」】


ゴーグルの視界が、一瞬で青白い燐光に包める。

本来、地上から歩けば数日はかかる深層。そこには、三ヶ月の出禁を喰らっているはずの「門番」が、不敵な笑みを浮かべて立っていた。門番の特性上、迷宮の住人たちは彼らを「敵」とは認識せず、まるで背景の一部であるかのように通り過ぎていく。


「……さすが、最短ルートだな。認識阻害が効いているうちに、さっさと剥ぎ取って帰るぞ」


『甘いわ。お主の足元、因果の糸が絡まっておるぞ。……座標の微調整、我に任せよ』


アルス・マグナが放つ黄金の粒子が、採取の邪魔になる不安定な空間の揺らぎを、数秒先の未来ごと「固定」する。その隙にリエイがレンチを振るい、空間の歪みを締め上げて安定した足場を確保した。


「助かる。……よし、苔を見つけた。これだけあれば、一ヶ月はもつな」


手早く素材を回収し、再び「裏門」から工房へと戻る。

床のラグを元に戻した時、リエイは心地よい疲労感と共に、心の中で小さく毒づいた。


「……ったく。向かいに養成所なんてできたら、これから素材の消費量は増える一方だ。おっさん、当分は寝かせてやらないからな」


『カッカッカ! 望むところよ。我らの工房に、退屈の二文字は不要というわけだ』


翌朝。何食わぬ顔で工房の扉を開けたリエイの目に飛び込んできたのは、工事の進捗を確認しに来た、キラキラした瞳の宰相ベネディクトの姿だった。


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