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修理師リエイのほのぼのクラフト生活  作者: 弌黑流人
第二章 魔道士

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103/104

repair.103 『鳴らずの鐘と奇妙な贈り物』

迷宮都市の朝は、本来なら広場にそびえ立つ大時計塔の鐘の音で始まる。しかし、その日は奇妙な静寂が街を包み込んでいた。街の象徴であり、人々に時刻を知らせるだけでなく、その清浄な響きで魔除けの役割も果たしていた平和の鐘が、突如として音を失ったのだ。


「リエイさん、頼みます! 司祭様も頭を抱えておいでなんです。物理的なヒビ一つないのに、どれだけ叩いても砂を打つような音しかしなくて……」


店のドアを勢いよく開けて駆け込んできたのは、時計塔の管理を任されている見習いの修道士だった。リエイは愛用の眼鏡を指先で押し上げ、淹れたてのハーブティーを一口すすってから、静かに立ち上がった。


「音を失った、か。単なる老朽化ならいいんだがな」


リエイは腰のベルトに、鈍い黄金の光を放つ魔導レンチを差し込んだ。この二周目の世界に来てから、いつの間にか手元にあったこのレンチは、触れるだけで対象の因果を読み解く不思議な力を秘めている。


現場である時計塔の最上階に到着すると、そこには直径二メートルを超える巨大な真鍮の鐘が鎮座していた。司祭たちが祈りを捧げているが、鐘は沈黙したままだ。リエイは一歩、その巨躯に近づいた。その瞬間、彼の視界に「既視感」を伴う光のガイドが走り出す。


「……なるほど。これは物理的な故障じゃない。迷宮の深層から漏れ出した音喰い虫の魔力が、鐘の表面に薄い膜を張っている。音が空気へ伝わる前に、魔力に吸い込まれているんだな」


リエイが原因を特定し、解析を進めようとしたその時だった。誰もいないはずの塔の階段から、ペチャリ、ペチャリと濡れた音が響いてくる。司祭たちが悲鳴を上げて身を引いた。現れたのは、街中には到底生息していないはずの、迷宮深層に住まう「氷棘スライム」だった。本来なら出会った瞬間に襲いかかってくるはずの獰猛な魔獣だ。


しかし、そのスライムはリエイの足元まで来ると、プルプルと体を震わせ、体内から一つ、青白く光る結晶を吐き出した。それは深層の極寒地帯でしか採掘できない、魔力を伝導・増幅させる希少素材「雪氷石」の純結晶だった。


スライムは攻撃の意志を見せるどころか、リエイを見上げて満足げに一度だけ跳ねると、そのまま窓の外へ飛び降りて、何事もなかったかのように迷宮の方向へと帰っていった。


「今の……魔物ですよね? どうして攻撃してこないんですか? それに、あの石は……」


腰を抜かした修道士が震える声で問いかける。リエイは足元に転がった、時価で金貨数十枚は下らないであろう結晶を拾い上げ、不思議そうに首を傾げた。


「さあな。最近の魔物は愛想がいいのか、落とし物が多い。だが、これで材料は揃った」


リエイは雪氷石をポケットにねじ込み、黄金のレンチを握り直した。彼の目には、鐘の表面を覆う黒い魔力の膜を剥ぎ取るための「光の筋」が、はっきりと見えていた。


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