14
「理解しました。本日はその周藤さんという方を調査するんですね」
放課後になると当然のように華村後輩が俺たちを迎えに来たので、俺が今朝の話をしてやったというのが今の状況。
「調査なんてまどろっこしいことはしない。本人に聞くのが一番早い」
本人に聞くっつったって……
「仲良くないやつにそんなこと話さないだろ。俺も周藤のこと知らねぇし」
ましてや周りの目を気にしている吹奏楽部だし……
「面倒な工程を踏むつもりもない。森宮のお望み通り、手っ取り早く吐かせてやる」
本当に拷問でもする気かよ。
「先輩……本気ですか?」
後輩はやめたほうがいいとでも言いたげだった。
「早く終わらせたい」
今度は何を企んでいるのか……
どんな手を使ってでもこの件を早々に終わらせたいようだった。
「聞いた話によると、周藤はクラリネット奏者で、主な練習場所は東棟の中庭らしい」
いつの間に情報収集を……
「了解しました。それでは向かいましょう」
歩きだした二人の後に続いて俺も教室を出る。
一体今日は何をする気なのか……
「練習していますね。どの方が周藤さんですか」
クレハの言う通り、中庭でクラリネットの音色が鳴り響いていた。
練習を仕切っているのは、吹奏楽部部長の川瀬先輩。
クレハが指さしたのは、その部長のすぐ傍に立っている男子だった。
みんな、彼のことを優男と言っていたが、わからなくもない。
優しそうな感じがする。
「練習の邪魔しちゃ悪いんじゃあ」
「わかってる」
本当かな……
「終わるまで待つのかよ」
「さすがにぶっ続けで練習はしないだろう。休憩を挟んだときに話す」
結局は待つというわけね。
クラリネットの軽やかな音色を聞きながら、俺たちは練習が一時中断されるのを待った。
いつまでこの退屈な時間を過ごさなければいけないのかと思い始めた頃、ようやく楽器の音が鳴り止んだ。
川瀬部長の「ちょっと休憩しよっか」という声が聞こえてくる。
華村が率先して目的の人物を呼びに行った。
連れ帰ってきてくれたところで、他の部員の目につかないようにと、俺たちは校舎の中に入ることにした。
「荒波先輩、こちらをお付けください」
なぜか華村にガスマスクのようなものと目隠しを渡される。
「……何これ」
「いいから言う通りに」
華村も同じようにガスマスクをはめている。
「俺だけ目隠しも?」
「ええ。何が起こるかわかりませんから」
どういうことだ。
言うことを聞けと華村がうるさいので、仕方なしにマスクと目隠しを付けた。
何も見えない。
「……何であいつ目隠ししてんの?」
戸惑った周藤の声が聞こえてきた。
そりゃ戸惑うわな。一番戸惑っているのは俺だけど。
「あれのことは気にするな。それよりも、俺と少し話をしようじゃないか」
クレハがそう前置きするのと同時に、何だか空気が変わったような、そんな気配を俺は感じ取った。
「時間をかけたくないから単刀直入に言う。お前がつきあっている人物の名を言え」
直球だな!
「そんな聞き方したって、素直に答えるわけないだろ!」
「荒波先輩! 落ち着いて! 今は玖雅先輩に任せてください!」
「俺はいたって冷静だよ!」
冷静だけど、何だか腹が立ってきたもんだから、俺は「こんなもの!」と、目隠しを外してやった。
「あ!」
華村が声を上げるが、もう遅い。
俺の目には衝撃的な光景が飛び込んできた――というわけでもなく。
俺に目隠しをしてまで何を見せたくなかったのか……
いや、待てよ。
周藤の様子がおかしいことに気がついた。
さっきまで普通だったのに、その目は何だか虚ろだ。
だけど、真っすぐクレハのほうを見ている。
ただならぬ空気を察知した俺は、息を飲む。
「見〜ま〜し〜た〜ね~!?」
正体を見破られたお化けみたいなことを言って、華村が俺の前で仁王立ちした。
「私の親切心を無駄にする気ですか!?」
「何だよ、親切心って。わけもわからないのに、無駄もクソもねぇだろ」
それなのに親切とか、厚かましいんだよ。
「うるさいな。静かにしてられないのか、お前らは」
小競り合いが始まりそうな俺たちの間に、クレハが入ってきた。
「お前らがごちゃごちゃ言ってる間に聞き出してやったぞ」
「……えっ?」
今の一瞬で?
慌てて周藤のほうに視線を向ける。
周藤はまだぼーっと突っ立っている。
「お前、何したんだよ!? 周藤、おかしくないか!?」
「ああ……問題ない」
クレハはそう言って周藤の前まで歩いていき、目の前でパチンと、指を鳴らした。
「……あれっ?」
周藤の目が正気の色に戻るのがわかった。
「何だっけ? 話があるんだっけ?」
何が起きたんだというふうに、彼はきょろきょろしている。
「話ならもう終わっただろ」
「えっ? そうだっけ?」
「ああ」
イマイチ納得していない様子の周藤を無理やり吹奏楽部の練習へと戻した。
「――で、何をした?」
魔法を使ったのは明らかだ。
華村が俺に見ないように言ったのは、使ってはいけない類いのものを使ったからではないかと思う。
もしそうなら、黙っているわけにはいかない。
「何ってほどのものでもない。ただちょっと――」
「私が説明してさしあげましょう!」
クレハの言葉を遮り、華村が得意気な顔をする。
「おい。何でお前が説明するんだ。余計なことを言うな黙ってろ」とクレハが言っても聞いちゃいない。
本当に尊敬してんのか?
「荒波先輩。魔女の持つ力と言えば?」
「え? 空を飛ぶ力と未来を見る力と、人を惑わす力……だよな?」
いきなり何だ?
「その通りです。みんなその力が備わっているものの、それぞれ得手不得手があるのです」
へぇ……
「私の場合、実を言うと未来を見る力が少しだけ強いんです。先輩が以前仰ったように、勘が働くと言いますか」
勘がいいと言うか、目ざといだけだろと思わず口に出しそうになったが何とか飲み込んだ。
「それで、クレハの得意技は?」
「そんなゲームみたいに言わないでもらえますか?」
一番適した表現方法だろ。
「得意技と言うよりかは、必殺技と言うべきでしょうか……」
お前もゲーム的な例えしてるじゃねぇか。
「すなわちそれは! 人を惑わす力! 誘惑です!」
「……」
その三択ならそれしかないだろうとは薄々思っていたが、人を惑わす力って何だとも思っていた。
だけど、『誘惑』という単語で表されると……
「……どういうこと?」
「荒波先輩……国語の成績はよろしくないんですか?」
うるせぇ。わかった上で聞いたんだよ。
「誘惑って言われるとさぁ……」
「荒波先輩が何を考えているのか知りませんが、言葉通りですよ。誰だって誘惑に負けることはある。それを強制的に行うのです」
強制的に行った結果、周藤は恋人の名を答えたというのだろうか。
それって……
「周藤を操ったってことか? ちょっと待てよ。委員長にも同じことをしたな!?」
あれもその誘惑とやらだったのか!
「ダメだろ、そんなことしたら!」
「うるさいな。正義の味方のつもりか? こっちだって好きでこの力を得たわけじゃないんだ。体質みたいなもんだと言っても同じことが言えるか? コントロールできるだけ有り難いと思え」
はぁ……何で上から目線なんだよ。
俺は言い返す気にもなれず、諦めた。
それにしても元からそんな力が備わっているとは、恐ろしいものだ。
「誘惑は先輩の真骨頂! 仕草や言葉一つで簡単に人は先輩に服従してしまいます!」
「服従言うな」
「だから、荒波先輩にも魔法がかかってしまわないように、私が気を利かせて防御の道具を用意してあげたんですよ」
あーそうかいそうかい。
そりゃどうも。
「じゃあ、その力を使った結果聞き出せたことを教えてもらおうか……」
この件は一旦保留だ。
そろそろ本題に入らねば。
「相倉だよ」
「相倉じゃなくて周藤の話だろ」
「だから、相倉だっつってんだろ。周藤とつきあってんの」
「……え?」




