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魔女に幸福を  作者: ホタテ
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13

「変だよな」

 昼休み。

 教室で購買のパンを食いながら俺は言った。

「……何が」

「相倉も吹奏楽部も」

「お前、人の話を盗み聞きしていたのか」

 してました。

 てへ。と、笑っておいたが無視された。

「やつらが変だろうがどうでもいい。俺にとって森宮を黙らせることが最大の目的だ」

 そういやそうだった……

「周藤の彼女が吹奏楽部のやつなら即刻問題解決だな」

 密告するみたいでちょっと嫌だけど。

「あの〜……」

 パンを食べ終えたところで、二人の女子がもじもじしながら近づいてきた。

 委員長と仲が良い、片野と志水だ。

「昨日、吹奏楽部で占いやったって本当?」

 何だ。クレハに用か。

「だから何だ。占えっつってもやらねーぞ」

 二人は「えー!」と残念そうな声をあげた。

「う、占わなくてもいいから……どういう感じにやるのか教えてほしいなーと……」

「断る」

「お願い!」

 二人はしつこく食い下がる。

 そんなに占ってほしいのだろうか。

「二人とも占いとかいつも気にしてんの?」

 俺は彼女らに尋ねてみた。

「当たるってすごい噂になってるから気になっちゃって」

 片野のほうは至って普通な理由だった。

 やっぱ噂になってるかぁ……

「占い師ってかっこよくない?」

 志水だけはなんか違う。

「中二心をくすぐられるっていうか」

「うん……?」

 中二心……ですか。

「占い師もいいかなって」

「え……志水、占い師になりたいのか……?」

「ううん。次の主人公の話」

「はい?」

 何を言ってるのかさっぱりわからん。

「ご、ごめん。この子、すぐ自分の世界に入っちゃうんだよね」

 片野が代わりに説明をしてくれた。

「朱音は趣味で漫画描いててさ……」

 それで主人公か。

「すげーじゃん。漫画描いてるとか」

「あ、ありがとう。もっと頑張らないといけなくて……次の話はどんなのにしようって考えてるところ」

「ストーリーも自分で考えるんだな。すげー」

 俺も漫画を読むのは好きだけど、生み出す側のことなんて考えたこともなかった。

「どんなん描いてんの? ちょっと見てみたいかも」

「えっ」

 志水は驚いた表情を見せた。

「えっ、どうしよ。いいの?」

「いいのって……志水さえよければ見てみたいんだけど……」

 志水はいそいそと自分の席からノートを持ってきた。

「漫画描いてるって言うと、気持ち悪いとかオタクっぽいとか言われるから……まぁオタクなんだけど……」

「ひでぇこと言うやつがいるんだな。みんな漫画読むだろ」

「そ、そうだね……そうだよね……」

 顔を真っ赤にしながら、志水はノートを差し出した。

 どれどれ……と開くと、そこには俺の知識では理解できない世界が広がっていた。

「えっと……」

「ご、ごめんね。ネタ帳しかなくて」

「これは……ネームってやつ……?」

「そ、そう! よく知ってるね、荒波君!」

 絵柄もストーリーもこれでは全くわからん。

 ……ガチのやつだった……

「……本気なんだなっていうのはよくわかったよ」

「本当!?」

 大した感想も言えないのに志水は嬉しそうにしてくれた。

 ページをペラペラめくっていくと、時折美術の授業でやるようなリアルな絵も出てきた。

「志水って絵上手いんだな」

「ありがとう! 私、美術部に入ってるの。画力を上げるために!」

「へぇ」

 志水の漫画に対する熱量がすごい。

「よその学校には漫研とかあるらしいんだけど、朝凪にはないでしょ。自分で部を立ち上げるような甲斐性私にはないから、美術部でできることをやろうと思って」

 そういうの大事だよな。

「玖雅君は、漫画とか読む?」

 志水は笑顔でクレハにも話を振った。

「読んだことない」

「え?」

 俺たちの声が綺麗にハモった。

 読まないではなく、読んだことない……?

 漫画読んだことない高校生とかいる……?

「そういや森宮にしつこく勧められた」

「……勧められて、読んでないのか?」

「興味ないっつってんのにしつこいから目の前でゴミ箱に捨てたら泣かれた」

 泣くわ!

 さすがに森宮に同情するわ!

「ち、ちなみにどんな漫画?」

「だから読んでないって……いや、でも表紙の絵は覚えてる」

 そう言って、クレハは勝手に志水のノートにシャーペンで絵を描きだした。

 その出来栄えに志水が両手で口をおさえる。

「せ……セナとイチカ……!」

 今流行っている漫画の主人公とヒロインだった。

「う……うま……そっくりなんだけど……」

 片野もあんぐりと口を開けている。

「お前……そんな特技を隠し持っていたのか……」

「特技? 見た通りに描いただけなんだが」

 普通はそんなことできません。

「本当に読んでないんだよな?」

「読んでない。表紙を見ただけ」

「……」

 俺たちの間に沈黙が流れた。

 志水は上手くなろうと努力しているというのに、読んでもないやつがこんなにいとも簡単に本家そっくりに描いてしまうとは……

 ショックを受けたんじゃなかろうか……

 片野も同じことを思ったのか、不安そうに志水の顔色をうかがっている。

「玖雅君……」

 真剣な表情で志水は口を開いた。

「――私と漫画描きませんか?」

「断る」

「早い!」

 ……心配する必要なんてどこにもなかったな。

「何で!? もったいない! この才能は活かすべき!」

「暇じゃねーんだよこっちは」

 ぎゃいぎゃいと言い争う横で、俺と片野は少し安心していた。

 志水が落ち込んだり、才能に嫉妬したりとかしなくてよかった。

 たまに拗らせるやつもいるしな……

 ……委員長のように。

「そういや、委員長と一緒じゃないんだな」

 俺は片野にそう言った。

 片野と志水はいつも委員長と一緒に行動していた。

「……うん。私たちのこと避けてるみたい。昼休みになった瞬間、どこかへ行っちゃったし。向こうは別に友だちとか思ってなかったのかもね。朱音はこの通りオタクだし、私もそういう話するの好きだから、本当はもっと話したかったけど、佐和子の前じゃね。やっぱ気を遣うっていうか。ほら、勉強に集中しないといけないし」

 とは言いながらも、片野は少しさみしそうな顔をしていた。


 片野と志水。

 クラスではあまり目立たない存在で、それまでは委員長にくっついていたが、この日以降、クレハの近くでよく見かけるようになった。

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