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「ねぇねぇねぇ! 昨日玖雅君に言われた通りちゃんと湯船に浸かって、いつもより早く眠ったらなんと! 今日はスッキリ目が覚めたよ! 頭もスッキリー!」
翌朝、登校すると昨日大盛況だったせいか、同じクラスの吹奏楽部員三名にクレハが絡まれていた。
何をアドバイスしたのか知らねぇけど、占いとかもはや関係なさそうな内容だな……
「私、占いとかあんまり興味なかったんだけどすごいね。あのカードで全部わかっちゃうの?」
「母親がいつも朝の番組で占い見てるけど、あんなの当たるわけねーじゃんと思ってた。けど、実際目の前で占ってもらうと見方変わってくるっていうか」
絶対違う。占い関係ない。
それっぽいこと言っただけだぞ、そいつは。
――なんて言えるわけもなく、俺は三人の言葉を盗み聞きながら心の中で訴えかける。
「あたしさぁ、めっちゃ納得しちゃったんだよね。玖雅君、相倉は虚勢を張ってるだけみたいなこと言ってたじゃん。なるほどなぁって」
一悶着あった相倉の名前がふと出た。
「わかるわかる。俺も思った。あいつ、何であんな偉そうなんだろうって感じてたけど、やましいこととか、隠し事があるだな」
三人とも、相倉の態度に疑問があるようだった。
あのとき、部員全員が相倉に対して思うところがあるような空気感だったのを思い出す。
「――相倉は」
クレハはようやく口を開いた。
「本当にあれで副部長候補なのか?」
「あー……」
三人は顔を見合わせる。
「まぁ……一応」
「相倉自身は部長になりたいぽいけど、砂川がいるし無理だな」
投票とかするなら俺は砂川に入れる。と、付け加えた。
「相倉は確かに人に厳しいよ。言い方もきついし。でも、誰よりも努力家だし、面倒見はいいんだよ。一年はみんなビビってるけどね」
砂川と相倉。
アメとムチって感じだな……
「仕切ったり、人を叱ることができたりって、私たちにはないものを相倉は持っているから、それは単純にすごいなと思うよ。けど、よく暴走してるっていうか……ちょっそれは言いすぎなんじゃない? って感じることは多々ある」
「砂川と相倉以外に候補はいないのか」
その質問に、三人はまた「うーん……」と少し考え込む。
「相倉じゃなくて、周藤が副部長かもっていうのはチラッと」
新しい名前が出てきた。
「周藤……あの優男か」
クレハのやつ、昨日のわずかな時間で全員の名前と顔を記憶したっていうのか。
「そうそう。その優男。あいつ、今の部長と同じパートだからなぁ……」
「そんな理由で決まってしまったら、相倉どころか全員から反感を買うのでは」
「そういうんじゃないんだって。誤解しないでくれよ」
クレハに白い目を向けられ、慌てて弁解しようとする。
「確かにあいつは部長の近くにいたし、部長が贔屓しても仕方ないかもしれない。周藤の良さは部長が一番わかっているだろうし」
「それに、周藤も砂川に劣らずいいやつなんだよね……。一年の女子たちが勘違いしてキャーキャー言うくらいには」
ふーん。と、クレハは若干興味なさそうだった。
「私らって、楽器ごとに分かれて練習すんの。だから、グループリーダーみたいなのがそれぞれいるのね。上手い下手とかセンスがあるって人よりも仕切れる人がやっぱ自然と練習の音頭を取っているんだよね。砂川、相倉、周藤のように目立つ存在はいるけれど、そういう人たちの中から選ばれてもおかしくはない。最終的に決めるのは先輩たちだから」
もちろん、二年の意見も汲んだ上で先輩たちは決めるそうだが。
「……なるほどな。あともう一つ噂を聞いたんだが、部内恋愛禁止っていうのは?」
三人は「ああ、あれね」と笑う。
「笑っちゃうんだけどさ……ガチで掟みたいなのがあんの。入部したら一人一枚、その禁止事項が書かれたプリントが配られる」
「ドン引きしてそれで辞めるやつが毎年後を絶たないもんな」
確かに森宮がこの話を持ってきたとき、恋愛禁止以外にも何かある口振りだったが、まさかプリントにおさまるほどあるとは。
「この掟は相当昔からあるみたいで、今見たら時代にそぐわない内容もあるわけ。伝統的に受け継いできたものだから、みんなそこまで真剣に受け止めていないものの、洗礼的なアレでなんとなくここまでズルズルきてしまったって感じ。ただ、相倉みたいなやつは真に受けちゃって」
特に理由がないなら、そんな伝統廃止しろよ!
ちょっと相倉に同情しちゃったじゃねぇか。
「恋愛するなっつったって、年頃の男女が一緒にいればやっぱつきあっちゃうでしょ。それが相倉にバレようものなら、もう罵倒の嵐よ……」
そういうことがあったらしく、三人はうんざりとした表情になった。
「顧問も何もできないくらいにキレてさ……。それでもつきあうやつは出てくるけど、相倉にだけはバレないようにし始めたよね」
その前にまず掟とやらを廃止しろ。
「うちらの代になったら廃止したいところだけど、相倉がいる限りはまぁ無理だよね。一年たちに託すしかない」
諦めモードなご様子だ。
そりゃそうか。信じ切っている相倉がいる前で廃止というわけにはいかないもんな。
しかもその相倉が副部長になるかもしれないし……
「同じ部活じゃない人間とつきあってるやつもいるけど、いつどこで何を聞かれているかわからないし、みんな恋愛話はしなくなったな」
「話しても、相倉がいないかどうか確認した上でだね」
どんだけ相倉の前で話したくないんだ。
「砂川もきっと恋バナしたいんだろうけど、相倉がいるせいでできなさそうだもんね」
「砂川は誰かとつきあっているのか」
「いや……片思いぽい。何となくだけど」
「周藤は絶対彼女いるよなー」
そう感じさせる何かがあるのだろうけど、みんな想像で言うしかないようだった。
「――ちなみに、周藤の相談内容だが」
個人情報だろ、それ。
勝手に話していいのか――
俺は一人頭を抱える。
三人は早く話せと興味津々。
「妹への誕生日プレゼントは何がいいか」
「……」
数秒、沈黙が流れる。
「何、その悩み。興味ないわ」
「期待して損した」
「いや……ちょっと待て。おかしい!」
何が? と、俺も思わず口に出しそうになった。
「周藤って確か……一人っ子だぞ」
「……そういえば……」
他の二人も思い出したようだった。
妹なんていないのに、妹への誕生日プレゼントって嘘を吐いたのか?
何のために?
「本当は妹がいるのに私らに嘘吐いた? そうじゃないよね」
「玖雅君に対して嘘吐いたんだ。玖雅君は周藤のことよく知らないだろうから、存在しない妹の話をしたって構わないと思ったんだろうね。周藤が誕生日プレゼントを買いたいのは妹じゃなくて……」
彼女、だな。
「なるほど、よくわかった。叩けば色々出てきそうだな」
何がわかったのか俺にはさっぱりだが、クレハは満足した様子だった。




