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2023/5/8 全文改稿
「よぅ、何してんの? お前らは並ばねーの」
声をかけると、相倉にギロリとにらまれた。
「荒波君こそ何してるの? まさか吹奏楽部の助っ人?」
砂川は驚いた表情を俺に向ける。
楽器はさすがにできねぇよ。と、俺は笑った。
「あれの付き添いとでも言っておこうか……」
行列の先にいるクレハを見ながら言うと、相倉の目がますます釣り上がった。
「これはあんたの仕業? 超迷惑なんだけど!」
違うと言いたかったが、とても聞き入れてもらえそうにない。
「練習しなきゃいけないっていうのに、どいつもこいつも……! 金賞を獲る気はあるのかしら!?」
「ちょっとくらいいいじゃん。先輩たちもみんな楽しそうだし」
俺が言ったのが悪かったのか「あんたに何がわかる!」と、余計に彼女を怒らせてしまった。
「まぁまぁ……」
砂川がなだめるが、落ち着く様子はなかった。
「私は占ってもらいたいなぁ。佳奈も行こうよ」
「あんたまで何呑気なこと言ってんの!? 私たちがやめさせないと駄目でしょ!」
そんなに大騒ぎしなくても……
「ふーん。あ、そう。私は占ってもらってくるね」
「ちょ、ちょっと!」
砂川はこれ以上は相手をしていられないと、相倉を放置して列に並びに行った。
それまで怒り心頭だった相倉も突然の彼女の態度に戸惑う。
慌てて後を追いかけた結果、相倉自身も列に並ぶこととなった。
「なぁんだ。佳奈もやっぱり興味あったんだね」
「いや、ちがっ……」
「楽しみだねぇ」
二人を占いの列に並ばせろというミッションは完了することができた。
俺はほとんど何もしてないけど。
――さて。彼女らを占いで釣ってクレハは情報を得る気なのだろうけど、堂々と人の悩みを聞くわけにいかない。
俺は華村と同じように列の整備をしつつ、話の内容を盗み聞くことにした。
「クラスと名前、誕生日をここに書いてください」
順番が近くなると、華村がペンと紙を渡して個人情報を書かせる。
きっと演出なのだろう。
占いに誕生日が必要って言われるとそれっぽいしな。
「――お前はさっきから気になっているものがあるようだな」
「えっ」
砂川の順番が回ってくるなり、クレハがそう言い放った。
その通りだったのか、砂川は次の言葉を紡げない。
「毎日気になって、落ち着かないらしい」
「そ……そうなのかな……そうかもね……」
導かれるように砂川は答える。
「――お前はどうしたい?」
「どうしたい……」
クレハの言葉を繰り返し、彼女は遠くを見つめて考える。
「隠したくはない……けど、ルールも破りたくない」
「強欲だな。何かを得れば何かを失う。当然のことだろ」
「失うって……何を……?」
少し震えている砂川の声。
「それはお前の選択次第だ」
「……」
砂川の番は終わり。
彼女はボーっとした表情で席を立った。
――次は相倉だ。
「不満そうだな」
「当たり前でしょ!」
相倉は最初から喧嘩腰だった。
いきなり噛みつく。
「こっちは練習中断されてんのよ!? こんなくだらないことのために! 魔女だか何だか知らないけど、調子に乗らないでよね!」
調子に乗っているようには見えないと思うけど……
「その怒りは、本当に練習を中断されたことによるものか?」
何か違うことに対して怒っているとでも言いたげだが、クレハの言葉は相倉の怒りを増幅させる一方だった。
「何が言いたいわけ!? 私は! 練習をあんたたちに邪魔されて怒ってんの! そう言ってるでしょ!?」
「俺にはわからないな。なぜお前がそんなに怒る必要がある? さも自分が仕切っているかのようにお前は言うが、お前はここの部長か? 違うだろ?」
一瞬、相倉は言葉に詰まった。
クレハの言う通り、部長候補ではあるかもしないが、今は違う。
しかも相倉は部長ではなく副部長候補だ。
「部長じゃなかったら仕切ってはいけないってルールでもあんの? 仕切る力がある人が仕切ればそれでよくない?」
相倉は自分に自信があるタイプなのか……
とにかく相倉の声がでかいので、周囲に話は筒抜けだ。
「また何か言ってるよあいつ」みたいな空気が吹奏楽部員の間で流れ始める。
「あっそ。まぁ何でもいいけど」
自分から仕掛けたわりには、興味がなさそうなクレハ。
しかし、
「お前はそうやって威圧して、隠したいことから人の目をそらさせるのが得意なんだな」
相倉の怒りのメーターが吹っ切れるようなことを言い放った。
「――何ですって?」
机をバン! と叩き、立ち上がる相倉。
椅子は勢いで倒れた。
「それ、どういう意味? あんたは私の何を知っているっていうの?」
「お前のことなんか知らねぇよ。俺は見えたことを言っただけ」
クレハはタロットカードを一枚、相倉の眼前に突きつけた。
「お前は何やら誤解しているようだから言っておいてやる。お前がどれだけ一生懸命隠したとしても、俺には簡単に見破ることができる」
そして、ニヤリと笑う。
「俺は、魔女だからな」




