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2023/2/7 全文改稿
って、来たはいいけどノープランじゃねぇか。
森宮にはこの件は内密にと言われていたし……
「もももももしかして、入部希望者……!?」
部長だという三年の川瀬先輩が、キラキラした目で俺たちを見ている。
いや……違うんです……
「お前ら来てくれたんだな!」
そこへ森宮が俺たちの姿を見て駆けつけた。
手に持っている楽器を見て、本当にトランペットやってるんだ。などと俺は呑気なことを思っていた。
「森宮の知り合い!?」
「そうなんすよ。調査お願いしてて……あ」
森宮は自分の口をおさえた。
……バカじゃねぇの……
「調査?」
「あー……えーとーそのー何て言うかぁー」
自分で秘密にしろと言っておきながら、自爆しそうになっている。
俺たちは助けないぞ……
「――よくお聞きなさい。愚かな吹奏楽部員」
……何を言う気だ、華村。
何なんだその口の利き方は。
「こちらにあられるのは、玖雅クレハ先輩。素晴らしき力の持ち主です」
――なんか宗教の勧誘みたいだな!
「す、すみません。こいつ、礼儀ってものを知らなくて……」
慌てて華村を俺の背後に隠す。
「あ、待って。知ってる。魔女……なんだっけ?」
三年にもクレハのことは知られているようだ。
「そんな人がどうしてうちに」
「――よくぞ聞いてくれました!」
華村は俺を突き飛ばした。
「哀れなあなた方の悩みを玖雅先輩が解決してくださるのですよ! 有り難く思いなさい!」
やっぱり宗教勧誘みたいになってんじゃねーか!
しかも上から目線!
「えぇ! マジ? 悩み事かぁ……めっちゃあるんだけど」
この先輩も優しいのかバカなのか。
こんなの適当に聞き流せばいいものの。
「みなまで言わなくて結構。偉大なる玖雅先輩は、このタロットカード一つであなたに素晴らしいアドバイスをしてくださいます」
何でそんなもん持ち歩いてるんだよ。
「それでは先輩! よろしくお願いいたします!」
華村がカードの束を差し出すと、黙ってクレハはその中から、一枚抜き取った。
タロットカードのことなんてさっぱりわからない。
死神が描かれていると良くないとかそんな程度の浅い知識だ。
クレハの引いたカードにも人の絵が描かれているが、それが何を意味するのかさっぱりわからなかった。
「……お前は注意力が足りないな。明日の小テストでも大事な問題でケアレスミスをする」
それっぽいこと言ってるけど……
「マジで!? 俺、いつもテストの問題をもっとじっくり読めって先生に言われるんだよな……。でも、どうしても焦っちゃってさ。どうすればいいかな?」
当たってるんかい。
しかもマジで悩み相談しだしたじゃん。
「お前は楽器を演奏するんだろう。そのときは焦らず演奏できているんじゃないのか」
「……確かに……」
「楽譜を見て、その通りに楽器を鳴らす。それができるのになぜテストの問題は落ち着いて読めない?」
部長は衝撃を受けたような顔をしていた。
「そ、そうだよな……演奏してるときは焦ったりしてないもんな……。テストのときも同じだと思えばいいんだな! そうしてみるよ!」
何やら自信がついたようでよかったですね……
なんて思っていると、
「すげー! 何今の!? 占い師みたいじゃん!」
などと言って森宮が目を輝かせていた。
何でお前がテンション上がってんだよ。
「何? 占い?」
「私もちょっと占ってほしいかも……」
てっきりみんな真面目に練習しているのかと思いきや、聞き耳を立てていたみたいでわらわらと集まってきたではないか。
特に女子が多く「私も占ってほしい」と、列を成し始めていた。
「みなさーん! ちゃんと並んでくださいー! お一人ずつ順番にお願いしますー!」
アトラクションか。
いつの間にかクレハに専用のテーブルと席まで用意されている。
……よく見たら、顧問の先生まで並んでないか?
「え〜! 俺も占ってもらおっかなぁ〜!」
森宮がバカなことを言って並ぼうとするので、俺はやつの首根っこをつかんで阻止した。
「お前のせいでおかしなことになったじゃねぇか!」
責めると、森宮が「え!? 俺のせい!?」と、驚いた顔をした。
「何言ってんだ当たり前だろ! お前がクレハに助けてほしいなんて言うから、こんなことになってんだろ!」
「ええぇ……。でもこれ、そういう作戦なんだろ……?」
作戦?
そんなわけないだろ。いつそんなもん練る時間があったっていうんだ。
完全にあいつらのアドリブだろ。
「え……もしかして荒波……作戦の内容知らされてない……?」
「ちげーわ!」
仲間外れみたいに言うな!
「今は何とか場をしのいでるんだろうけど、きっといつか限界がくるに決まっている。それに、後々面倒なことになるだろ」
明日には吹奏楽部だけでなく、あちこちに広まっているような気がする。
「面倒って……例えば?」
「……えっ?」
森宮に不意を突かれ、素っ頓狂な声が出た。
「何を心配してんの、荒波は。素人のデタラメな占いで注目を浴びちゃうこと? 嘘だってバレたとき面倒ってこと?」
「ま……まぁ……そうだけど……」
すると、森宮は腕を組んでうーん。と、うなった。
「確かに荒波の言う通りかもなぁ。でも、玖雅だってわかっててやってるだろ。仮にその面倒なことが起きても、あいつなら上手く対処するんじゃねぇの?」
わかったふうな口を利きやがって……と言いたかったが、こいつはクレハと同室なんだった。
俺よりも一緒にいる時間が圧倒的に長い。
「玖雅はこの方法で裏切り者を見つけ出す気なんだろ。じゃあ任せようぜ」
何だか納得がいかなくて、俺は素直に頷けなかった。
なぜ納得できなかったのかはわからなかった。
「ずいぶんと呑気なことを仰いますね。あなたが依頼してきたのだから、もう少し協力したらどうなんですか」
華村が仏頂面で俺たちの所へやって来た。
「先輩から伝言です。あなたに裏切り者を見つけるよう命令した人物を教えろ。――とのことです」
「あー……えーと……」
森宮はきょろきょろと辺りを見渡し、声を潜めた。
「あそこにいる二人。わかるか?」
列から離れたところで何やら話し合っている女子が二人。
あまり穏やかな雰囲気でないのは遠目に見ていても伝わってくる。
「手前にいるのが相倉。もう一人の困った顔してるのが砂川。次の部長副部長って言われてる二人なんだ」
「どっちが部長候補?」
「砂川」
なるほどな。
――砂川は去年同じクラスだったから少しだけ知っている。
「わかりました。それでは荒波先輩、あの二人が必ず玖雅先輩の占いを受けるように誘導してください」
「――は!? 何で俺が!?」
「これは玖雅先輩からの命令です。先輩の言うことは絶対です」
「め、命令て……」
俺は目眩を感じた。
この世のどこに命令を下す友だちがいるんだ。
俺はお前の奴隷じゃねぇーぞ!
……と、文句を言いたいが本人は遠いし、華村も言いたいことだけ言っていなくなってしまった。
従うしかないのか……と、俺は問題の女子二人に目をやったのだった。




