別離そして戦場へ
黒曜天宮 不死鳥騎士団居城 練兵広場。
真甦で空を飛ぶ練習中だ。
俺が怒鳴る。
「そうじゃねぇよ、もっと真甦を集中して練り上げるんだ!!」
「集中を途切らせるな!常に集中力を保て!」
リューイが一人一人に声を掛ける。
「今の感じですよ、大丈夫出来ますよ」
「そうです。やれば出来るじゃないですか!」
俺が怒鳴り、リューイがフォローする。いつものパターンだ。
ただ、言う方も言われる方も真剣さがいつもと違う。
鬼気迫る、緊張感と気迫が感じられた。
リューイがリンの所へ向かう。
「どう?リンうまくいってる?」
リンはコクッと頭を下げ頷く。
瞬間、リンの体全体から鱗粉の様な金色の粉が舞い上がり、体を宙へと誘う。
「凄いじゃない、一回で決めるなんてびっくりだよ」
リューイが褒める。
頬を朱に染め、宙からリューイ准将の事を見つめる。リンだった、、、
そもそも、全員真甦量は多く、この二年間で真甦の練り上げ方や具現化の仕方、攻撃や防御などの応用まで真甦を使いこなせる連中だ。
【空を飛ぶ】応用は直ぐに皆出来るようになった。
留守は【火の民】重量級爆撃攻撃隊の界・爆弾に任せ、第一陣から順次出発し始めた。
俺はシュスと門・夷塚と初瀬・燕とシュスの近習と共に輿に乗り、【火の民】神速部隊が輿を担ぎ飛ぶ。
第二陣、本陣として出発する。
引き続き、【水の真甦】を持つ第三陣。
【風の真甦】を持つ第四陣が続く。
最後尾にリューイが付くが横には【天の真甦】を持つリンも金色の粉を振りまきながら、付き従っていた。
輿の中では、初瀬・燕が
「族長、竜騎馬5000頭の用意は出来ているんですか?」
と聞いてきた。
「ああ、準備できてると信牙・凱から連絡は受けている。」
そもそも、竜騎馬は生後1年足らずで成体型に成長する。
不死鳥騎士団創設時より、炎元郷には竜騎馬の準備を頼んでいたので、炎元郷には現在で8000頭余りの竜騎馬がいるらしい。
俺が前に座る【火の民】5柱の1柱に声を掛ける「門・夷塚は黒曜天宮にまだ居たかったんじゃねぇのか?」
こんな時も彼は颯爽とした佇まいで「宮廷のご婦人方には、さぞや悲しまれると思いますが、私は炎元郷の方が性に合っております。」
俺は不思議に思い
「そうなのか?宮廷じゃ随分楽しそうにしていたじゃねぇか」
「生まれ持った、品格がそう感じさせたのかもしれませんが、私は宮廷より炎元郷が好きですよ。許嫁もいますし」
俺は驚き「なに、お前許嫁がいたの?」
飄々と答える門・夷塚「ええ、幼馴染ですけど」
初瀬・燕がそっと話す
「門・夷塚の婚約者は恐妻家なんです、、、黒曜天宮で彼は羽を伸ばしていたんですよ、、、」
俺は考え込み「いろいろあるんだな、、、」
シュスが思わず笑みを漏らす。
聞こえてるのか聞こえていないのか、
こういう話の時も彼の姿は凛々しく動揺している様子など一切外見からは判断できなかった。
一人の脱落者も出ずに、5000人余りの不死鳥騎士の高速移動は順調であった。
夕刻近くには第一陣が、炎元郷に到着した。
俺達本陣が続き、次々と第三陣、四陣と到着していく。
最後にリューイ准将とリンが炎元郷に忽然と二人で現れる。
リューイが興奮したように皆に叫ぶ「全員、脱落者なしで来れましたね。初めてでこの距離を飛ぶのはかなり大変だった筈です。よくやりましたね」
そっと小声でリンに言う
「凄いな君は、最後は僕とほとんど変わらない速度でしたよ」
「准将の指導のおかげです、、、」
小声でハニカミながら話す様子は年頃の少女のようだが、一端、戦闘となればとても頼もしい仲間である。
炎元郷長老の信牙・凱が出迎えてくれていた。
「族長始め、皆様方炎元郷へよう来られました。用意は全て整っております。」
俺がシュスを連れ信牙・凱の所へ行き声を掛ける。
「長老、氷結の女王シュシィス・スセイン、俺の妻だ。」
長老は白く太い眉毛を揺らし嬉しそうに
「話は聞いております。自分の家と思いごゆるりとお過ごし下さいませ。」
シュスがそっとお辞儀をして
「ご面倒をおかけいたします。」
と微笑む。
リューイが族長に話しかける。
「長老、シュシィス・スセイン様の警護体制はどうですか?」
長老が太い白い眉を眉間に寄せ
「【火の民】1千人が交代で常に炎元郷全体に結界を張っており、氏族含め全民で万全の警備態勢を敷いております。」
リューイが険しい顔をして答える「わかりました。5柱の初瀬と門を指揮官として置いていくので、気を抜かずに警戒をお願いします。」
リューイは不死鳥騎士団団員に振り返り大声で
「今日は、ひとまず宛がわれた、部屋でゆっくりして下さい。」
「明日、竜騎馬選別に行きます。起床は明朝7時、朝食を済ませて8時にここに集合して下さい。」
【火の民】の女衆が大勢現われて、団員をそれぞれの部屋に案内する。
シュスが俺に話しかける。
「炎元郷とは、素敵な所ですね」
俺が誇らしげに
「温泉がすげぇ、気持ちいいから入ってみろよ、大将だって気に入って一ケ月も滞在していたんだからよ」
シュスは明るく微笑み「それは、楽しみですね。氷結の村には温泉はありませんでしたから」
「肌が艶々になんぜ」
俺はシュスといる時だけは、戦いの事を忘れられる、、、
リューイが小声で初瀬・燕に話しかける。
「万一、敵がここを攻撃してきて、防衛不可能と判断した時は迷わずにシュス様を連れて、神速で逃げて下さい。」
初瀬は厳しい顔をして
「はい、輿を用意して、神速部隊を非常時に備え常備待機させておきます。」
2部屋ある、家に案内された、フーカ・セロ、リン、ラウミ、シュカ、ホセ達、騎士団入団試験で同一の組だった5人は同じ家に案内された。
入団試験依頼、仲が良いという事もあるが、皆強い真甦量を持っており、全員が百竜騎士長だという事もあるだろう。
ホセが興奮したように大きな声で皆に言う。
「炎元郷って、凄い所だな、火山丸ごと一つ村と言うか、街にしているんだものな。」
フーカが答える。
「【火の民】でないと出来ないよね、5万人もの人が住んでるらしいからね。」
炎元郷は活火山の噴火口を丸ごと、くり抜いて作った街である。
火を自由に扱える【火の民】だからこそ、出来る術で暮らしである。
リスティアード皇太子がシュスの保護を炎元郷に選んだのも、この特殊な地形と最後の手段として、火山を噴火させて敵を一掃する事が出来る地形を鑑みての事である。
俺とシュスは今晩は族長の館に、リューイと世話役の女性が3人とシュスの近習の7人で寝泊まりする事になった。
世話役の女性3人は女性とはいえ、とても強い真甦を感じた。恐らくシュスの護衛も兼ねているのだろう。
長く戦闘部族として生活してきた【火の民】ならではの層の厚さをこういう時に感じる。
俺がシュスに向かって
「明日、竜騎馬を選別したら直ぐに、アーセサスに戻る。」
シュスはコクリと頷き
「私の事は何の心配もいりませぬ、ご武運をお祈りしております。」
氷結の女王は静かに答える。
リューイがシュスに向かって
「シュス様の事は、【火の民】全員に話してあります。どうぞお寛ぎ下さい。」
「いろいろ、ありがとうごいます。リューイ様。」
シュスは最近、無駄な事を一切言わない、大戦を前に自分が足手間問いになるのが嫌なのである。
誇り高く、頭の良い女性なのだ。
そして、陽は沈み翌朝になる。
沢山の物をそれぞれ、心にしまい込みそれでも陽は昇る。
炎元郷中央広場に5000人の不死鳥気団員が整列していた。
リューイが大声で叫ぶ。
「これから、竜騎馬の牧場に向かいます。」
「1000人ずつ、行動します。相棒の竜騎馬が決まった騎士より、騎乗具を付けアーセサスに小隊規模で帰還します。」
「何か質問ありますか?」
フーカ・セロ百竜騎士長が前に出て質問する。
「竜騎馬に選ばれる方法、騎乗方法、世話の見方などお教えいただけると、皆も安心できると思います。」
リューイは大声で
「そうですね、竜騎馬は真甦を見抜きます。自分と合った真甦を持つ者を主と決め、生涯変えません。主が死んだ場合は一生、人間を自分の背に乗せる事はしません。」
「気高く、勇猛な生涯を共にする相棒です。」
「ですから、牧場に着いたら一列に並び、真甦を具現化して自分の身に纏って下さい。」
「竜騎馬の方から、寄ってきます。そしたら真甦で竜騎馬を包んであげて下さい。後は真甦で通じ合いますから、念じるだけで、竜騎馬は主の望む様に動きます。」
「逆に、竜騎馬が望む事も、真甦で流れ込んできます。」
「例えば、お腹が減ったとか、水が飲みたいとか、敵がいるとか、、、心で通じ合う事が出来ます。ですから、特別な技術や知識は必要ありません。」
「後はただ、慣れて下さい。」
フーカ・セロ百竜騎士長は敬礼して「分かりました、ありがとうございます。」っと叫び列に戻る。
リューイと主だった【火の民】が不死鳥騎士団団員をそれぞれ、誘導し、案内する。
俺は阿修羅丸を呼び、シュスに話しかける。
「こいつが俺の相棒の阿修羅丸だ、乗ってみるか?」
シュスはびっくりしたように目を大きく開いて
「こんな、大きく立派な動物は見た事がありません。」
俺はひらりと阿修羅丸に飛び乗りシュスに手を伸ばす。
シュスは俺の手を握り、俺の後ろに両足を横にだして乗る。
阿修羅丸は優しく、静かにゆっくりと歩き出す。
全く揺れない、振動もない、そして見える景観がとても高い。
シュスはびっくりしていた。
俺がシュスに話しかける「阿修羅丸はお前の中に居る子供に気が付いて、静かに負担が無い様にゆっくり歩いているんだ。」
シュスが驚きっぱなしの顔で「勇猛でとても優しいのですね、阿修羅丸、、、、」
「私の大切な、夫をお守りくださいね、、、」
グルルルと唸り返事をする。
俺は思わず、言葉が出なかった、、、




