本当の敵
結局、俺は徹夜でリスティアード皇太子殿下の執務室にリューイを伴って向かった。
コンコン
リューイが皇太子の執務室の扉を叩く。
中から「入っておいで」と声がする。
俺が入っていくと、既にレィリア・アストネージュ武神将とアルセイス・アスティア・アグシス武神将は正装で執務室の机の両脇に佇んでいた。
驚いたのは、不死鳥騎士団治癒部隊 隊長メイラ迄いた事だ。
「ウィっす」挨拶をかわし、俺達は執務室の中に入る。
レィリアがいつもの様に冷たい目で、俺を見る。
メイラ以外は昨夜の皇帝暗殺未遂事件を防いだ者達だ。
当然、睡眠もそれほどとっていないだろうし近々に起こる動乱に備え緊張した面持ちの中、ランガードはいつものように変わらず、振舞う。
そこが、彼の良さなのだが、、、
リスティアード皇太子殿下が、「さぁ、みんな揃ったところで、話を始めようか」
「時間をかけるのも無駄だから、ぶっちゃけて話していくよ」
「まず、昨日陛下を暗殺しようとしたのはベルファム・ソーンなる者の正体何だけどね、あれはね、、、」
「西海白竜王【水竜の牙】ベルフェムだね。」
メイラが驚きの眼差しで「竜王様のお1人が、敵になられたという事ですか、、、」
リアードは変わらない表情で「そういうことだね」双方の目を悲し気に閉じる。
「大将、そんで敵は何処にいるんだ?」目つきの悪い俺が、睨みを利かす。
リアードは双方の瞳を開け「本当の敵、【魔の真甦】を持つ東海青竜王【幻惑の影】ウルグスは今、ヴァルゴ太古兵器興業国にベルフェムと共にいる。」
メイラがつぶやく「竜王様が二人、敵になられた、、、」
リアードは続ける「ヴァルゴ太古兵器興業国は最近、ゼレイヤ黒魔術王国と手を結んだ。」
「近々、大陸各国へ侵攻を始めるようだね」
「それで、始めに一番邪魔なアースウェイグ帝国の皇帝陛下を亡き者にしようとした。ってことか」俺が獰猛な目付きで、リアードを見る。
「多分そう、それとこっちの戦力を見ておきたかったんじゃないかな」
「そんじゃ、バングルのちびっ子王子はまんまとのせられたって事か!」俺は長身の細身の体躯をしなやかに手を上にあげ、伸ばしながら吐き捨てる。
リアードは2メートルある長身を椅子から立ち上がり、全員を見下ろす。
「こちらが、絶対守らなければいけないのは、皇帝陛下とミハム、それにシュス、、、この3人。」
俺が「なんで、そこにシュスが入ってくんだ?」
リアードは今日初めて、にやりと笑い
「彼女の中に、君の後継ぎが宿ったでしょ」
「な、なんで、そんな事知ってんだよ!」俺はかなり動揺しながら手足をばたつかせ叫ぶ。
すかさずリューイが小声で
「おめでとうございます、族長」
レィリアは無言「・・・・」
アルセイスは俺をチラリと見て「お前が父親とは、、、生まれてくる子供が可哀想だな」と小声で静かに語る。
メイラは目を輝かして「ランさん、おめでとうございます。ついにお父様になられるのですね。」とはしゃぎながら言う。
(心の整理はついたらしい、、、さすがは治癒隊長、、、)
リアードが誇らしげに「僕の天の真甦はね、命を奪うだけでなく誕生も感じる事が出来るんだよぅ~」
「それでね、もし万一僕達が負けた時は、この世界の未来はランガードの子供達に委ねる事になる。」
リアードは話を続ける。
「皇帝陛下とミハムは黒曜天宮に結界を張り、精鋭の帝国騎士で守らせる。シュスは炎元郷で最大の警備体制で守ってもらいたいんだ」
俺が「大将がミハムの近くに居なくていいのか?」
リアードは少し俯き「前に、それで失敗したからね、今回は僕が最前線で戦う。だから、炎元郷の方はよろしく頼むよ、リューイ准将」
カツン!
両足を揃え、敬礼するリューイ
「【火の民】紅蓮の5柱の内、門・夷塚と初瀬・燕を炎元郷に戻し指揮させ氏族全員で最強の警備態勢を取らせます。」
リアードは微笑み「うん、よろしく頼むよ」
「【魔の真甦】についても、皆に話しておきたいんだけどね、魔の真甦は嘘を付ける唯一の真甦で、攻撃力は大したことないんだけど、他人に化けたり、幻惑させたり、真魂交神さえも出来なくさせるんだよ。」
「時には聖剣さえも封じてしまう事が出来るんだ。」
(氷結の村のちびっ子ばぁさんみたいだな、、、)
「だからね、本人かどうか確認しあう為に合言葉をいくつか決めようと思うんだ」
っと、時は進み、、、
俺は顔を真っ赤にして
「なんだその合言葉はよぅ!もうちっとましな奴にしてくれよ大将」
リアードはニコニコしながら
「駄目、もう決まった事だからね、常に皆で確認しあってね」
全員「・・・・・・・」
リアードが「それじゃ、今日はここまで、みんな一刻も早く行動して、いつでも出撃の準備を整えてね」
全員散会する。
ヴァルゴ太古兵器興業国とは、アースウェイグ帝国北西に友邦国パヴロ聖王国が国境を接しており、その向こうには嵐・守護時代に傭兵として戦い、活躍したルミニア王国があり、更にその先にヴァルゴ太古兵器興業国がある。
国としての歴史はとても新しく、建国3年余りの新興国である。
元々ベグナル工業国と言う国があったが、現国王に先代王家は滅ぼされ、現国王陛下であり、東海青竜王のウルグス・ヴァルゴが王朝を築いたのであった。
国民の数はそれほど多くなくアースウェイグ帝国の3割ほどしかいなかった。
産業は国の名の通り、太古の兵器を研究開発し甦らせた超武装国家である。
そのヴァルゴ太古兵器興業国がゼレイヤ黒魔術王国と手を結んだとなると、古代兵器と黒魔術による大陸征服は一層現実味を帯びてくる。
ヴァルゴ太古兵器興業国首都ヴァルゴニア兵魔宮殿国王の間で玉座に座るのは初代国王にして西海青竜王 ウルグス・ヴァルゴである。
右隣には、あの【宮廷歌人】を演じていた、透き通るような白い肌に男性なのか女性なのか見た目ではわからぬ手足が長く細身の西海白竜王ベルフェムが気配なく佇む。
左横には黒いフードの着いた、よれよれで大きすぎるローブを纏った上級黒魔術導師【ルカ】が密やかに立つ、フードの奥から見え隠れする双方の瞳が黒く輝くのが異様だった。
ウルグス国王がベルフェムに向かって静かに話し始める。
「アースウェイグ帝国の皇帝暗殺は失敗したようだな」
ベルフェムは静かだが高く透き通る声で
「思ったより、強いぞアースウェイグは特にリスティアード皇太子と武神将はけた違いの真甦量を感じた。」
ウルグスは「それで天帝皇王が誰かは分かったのか?」
「いや、まだ覚醒していないせいか、わからなかった」ベルファム・ソーンだった男は高く透き通る声で歌うように語る。
それまで、存在する事さえ感じていなかった上級黒魔術師ルカがくぐもった声で発言する。
「計画を急がれた方がよろしいかと存じますが、、、こちらの準備は間もなく整いまする。」
東海青竜王ウルグスは「そうだな、、、兵器の量産がまだそろっておらん。こちらはまだ準備にしばらくかかりそうだ。」
「少し、揺さぶりをかけておこうか、、、」
魔の真甦を持つ、ウルグスは神の時代の記憶を失わずにいた。
まず彼が、行ったことは西海白竜王ベルフェムを発見し歪んだ過去を話し仲間に引き込むことだった。
魔の真甦を使って、、、
ベルフェムを仲間にする事が出来た、ウルグスは拠点となる国、ベグナル工業国に目を付け奪い取った。
前王朝の人間すべて殺し、国を実際に動かしている上級官僚の人間には魔の真甦で嘘を吹き込み、国民には恐怖政治を徹底し行い、歯向かう者は全て処刑した。
そして、古代兵器を復活し量産させ、超武装国家を僅か3年間で作り上げた。
その時である。
同じ目的の大陸征服を企む、ゼレイヤ黒魔術王国から共謀の申し出があり、ウルグスはこれを【良】として受けた。
征服した暁には、ゼレイヤ黒魔術王国も滅ぼす気でいたが、利用できるものは何でもする。
それが、魔の真甦の生き方である。




