暗殺者
バングル典雅文明国第一王子歓迎式典も滞りなく?
いくつかハプニングはあったが、無事終了し皆祝宴に移っていた。
今晩の人気者は何といっても俺の婚約者、氷結の女王シュシィス・スセインとレィリア・アストネージュ武神将である。
見事な【舞】と【歌】を披露した、二人は武官、文官、貴族問わず皆が代わるがわる賛嘆の謝辞を述べに取り囲んでいた。
シュスは嫌なそぶりも見せずに、皆に優美に笑顔を振りまき、一躍 黒曜天宮の宮廷に好意的に迎えられ人気者になっていた。
レィリア・アストネージュ武神将は幼い頃より宮廷の礼儀作法に、様々な知識を学び勉強し、剣技を研鑽し、アストネージュ伯爵家令嬢として14歳に初めて宮廷舞踏会に出て以来、美しき金色の女王の座に君臨する。
憧れの的である、絶対女王である。
賑やかな中心から、俺は離れ壁に背を持たせ、バングル典雅文明国の【宮廷歌人】ベルファム・ソーンを目で探していた。
っと、横に気配もなく立つ男が話しかけてくる。
「奴なら、王子と共に先ほど自分の部屋に戻ったぞ」
アルセイス・アスティア・アグシス黒龍騎士団団長である。
剣聖は珍しく語り続ける
「お前の嫁は、お前にはもったいないな」
「人の心配より、自分の心配してろ」
と俺は言ってから失敗したと思った。
「俺は結婚出来ないんじゃない、しないだけだ」
「こう見えて、俺は沢山の物を背負ってるのでな結婚どころではない」
(そうだよな~剣聖で、侯爵家の跡取りで、武神将で親父さんは国務長官だもんなぁ、、、)
「それと名誉の為に言っておくが、俺はモテない訳でもない」
(はい、はいそうでしょうね、、、お金持ちで、色男で剣の達人、、、)
ーそして夜は更けていったー
深夜3時、、、、
黒曜天宮は静かに寝静まり動く人の気配など、誰もいない。
窓から差し込む月の光が帷幕に潜む一つの影を映し出す。
音もたてず、素早い動きで黒曜天宮の回廊を走り抜け、高い城壁を難なく飛び越える。
超人的な運動神経の持ち主である。
上から下まで真っ黒の布地で、体にピッタリと張り付いた服を着ており、細身の体型が一段とはっきりと見て取れた。
影の者は黒曜天宮を抜け、皇帝陛下の居城へ続く回廊を音も気配もなく走り抜けようとした時だった。
「この先は、陛下の寝室だ。誰も通すわけにゃいかねぇな!」
回廊の窓から垂れ下がる、帷幕からゆっくりと回廊の中央に、抜き身の剣を肩に担ぎながら現れる、赤髪の長身ランガード武神将である。
黒い賊は、立ち止まり動かない、、、
「まさか、便所に行こうと思っていたなんて言うなよ」
「そんな物騒なもん、腹に隠してよ」
「強い水の真甦を感じるな、おめぇ何もんだ?」
俺は大剣をだらんと下げながら、身構える。
賊は腹に隠していた、短剣を優雅な仕草で抜き放つ。
後方から低く静かに声がかかる
「投降しろ、ベルファム・ソーン」
既に黒刀を抜き放ち、下段に構えるアルセイス武神将である。
男か女かわからない体型をした、男はバングル典雅文明国の宮廷歌人 ベルファム・ソーンであった。
いきなりベルファム・ソーンは身体全体が白く水の様に波打ちだす。
次の瞬間、全方位に向かって水刃が勢いよく放たられる。
俺は一歩も動かず、目線はソーンから逸らすことなく、体から炎が飛び散り全ての水刃を焼き尽くす。
アルセイスも一歩も動かず、一瞬体が光り輝き全ての水刃を消滅させる。
「俺達二人を相手にするのは、いくらおめぇが強い水の真甦を持っていても、無理だぜ。」
俺は双方の瞳が赤く輝き獰猛に睨みつける。
ソーンは白く透明な顔色を変えず、いきなり水蒸気爆発した。
BON!!
同時に回廊の窓を割り、逃亡をはかる。
「無駄だぜ!」俺は窓際を見た。
窓の外にはレィリア・アストネージュ武神将が細身両刃の剣を抜き放ち、ソーンめがけ精霊の力を借りて俺でも見切れない速度で切りかかる。
シュン!
ソーンの胴をレィリアの細剣が薙ぎ払った。
上半身と下半身に真っ二つに切り裂かれた。
っと、思ったがベルファム・ソーンは全身を水にして、レィリアの剣を透過させたのだった。
【火の民】5柱門・夷塚と同じ能力だ。
俺とアルセイスが追撃に行こうとすると、声がかかった。
「逃がさねぇ、、、よっと、っと、、、」
「待って、今は陛下とミハムを守る事を優先しよう」
俺の背後から気配もなく出てくる、リスティアード皇太子殿下。
「追わなくていいのか?」
俺が真っ赤に輝く双方の瞳で皇太子を見つめる。
「レィリア、どっちに逃げたかわかる?」リアードが美しい剣の達人に尋ねる。
「・・・・・・・・」
「既にアーセサスから出ました。向かった方向は西北、パヴロ聖王国かその向こうです。」
リスティアード皇太子殿下は「ありがとう、相手が誰で何処が敵なのかわかっただけでも良しとしよう。」
俺は普段の目つきの悪い粗野な男に戻り「敵はバングルなんちゃら国じゃねぇのか?」
皇太子は「残念ながら違うね、宮廷の脅威もなくなったし、今晩はもう遅いから明朝、みんな僕の執務室に集まってくれる?」
「大将がそう言うんなら、わかったぜ」
大剣を鞘に納め、踵を返し歩き出す。
俺は部屋に戻ると、銀麗の美しきシュシィス・スセインがまだ起きて、待っていた。
(もうほとんど公認の同棲生活だ、、、)
シュスは薄い色の肌着を着て、自然な動作で俺の着替えを手伝ってくれる。
(シュスは何も喋らない、、、、)
俺は部屋着に着替えて、椅子に腰かける。
そっと、暖かい葡萄酒が運ばれてくる。自然な振る舞いで器を俺に持たせてくれる。
そして、奥の自分の部屋に行き戻ってくると、初めて口を開いた。
「氷結の村より、やっと今日これが届きました。」
シュスが両手で持つそれは、、、
深紅の大剣だった。
シュスが「純度の高い【魔鉄】を使った、剣です。これをお使い下さいませ。」
俺は「見事な剣だな、、、」
今俺が使っている、大剣は16歳の時に戦場で拾った剣を使い込んでいる。
シュスが気を使って、用意してくれたものなのだろう、、、
俺は深紅の見事な装飾された鞘からゆっくりと剣を引き抜いた。
驚く事に剣も柄も全て深紅色だった。
剣にも見事な彫り物で装飾がされていた。
まさに【王】の剣である。
「これは、見事だな。しかも全く、重さを感じない聖剣みたいだ」
シュスは頬を朱に染め、
「ご報告したい事が、もう一つ、、、」
俺が剣を惚れ惚れ見ながら「ああ、なんだ?」とシュスを見ないで答える。
シュスが、
「お子を授かりました。」
「!!」
「ほんとか!すげぇな、俺にガキが出来るのか!」
俺は心底驚き、両眼を大きく開けて最愛のシュシィス・スセインを見る。
シュスは頬を赤く染めたまま「先ほど、感じました。私のお腹の中にランガードのお子がいる事を、、、」
思わず、シュスを抱きしめる。
「元気なガキを産んでくれ!男でも女でも、、、」
シュスはか細く「恐らく、双子だと思います、、、男の子と女の子の、、、」
「そんな事もわかんのかよ、すげぇな!」
俺は興奮しきって、シュスの両手を強く握っていた。
シュスは俺の目を見て「お願いがございます。」
俺は嬉しくって、嬉しくって「ああ、なんか欲しいもんでもあるのか?」
シュスは真剣な表情で俺の目を見て
「お子の顔を見る迄は、どうかいなくならないで下さいませ」
「・・・・・・」
何故か、言葉が出なかった、、、
そっと、優しく抱きしめる事しかできなかった。




