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BU・SI・N・SYO  作者: イ-401号
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領主たる者の覚悟

ツヴァイス・カーゼナル男爵は死の瀬戸際より立ち戻り、始めて人間らしさを取り戻したように、涙が瞳から溢れ出てくるのを止められなかった。


俺は見ない振りをして、暖かい水とお腹に優しそうな食べ物を作っていた、、、



10日もするとツヴァイスの傷はみるみる回復していき、右足を多少引きずりながら歩けるようにまでになっていた。


初めてあった頃とは別人の様に変貌(へんぼう)したツヴァイス・カーゼナル男爵であった。


瞳は生き生きと光り輝き、口を大きく開けて笑いながら顔の表情をころころと変えて話をする好青年(・・・)に変わっていた。


自ら川へ行き、水を汲み沸かして朝食の用意を足を引きずりながらも、頑張る姿は以前とはまるで別人の様な有様だった。


朝食の後、少しゆっくりしていると、ツヴァイス・カーゼナル男爵は自分の右足の服をめくり(みにく)い傷跡を俺に見せ

「この傷跡は、僕の勲章です。」


「この傷を見るたびに僕はランガード閣下の事を思い出し進むべく道を見失わないよう(いまし)めとします。」


「ああ、頑張れよ」俺は内心嬉しかったが、顔には出さず返事をする。


そんな時である。


一頭の体長50センチくらいの小さな子熊が草むらから出てきて、ツヴァイスの方に転がり出てくる。


ツヴァイスは笑顔で「かわいいなぁ、迷子かな?」


俺は一瞬で緊張した「待て、ツヴァイス!!」


次の瞬間、後ろ足で立ち上がり獰猛に雄叫(おたけ)びを上げる大虎熊が現われた。


体長2メートル以上ある大物だ。


俺は炎を出し、大虎熊の足元に投げつける。

炎の玉は爆発し火の粉をまき散らす。


しかし、大虎熊は(ひる)む事無く雄叫(おたけ)びを上げ、襲いかかってくる。


グワアアアアアアー!!


俺は躊躇(ちゅうちょ)せず、大虎熊の腹を(えぐ)る火炎球を打ち放つ。


ドサッン!!


腹に大きな風穴を開け、焦げ臭い臭いと共に大虎熊は後ろに倒れ込んだ。


ツヴァイスが驚きの表情で俺を見る。子熊を脇に抱えながら、、、


俺は分かる様に優しく話しかける

「普通、(けもの)は火を怖がるもんだ。」


「この大虎熊は俺の一発目の火炎玉の爆発にも恐れをなさずに俺達に向かってきた。」


「どういうことか分かるか?」


ツヴァイスは子熊を抱きかかえながら顔をブンブン振り

「全然わかりません」


俺は噛み砕くように言う

「こいつは【人】を喰った事があるんだよ!」


ツヴァイス「エッ!!」驚きに目が見開かれる。


「人間を(えさ)だと思うから、火を怖がらず襲ってきた。」


俺は表情を固めて

「親の大虎熊が人を喰っていて、その子熊が人を喰っていないと思うか?」


「・・・・・・・」


俺は子熊を抱きしめる男爵に向かって語り続ける。

「実はこの山は、お前のカーゼナル家が治める領地の中にある山だ」


「そこに人喰い熊がいたって事は、喰われたのはお前の領民の可能性が高い」


「そして、その子熊も直ぐにでかくなり【人】を、、、お前の領民を襲う事になる」


「領主として、お前が為すべき事は何だ?」


ツヴァイスは考え込む「・・・・・・・」


ランガードは一歩前に出て「俺が変わってやろうか?」


ツヴァイス・カーゼナル男爵は毅然(きぜん)と胸を張り

「その仕事は領主である僕の仕事です。」


「短剣をお借りできますか?」


俺は短剣を抜き、柄を男爵に向けて渡す。


無言でツヴァイスは短剣を受け取り、震える手で柄を握る。


見た目にはぬいぐるみの様に可愛らしい子熊が愛らしく、瞳をキラキラさせてツヴァイスを見る。


ツヴァイスは口をきつく引き結び、目を閉じないで自らの手で子熊の胸に短剣を突き立てる。


グサッ!!


流れ飛び散る子熊の血を顔に浴びながら、ツヴァイスは何も喋らない。


子熊の愛らしい瞳が濁り、体温が急激に冷たくなる。


そして、死んだ、、、


ツヴァイスは決意のこもった瞳でランガードを見て

「せめて、亡骸(なきがら)だけは、、、このままではいくら何でも、、、」


俺は感情を込めずに「ああ、俺に任せろ」


魔を滅する青い炎の剣を自らの手に作り出し(・・・・)大虎熊の親子共々、焼き払い灰塵(かいじん)に返す。


ツヴァイスは澄んだ空気の中を流れゆく灰を見つめて独り言の様に

「辛い事やきつい事、汚い事は責任者たる領主が率先して行わねば、民はついてきませんよね、、、」


俺も流れゆく灰を見ながら「そうだな」とだけ答える。



俺がツヴァイスに向き直り、「明日は家に帰るぞ」


「えっ!僕はまだ、ランガード閣下の教えを受けたいです。」


俺は微笑み、ツヴァイスを見て

「おめぇはもう大丈夫だよ、お前の中に真甦(まそ)が生まれた。」


「真甦は嘘をつかない、お前は大丈夫だ。」


「真甦、、、」ツヴァイスは不思議そうに俺を見る。


「俺が、炎を出すのは【炎の真甦】を持っているからなんだ、おめぇのは【土の真甦】だ、しっかり根を張り土地に生きる真甦だ」


「良い領主になれよ。」


「はい!!」目を輝かせ右足を引きずりながらも、軍人の様に俺に敬礼する。


「ははは、貴族様に敬礼は似合わねぇよ」俺は笑いながら右手で拳を作り軽くこつんとツヴァイスの胸を小突く。


思わず、二人で大声で笑い続ける、、、


「では、僕と閣下の関係はどうなるのでしょうか?上官でもないし、、、」


思わず照れ臭そうに俺は言う「友達で良いんじゃねぇか?」


ツヴァイスの目が嬉しそうに「友達、、、僕の初めての友達がランガード閣下なのは大変光栄です。」


にやりと笑いながら「俺は貴族の友達はお前で二人目だ」

(皇族にも厄介なのが一人いるがな、、、)


「右手を左胸にあてて、お前の真甦を具現化するよう心に念じて見ろ」


ツヴァイスはいわれた通りにして、一心に念じた。


3分ほどが経ち、右手に小さく四角い土の(かたまり)が現われた。


「そいつは真魂(まだま)って言うんだ、本当に信じられる奴や、家族とだけ交換するんだぞ」


「交換すると、お互いに遠く離れていても念を送ったり感じたりする事が出来るようになる」


「それを【真魂交神】というんだ」


俺は自分の真魂を右手に取り出しツヴァイスに見せる。


轟々と空気も揺るがす、明るく大きな炎の(かたまり)


ツヴァイスが「凄い、、、」感嘆のつぶやきを吐く。


俺の真魂をツヴァイスの右胸にそっとあてる。溶け込むように体の中に溶けて入っていく。


「物凄く、激しく、暖かい、、、」思わず言葉が漏れる、、


「お前の真魂を俺の胸にあてろ」


ツヴァイスは自分の右腕に乗っている土の塊を見る。


俺はツヴァイスの真魂を見ながら「俺と真魂交神するって事は、おめぇがでたらめな統治をしたり悪さをしたら、俺がおめぇをぶん殴りに行くって事だからな」


ツヴァイスは微笑みながら、自分の真魂を右手に持って、俺の右胸に優しく触れる。

「それじゃ、閣下と会いたくなったら、悪さすればよいのですね」


「そうじゃねぇだろが、それにな私事の時は俺の事はランガードでいいぜ」


「ありがとうございます。ランガードさん。」

満面の笑みで答える、ツヴァイス・カーゼナル男爵。


初めて会った時とはまるで別人になっていた。


翌朝、一月ばかり過ごした洞窟を後にして、カーゼナル家迄ツヴァイスを連れて飛んだ。


家令達が慌てて、ツヴァイス・カーゼナル男爵を出迎える支度をする。


俺はツヴァイスを連れて、カーゼナル男爵家の庭に着地する。家令は皆、こわごわと頭を下げ当主を迎える。


ツヴァイスが皆に聞こえるように大声で

「みんな、今まで辛い思いをさせてごめんなさい!!」


腰を90度に曲げて、執事から家政婦、庭師、警備の者達全員に向けて謝罪を口にして、一人ずつと握手しながらこれまでの事を謝罪する。


真っ黒に日焼けした、顔と(たくま)しく筋肉が付いた体格、何よりも以前と違うのはツヴァイス本人から流れ出る雰囲気、以前は【陰】の要素が強く感じられていたが、今では【陽】の和やかな空気が体から溢れ出ていた。


呆気にとられる、家令の人達、、、


奥からオラクル老貴族が杖を突きながら矍鑠(かくしゃく)と現われる、、、その眼にはキラリと光るものが、流れ落ちていた、、、


「立派な(おとこ)になりましたな、ツヴァイス。」


「おじい様、散々ご心配をおかけしまして申し訳ありませんでした。これからは新しい人生を胸を張って生きたいと思います。」にっこり微笑む黒く日焼けした肌がとても(たくま)しく、好感の持てる青年の顔だった。


「ランガード武神将閣下、ま、誠に感謝の仕様がございませぬ、、、こ、言葉が見つかりませぬ、、、」ついに泣き崩れる、老貴族だった。


俺はふと婚約者のシュシィス・スセインや仲間達と会いたくなり、引き留めるオラクル老貴族やツヴァイス男爵を後に、黒曜天宮に戻った。


(リューイ、俺だ、帰ったぞ)


(おかえりなさい。お疲れ様です。)


真魂交神で話す。


黒曜天宮正門前広場にはリューイを始め、【火の民】、不死鳥騎士団員、そしてひと際目立つ銀麗の美女【氷結の女王】シュシィス・スセインが皆、手を振り俺を出迎えてくれた。

(多分、リューイが集めてくれたんだな、、、)


俺の顔を見て、走り駆け寄ってくるシュシィス・スセインの姿がまるで天使の様で、優雅に舞っているよう見える。


二人は真昼間の黒曜天宮正門広場の真ん中できつく抱きしめあい、お互いを感じあい、口付けをかわす。


「おかえりなさいませ、ランガードお会いしたかったです。」


「俺もだシュス。」


人目もはばからず、愛を語り合い体全体で精一杯表現する。


リューイが「みんな、今日は許してあげましょうね」

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