波乱の帝国軍法査問会
命令無視をした、嵐・守護は査問会に引き出されて、思わぬ人物たちと出会う。
その部屋は30名も入れば一杯になってしまうような、こじんまりとした部屋だった。
前方に3人の偉そうな格好をした、壮年の男達。
後方は柵で区切られており、傍聴席みたいだ。
そうここはアースウェイグ帝国軍本部にある帝国軍法査問会の一室である。
そして主役は俺、嵐・守護両手に手錠をはめられ武装をすべて解除されて、被告席らしきところに立たされている。
そして証人席にはあのベッグ隊長が座っていた。
前方に偉そうに座っている3人は、軍務裁判官らしい
「それでは、帝国軍軍務法廷を開始するものとする。」
ガチャ
後方の傍聴席の扉が開き2人の男女が入室してきた。
男は上から下まですべて、真っ黒の装いで年の頃は25歳くらい、身長は俺と同じか少し小さいくらい。
まぁ、嵐・守護が195センチとでかすぎるのだ。
女の方は真逆で真っ白の鎧を装った麗人の様な美しい女性で年の頃は20歳代前半だろうと思われた。
金髪が見事で肩迄まっすぐ伸びているのが特徴的だった。
二人とも、騎士。それもかなり地位の高い者なのだろうとは裁判官の様子を見ていてわかった。
「こほん、それでは始めます。」
「告発人、ベッグ・マルム傭兵隊長、発言を」
中年太りの小柄な男が、態度だけは偉そうに威厳を保つように必死に話し始めた。
「我部隊は、作戦任務を成功させ、帰還するところでした。しかし、そこの赤い髪の男、失礼、嵐・守護他1名が、帰還命令を無視して勝手な行動をとり部隊を壊滅の危機に落とし入れました。」
「吾輩の見事な指揮のもと、全滅は免れ被害もほとんど無かったからよかったものの、普通の指揮官なら全滅の所でした」
中央の裁判官が俺に声をかけてくる。
「被告人、嵐・守護釈明はあるか?」
「そこのデブ、おっと失礼、隊長殿の命令を無視したのは事実です。」
ベッグ隊長の顔が赤く膨れる。
再度裁判官が尋ねてくる。
「もう1名と言うが、その者はどうしたのだ?」
「消えました。」
「貴官は当査問会を侮辱するのかね?」
「事実だぜ。」
「・・・・」
「質問を変えましょう」別の裁判官が発言する。
「君は何故、ベッグ隊長の命令を無視したのかね?」
俺は普通に答えてるんだが、どうも良い印象にならない。
「山賊の残党が、逃げる時に偶然通りかかった民間の荷馬車を襲撃しようとしやがったんで、〆に行ってやりました。」
「その時、君ははっきりと命令を無視すると隊長に伝えたと調書にあるが、本当かね?」
「本当だ」
「君は民間人を助けるために命令を無視したという事かな」
「裁判官!そいつは私の命令を公然と無視して、部隊を全滅の危機に落とし込んだんですよ」唾を飛ばしながら、必死に喋るベッグ隊長
「ベッグ隊長、少し黙っていてくれるかね」
「ぐぅ、し、しかし、、、」
再度、裁判官が質問してくる。
「もし、君たちの勝手な行動の為に部隊が全滅の危機に陥っていたらどうするところだったのかな」
俺は答える。
「あんな弱っちい、相手じゃありえねぇな」
「それに間違った、命令には従えねぇな」
ベッグが興奮しきった顔で口をはさむ。
「我部隊に与えられた命令は、山賊首領の捕縛又は殺害だった、任務は達成していたんだ!どこが間違っているというんだ!」
俺は目を細めてベッグ隊長を見ながら言う
「襲われた民間の隊商の中にあんたの妻や子供がいても同じ命令を出せたのか?」
「ぐっう、う」
ベッグ隊長は言葉に詰まる。
「こほん」裁判官が話を引き戻す。
「君は見ただけで、相手が強いかどうか判断がつくというのかね?」
「ああわかるぜ」
「後ろにいる、白い鎧を着たねぇちゃんか黒装束のイケメンのどっちか1人でも敵にいたら、隊長の言うように即時撤退していたな」
ガチャ前方の扉が開き背の高い男が入ってきた。
「僕だったら、どうかな?」
「「「「!!」」」」
ザッ!!
裁判官も含めたそこにいる全員が片膝を床につけ膝まづく
「リスティアード皇太子殿下!!」
豪奢な金髪で身長は嵐・守護より高く、端正な顔立ちには気品がある。
アースウェイグ帝国皇位継承権第一位の
リスティアード・ローベルム・アルヴェス・アースウェイグ皇太子殿下
ひとり、嵐・守護だけが赤い髪を逆立て顎をしっかり上げて立ったまま、堂々と男と向き合った。
「あんたが相手だったら、戦う前に地の果てまで逃げて、一生出会わない事を神様にでも祈るぜ」
裁判官の一人が叱責してくる
「貴様、無礼であるぞ跪かぬか」
皇太子が優しく微笑みながら言う。
「かまわないよ、勝手に来たのは僕の方だから」
「ここ借りていいかな?」
椅子を持ち出し裁判官の横に座る。
「さっ、続きを始めよう、皆もいつも通りにしてかまわないよ」
裁判官の1人が、気を取り直して話始める。
「き、君が敵の強さを把握できるという事はわかった。また、民間人を救出するために命令を無視したことも理解した。」
「だが、軍人が上官の命令を無視することが許されるとしたら、それは只の暴力になってしまう。」
「規律と誇りがあるから、軍人は軍人足られる」
「そいつはどうかな?」
嵐・守護が獰猛に笑う
「軍人なんざ、只の人殺しだぜ。」
「よっぽど田畑を耕して作物を作ったり、鍛冶屋や大工職人達の方が、朝から晩まで働いて物を作っている方が偉いと俺は思うぜ」
「唯一、軍人の役割なんてのは、そういう物を作る民を外敵から守ることぐらいだろ」
「働かないで、人殺しを職業としているんだから、せめてまじめに働いてる民達は守ってやらないでどうすんだ?」
裁判官は冷静に冷たく言う。
「貴官の軍人に対する定義は置いておくとして、命令違反は事実であるな」
裁判官が話を切り上げるように言ってくる。
「命令が間違っていなければな。」
「竜・威」
突然、嵐・守護の右に竜・威が小男の首根っこを捕まえて忽然と焦げ臭い臭いと共に現れた。
捕まれた小男の洋服は所々焦げて焼けていた。
竜・威が話し始める。
「僕が命令無視した、片割れです。そしてこの小男が全部喋ってくれました」
「この男は山賊の残党の1人です。」
「ベッグ隊長に金銭を渡し、山賊の首領を殺させたそうです。」
「代わって自分が首領になり、今後奪った金銭の半分をベッグ隊長に払い、その見返りとして、取り締まりから逃げるという約束だったそうです」
ベッグ隊長が顔中から噴き出る汗をかき乱しながら
「う、嘘だ、そいつは嘘をついている!それにそんな奴は見たこともない!」
裁判官3人が顔を見合わせる。
「その山賊の残党をこちらで取り調べ、ベッグ隊長の件は改めて査問します。」
「衛兵、2人を連れて行きなさい」
扉が開き屈強そうな衛兵が4人入ってきてベッグと残党を連行する。
裁判官が改めて、嵐・守護を見て、
「貴官のしたことは正しい行いであったろう、だが軍記に照らすと上官の命令違反はげんば、」
「こほん」
裁判官の横にいる皇太子が咳をする。
「げ、厳罰にするところだが、こ、今回はばっき、、」
「こほん」
また、皇太子が咳をする。
裁判官の顔から汗がつたう、、、
「ば、罰金としても良い所だが、特別に皇宮大浴場の掃除を2名に命ずる」
「うん、そんなとこだね」
皇太子がにっこり笑う
裁判官がほっとした声で
「それでは、これにて査問会は閉廷とする。」
リスティアード皇太子殿下と裁判官3人は部屋から退出して言った。
残ったのは嵐・守護と竜・威と黒白装束の男女合わせて4人。
竜・威が心の中で叫ぶ
(精霊女王様に、黒鉄の黒騎士様、、、)
(あのお方は、、、)
珍しくかなり激しく動揺している竜・威である。
始めに白い鎧を装着した麗人のような美しい金髪の美女騎士が話しかけてくる。
「あなだが嵐・守護殿ですね」
「私はレィリア・アストネージュです。弟が大変お世話になったそうで感謝いたします。」
声も透き通るような凛としていた。
嵐・守護の目が輝き話しかける
「あんた、ミハムのねぇちゃんか」
「ミハムはどうしてる?元気か?無事にここに着いたか?」
にこりと微笑む顔がとても魅力的な女騎士である。
「ええ、あなたのおかげで無事元気にしております。」
「そうか、そりゃ良かった」
「よろしければ、私の事はレィリアとお呼び下さい。」
「わかった、俺の事は、嵐でいいぜ」
黒装束の切れ長の目をした、男が話しかけてきた。
「私はアルセイス・アスティア・アグシス」
低い冷淡な声で名を告げた。
嵐が「アルセイス、、、」
「そうか、あんたがビルさんの言っていた、今の【剣聖】アルセイスか」
アルセイスがスッと切れ長の目を細めて
「ビルとは、ビル・ヘイム卿の事か」
「ああ、そうだぜ、ヴォルグス砦で剣の指南を受けたんだよ」
「その時、あんたの事も聞いた。」
「そうか」アルセイスは多くを語らない。
2人はそのまま踵を返して、部屋から出て行った。
竜・威だけが興奮冷めやらぬ様にぶつぶつと珍しく独り言を繰り返していた。




